日本人はスパイを知らない…元捜査官・坂東忠信氏が語る諜報工作の意外な手口

2023/06/19
更新: 2023/06/19

国立研究所・産業技術総合研究所から研究データを漏洩させた事件で、警視庁公安部は15日、中国籍の上席研究員・権恒道容疑者を逮捕した。世界各国で中国共産党スパイが摘発されるなか、元警視庁捜査官の坂東忠信氏は情報工作の手口を紹介するとともに、スパイ防止法制定の必要性を訴えた。

対策しなければ餌食に…

権恒道容疑者をめぐっては、2018年に「フッ素化合物」に関する情報を中国企業にメールで送信し、産総研の営業秘密を漏えいした疑いが持たれている。産経新聞などの報道によると、研究データを受け取った中国・北京の化学製品製造会社は約1週間後に中国で特許を申請し、2020年6月までに取得していたことがわかった。

権恒道容疑者が中国の「国防7校」で教職を兼任していたことも問題となった。「国防7校」は中国軍との関係が強く、兵器開発を行っていることから、2020年に米国の制裁リスト入りしている。

元警視庁捜査官でスパイ活動に詳しい坂東忠信氏はエポックタイムズの取材に対し、「実態としては国防7校と一緒に研究開発をやっているようなところがたくさんあるのではないか」と懸念を示した。研究所に対するスパイ行為は過去にも前例があるとし、「一つ二つの例ではなくて、かなりの確率でそういうものがあちこちの研究所で発生している可能性がある」と指摘した。

「中国と世界の関係がものすごい勢いで変化している」と坂東氏。「変化のスピードに対応して対策を取れる政府でないと、これからの日本は世界のどこでも餌食になってしまう」。

進化するスパイ工作

容姿端麗で頭脳明晰ー。ハリウッド映画で描かれるようなスパイ像を日本人は考えがちだ。しかし、現実は異なる。本人さえも知らぬ間に情報工作に加わっているような状況だと坂東氏は語る。操られた当人も認知してないため、「顔にも現れません」となる。

坂東氏はスパイ工作の一つの手段としては、「ターゲットに一番近いところにいる中国人にまず接触し、信頼関係を作る。そして『最近どんな研究してるの?』といった雑談の中から必要な情報を聞き出す」方法がしばしば使われていると話す。また、中身は何か言わないで「このUSBをちょっと差すだけやってくれれば、あとは何もしなくて大丈夫だから」というような手法もあるという。

もっとも、情報化が進んだ今日では、コストが高くリスクも大きい工作員ではなく、IT技術を駆使した手法も多々使われているという。

スパイはコスパがいい?

中国共産党がスパイを活用する理由の一つに「コストカット」があると坂東氏は指摘する。

「10年くらい前に見た資料によると、1から研究開発する場合と、既製品を入手して開発する場合とを比べた場合、後者のほうが8割ほどコストカットできるという。研究費用の上乗せがない分、安く製品化できため、真面目に開発してきた側との価格競争で勝てる」。

技術立国の日本はどう対策すべきか。坂東氏は「まずスパイ防止法を作らないとダメだ」と強調する。「スパイ防止法に限らず、このような問題を切実な問題だと感じた有権者が、一人ひとり真剣に考えなければならない。選挙も真剣に投票しないとスパイ防止法できない」。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。