トランプ氏起訴、共和党内で賛否割れるも…大統領選に「追い風」専門家

2023/06/14
更新: 2023/06/14

トランプ前米大統領が機密文書持ち出し問題などで起訴されたことで、2024年の次期大統領選はより混迷が深まったレースとなる見通しだ。

8日に米司法省がトランプ氏を起訴すると発表した翌日、親トランプ派と反トランプ派がそれぞれ予想通りの立ち回りを見せた。

こうしたなか、共和党の2024年大統領選候補者は、指名争いの「最大のライバル」を個人攻撃するか、またはトランプ氏の熱烈な支持者らを刺激しない慎重な対応に出るかという選択を迫られた。

論争に慣れているトランプ氏だが、今回の起訴は追い風にも逆風にもなりそうだ。

訴追は追い風か、逆風か

ある政治戦略家らは、今回の起訴による選挙戦への影響は限定的で、むしろトランプ氏に追い風となる可能性があるとみている。しかし、トランプ氏の行動日程や機密文書持ち出し問題について公に釈明する機会が制限される可能性もあるというマイナス面も存在するとしている。

法律・政治アナリストのアンドリュー・リーブ氏はエポックタイムズに対し、今回の起訴は「トランプ氏にとって、資金調達および基盤の引き締めに最適な手段となる」との見方を示した。

「実際、我々がこの起訴について知ったのも、トランプ大統領が我々に明かし、その後彼のスーパーPAC(特別政治行動委員会)が我々に告げたからだ」とした。

しかし、「全体的な見方としては、裁判官、特に連邦最高裁判事はトランプ氏がどのような義務を負っているかなど気にも留めないので、非常に大きな混乱が生じるだろう」とし、「つまり、トランプ氏は彼らの行動日程に合わせて動く必要がある。また、秘密保持命令が発令される可能性が高い」と分析した。

秘密保持命令が発令されれば、トランプ氏によるソーシャルメディア上での情報公開が制限される可能性がある。

政治戦略家でオーガナイザーのアマニ・ウェルズ・オニオハ氏は、短期的には今回の起訴がトランプ氏への支持を損なう可能性は低いとみている。

「我々はほぼ毎日、トランプ氏の疑惑をめぐるニュースで見てきた。歴代の大統領経験者で初めて刑事訴追の対象となったが、依然世論調査では大差でリードしている」 とエポックタイムズに語った。

「たとえ彼が起訴され、刑務所に収監されたとしても、理論的にはまだ我々の大統領になることができる」としたうえで、「これらを踏まえると、トランプ氏は2024年に向けた選挙活動を継続すると予想され、彼の支持率が大幅に低下する可能性は低い」と分析した。

同調か批判か、割れるライバル候補

共和党内では、起訴の正当性に疑義を呈する声が出ている。

ジョシュ・ホーリー上院議員は、「ジョー・バイデンは司法省を利用して…今夜、政敵トップのトランプを起訴した。彼は私益のために法の支配を踏みにじり、国を深刻な危機に導いた」とツイッターに投稿した。

ビル・ハガティ上院議員も、「米国司法制度の二重構造が全面的に表れている」とツイート。「バイデン政権下の司法省は、バイデン大統領とその家族への捜査を葬り去る一方で、彼の政敵を起訴している。米国を『バナナ共和国』(政情不安で腐敗した小国)のように見せるのは、非常に無責任だ」とバイデン政権の対応を批判した。

マイク・ペンス前副大統領もトランプ氏起訴に言及。9日のラジオ番組「ヒュー・ヒューイット・ショー」のインタビューで、起訴は「国を深刻に分断させる恐れがある」と懸念を示した。

2024年米大統領選の共和党候補指名を争うライバル候補の間では、批判の矛先が異なっている。トランプ氏は最大のライバルに当たるものの、ライバル候補はトランプ氏への批判により同氏の支持層からの反発を買うことを警戒している。

しかし、そのリスクを負うことを厭わない候補者が2人いる。

ニュージャージー州のクリス・クリスティー前知事は、トランプ氏をめぐる法的な問題は「自ら招いた怪我」で大統領候補としては不適格だと述べた。

2022年12月4日、テキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで行われたインディアナポリス・コルツ対ダラス・カウボーイズの試合を観戦する元ニュージャージー州知事クリス・クリスティ(Photo by Richard Rodriguez/Getty Images)

クリスティー氏は、9日に放送されたFOXニュースのインタビューで「文書を返却して、こんなことはやめてしまえ」と述べ、「なぜ、いつもネガティブな注目の的でなければならないのか。なぜいつも怒らなければならないのか。そして、それらはドナルド・トランプがやったことだ」とトランプ氏を強烈に非難した。

また、今回の起訴について「ドナルド・トランプが11月の大統領選で当選した場合、その重みを背負うことになる。そして、なぜ我々はそのリスクを負おうとするのか」と述べた。

アーカンソー州のエイサ・ハッチンソン前知事は、8日の声明で「憲法に対する故意の無視から法の支配への軽視に至るまでのドナルド・トランプの行動は、我々の国や共和党を定義するものではない」としたうえで、「ドナルド・トランプが職責を尊重し、選挙戦から退く必要性を再確認するものだ」と述べた。

いっぽう、他の候補者らはトランプ氏への個人攻撃は控え、バイデン政権および司法制度の対応を批判している。

2022年11月8日にフロリダ州タンパのコンベンションセンターで講演するロン・デサンティス氏(Photo by GIORGIO VIERA/AFP via Getty Images)

フロリダ州知事ロン・デサンティスは、支持率でトランプ氏とのリードを許している状況だが、最有力候補への批判は控えたようだ。

「連邦法執行機関の武器化は、自由社会にとって致命的な脅威だ。我々は長年、所属政党によって法の適用が不平等であることを目の当たりにしてきた」。

「トランプ氏への追及には熱心だが、なぜヒラリーやハンターに対しては消極的なのか」とし、当選した場合には司法省の説明責任を追及するとツイッター上で表明した。

トランプ前米政権下で国連大使を務めた前サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー氏も、司法制度を批判した。

「我が国の正義はこうあるべきでない」とツイート。「米国民は、検察の過剰捜査、二重基準、怨念渦巻く政治に疲弊している。終わりのないドラマや妨げを乗り越える時期が来た」と訴えた。

このようにライバル候補がトランプ氏への批判を控えたことについて、法律・政治アナリストのリーブ氏は「ミス」だと指摘した。

「他の共和党候補の弱さが浮き彫りになっている」と分析。そのうえで、「トランプは追い込まれる。彼は今倒れているのに、なぜ彼を踏み潰さないのか。他の共和党候補は自身がアルファ(トランプ氏)に次ぐ存在であることを自称している。彼らは彼のベータ(トランプ氏の二番手)なのだ」との考えを示した。

磐石な支持基盤を持つトランプ氏は、予備選挙で勝利する可能性は高いものの、大統領選挙は予想できない状況だとリーブ氏は言う。このため、他の共和党候補は党内の浮動票を取り込むチャンスがあるとした。

オニヨハ氏も、「今回の起訴でトランプが受けると思われる最大の打撃は、共和党の浮動票を失うことだ」と語った。

2016年と重なる様相

皮肉にも、トランプ氏への容疑は、2016年の米大統領選での民主党の指名候補ヒラリー・クリントン元国務長官による私用電子メールサーバー使用問題と類似している。双方とも機密情報取り扱いの誤りが問題視されていた。

クリントン氏は国務省在職中に私用の電子メールサーバーを使用していた。国務省内の電子メールサーバーの低性能が理由だとし、クリントン氏が使用したものは前任者らが使っていた私用の電子メールサーバーだと主張した。

2023年5月5日にワシントンで開催されたバイタル・ヴォイス・グローバル・フェスティバルのパネルで講演するヒラリー・クリントン元米国務長官(Madalina Vasiliu/The Epoch Times)

私用メール問題について、トランプ氏らはよく言えば不注意、悪く言えば犯罪と捉えている。クリントン氏の行為は、ハッカーによる政府文書へのアクセスのリスクを招き、機密資料の不適切な取り扱いは違法である可能性があると指摘されていた。

当時、トランプ氏の支持者らの集会でクリントン氏は「ひねくれヒラリー(Crooked Hillary)」「ヒラリーを投獄せよ!(Lock Her Up!)」と呼ばれていた。

米連邦捜査局(FBI)は2015年7月、クリントン氏の私用メール問題を巡り捜査を開始。翌年、当時のFBI長官ジェームズ・コミー氏は「訴追しない」と判断した。

しかし、2016年10月28日、クリントン氏の私用メール問題で新たなメールが見つかったとしてFBIが捜査を再開。捜査再開前は、クリントン氏は全米の世論調査でトランプを5.9%リードしていたが、捜査1週間後、トランプ氏との差は3%縮まった。

その後の再捜査の結果、FBIは私用メール問題でクリントン氏を「訴追せず」と判断している。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
エポックタイムズの政治記者