多様性、LGBT…「キラキラ」重視で混乱する杉並区は日本の縮図

2023/06/15
更新: 2023/06/15

東京都杉並区がおかしい。今年6月に発生した善福寺川の洪水をめぐり、岸本聡子区長と区に対して住民の安全を重視していないといった批判が相次いでいる。議会も怒号が飛び交うなど混乱している。一方で岸本氏は人権問題の取り組みには熱心だ。「問題解決の優先順位を間違えると大損する」。日本各地で見られるこの現象が、杉並区で起きている。

水害の情報はどこ?

経済エッセイで、東京の一地域をテーマにすることに違和感を抱かれるかもしれない。しかし、これは日本のどこでも起こっている光景だ。考える材料とするために杉並区の現状を紹介しよう。

6月1日から2日にかけて日本を直撃した台風2号と梅雨によって、全国で風水害の被害があった。杉並区を流れる善福寺川が溢れ、一部地域が冠水した。

渡辺ふじお杉並区議会議員の投稿(スクリーンショット)

ところが岸本氏のSNSのツイッターには水害情報、被災者へのお見舞いや感想はなかった。水害の起こった1日のツイートは「性の多様性」についてのものだった。

そして6月8日にようやく冠水への言及をした。この日まで、被災者へのお見舞いの言葉はなく、災害の詳細の広報もなかった。また岸本氏のツイートは、杉並区防災課のコメントと同一だったことから、批判がさらに広がった。

もちろんツイッターが区長の活動の全てではない。しかし災害対応と政治的主張との温度差は目立ってしまう。岸本氏は後述するように、杉並区議会議員選挙への介入を行い、その際には選挙支援のために1日3〜4件をツイートしていた。

トップの無関心のためか、杉並区の広報にも問題が現れている。杉並区のウェブサイトは行政によくある「迷路」のようになっているうえ、水害の詳細を伝えていない。ツイッターとサイトで、8日になって冠水があったことを認め、災害補償金の説明をしたのみだ。

善福寺川は2005年に1000戸ほどが床上浸水した。当時の杉並区長だった山田宏参議院議員は夜を徹して被災状況を確認し、その後は治水対策の充実を東京都と区に要請した。私はツイッター上で山田氏に「無念でしょう」と話しかけると、次のような返事が返ってきた。

「リーダーの最も大事な責務は、どんな小さな危機に対しても、あらゆる対応を自らの責任で実施し住民の安全を守り抜くこと」。

山田氏は現職政治家であり、紳士であるため、激しい批判はしない。しかし、文面からは、悲しさと怒りが滲み出ている。

杉並区は問題が山積

和田堀公園と善福寺川、川幅は細い。23年2月筆者撮影

この他にも、杉並区は最近トラブルが頻発している。今年4月に、杉並区内のある小学校の校庭で生徒が釘で大けがをした。かつて備品を取り付けたところに打たれたもので、他の学校にもあった。岸本氏への報告と広報は遅れ、発生から1か月以上経過していた。今、全学校で取り除く作業中という。

今年6月にはサイバー攻撃で、関連機関から学童保育などの情報が漏洩した。また同月に杉並区の保健所が、今年初頭に使用期限切れの新型コロナワクチンを区民に打ったことが発覚し、区はお詫びと検診を行なっている。さらに前区長の公約した区の重要設備の廃止や統合について、岸本氏はそれを選挙で批判したのに、対案を今でも明確に示せないでいる。

岸本氏はこうしたトラブルを謝罪することも、再発防止策を積極的に打ち出すこともない。

キラキラ多数 見えない防災

2022年6月の区長選では、共産党、立憲民主党の支援を受け、旧民主党系の前市長を破り当選した。前区長のパワハラ、強権的運営を支持者の左派議員が批判し、保守系も出馬して分裂選挙になった。そして180票差の僅差で勝った。彼女の前歴は市民活動家で、オランダのNGO職員だったが、行政の実務経験はない。

もともと杉並区は市民運動と左派の政治勢力が強い。彼女はいくつかの市民団体から推薦された。東京新聞が選挙中から彼女に「民主主義を守る女性候補」などと取り上げ、エールを送った。朝日、毎日新聞も追随した。もはや「論壇」など、日本の社会に影響力がなくなっているが、女性文化人が、そろって彼女を支持した。

就任からまもなくして、岸本氏は、人権、性の多様性、気候変動など、区レベルで必要なのか首を傾げたくなるような政策を発表してきた。区議会は反発した。しかし、岸本氏は先鋭化を強めた。たいてい区レベルの首長は、議会とのトラブルを避けるため中立色を強めるが、岸本氏は、選挙や政策を見越して議会で自派を作った。

岸本氏は今年5月の統一地方選では、共産党や無所属など、党派を超えて女性の特定議員の選挙を支援した。区長派は少し増えたが、区長の与党は過半数を超えられない。6月に開催中の区議会では、岸本氏と一部議員が対立している。区長が議員の質問を人権侵害だと述べたり、区議と区長支持者が議場で言い合いになったりして、議場が混乱する様子がSNSで拡散している。

そして今回の水害だ。LGBTや人権問題のような左派好みのキラキラした政策よりも、大多数の区民にとっては防災・治水など、自分の安全に関わる政策の方が必要だ。批判が強まるのは当然だろう。杉並区の人々、そして特にその分野で責任を負う岸本氏と行政組織としての杉並区は、優先順位の付け方を間違えている。

杉並区の失敗は日本の縮図

この杉並区の奇妙さは、日本全体にも当てはまる。国レベルでしかできない重要問題は日本に山積する。安全保障と経済振興、税制は特にそうだろう。ところが日本国民が今、開催中の国会では、一部の国会議員が、そんな急いでする必要もないLGBTや同性婚の問題に熱を上げている。そして国会の重要な議題になっている。とても不思議だ。

社会問題解決の優先順位の中で、日本では経済や社会システムのあり方という地味で対応が大変であっても必要な政策に対して、なかなか関心を持たれない。改革が遅れている。日本は一人当たりGDPが1990年代の世界2位から現在の30位に転落した。必要な改革を放置したためだろう。

もちろん、何が大切かは人それぞれだが、誰もが関心を防災や税など、大切なことに国も社会も関心を向けてほしい。そして社会問題解決の優先順位を慎重に見極めるべきだ。掛け声と書類上の「人権」では、ご飯は食べられず、生活の安全も確保できないのだ。無駄な争いは国を衰退させるだけだ。

寄稿文は寄稿者の論考であり、エポックタイムズの見解を代表するものではありません。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。