【寄稿】中国大使暴言…核攻撃論の裏打ちか 問われる日米同盟の真価

2023/05/13
更新: 2023/12/02

中国大使の暴言

中国の呉江浩駐日大使は4月28日、都内の日本記者クラブで着任後初の記者会見に臨んだ。現在の日中関係について「重大な岐路に立っている」と厳しい認識を示した後、暴言としか思えない発言が飛び出した。「台湾有事は日本有事」との見方では「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と述べたのである。

2021年7月5日に麻生太郎副総理・財務相(当時)が都内の講演会で「中国が台湾に侵攻すれば(日本にとって)存立危機事態」と発言した。つまり台湾有事に自衛隊の介入があり得ると示唆したのだ。

6日後、中国の動画投稿サイトに中国人民解放軍の軍事演習の動画とともに「我々が台湾を解放させる際に、日本が武力介入すれば、我々は最初から核爆弾を連続的に使用し、日本が無条件降伏するまで使う」と言う趣旨のナレーションが流れた。

中国のネットでは中国政府の意に沿わない投稿は即座に削除されるが、この投稿は削除されなかったことから、中国政府が黙認したと見てよい。そして呉駐日大使は、この見解を公式に裏打ちしたわけだ。

米国の中距離核ミサイル

トランプ政権時代の2019年8月2日、米露の中距離核戦力全廃条約(INF)が失効した。翌日エスパー米国防長官は、「中国に対抗してアジアに中距離ミサイルを配備する」と明言した。

もともとトランプ政権がINF条約を延長せず、事実上破棄したのは、台湾防衛のためだ。中距離核ミサイルを配備、拡充している中国に対抗するためだ。

台湾に最も近い米軍基地は沖縄にある。従って台湾有事に際しては沖縄から米軍は出撃することになる。中国はそれを阻止するべく中距離核ミサイルを配備、拡充している。これを抑止するためには沖縄を含む在日米軍基地に同レベルの中距離核ミサイルを配備するのが一番いい。

エスパー長官はアジアのどこに配備するか明言を避けたが、念頭に日本があったのは間違いない。

安全保障に精通し、米国とも密に連絡を取っていた安倍総理(当時)はこうした米国の意向を当然知っていただろう。総理を退任後の2021年12月には、「台湾有事は日本有事」と明言し、翌22年2月には「米国との核シェアリングについて国内でも議論すべき」とテレビ番組で発言した。

いうまでもなく日本は核拡散防止条約に加盟しており、独自の核兵器を持つことは許されない。しかし米国の核兵器を持ち込み、これを日米で共同管理することはできる。これが核シェアリング(核共有)である。

だが日本には非核三原則すなわち「持たず、作らず、持ち込ませず」があり、米国の核兵器持ち込みは原則として拒否する姿勢を歴代政権は示してきた。従って非核三原則を見直さない限り、核シェアリングは不可能なのである。つまり安倍元総理の「核シェアリングについて国内でも議論すべき」と言う発言は、非核三原則見直しを意味しよう。

ところが翌3月に岸田総理は、「核共有は、非核三原則と相いれず、考えない」と国会で答弁し、核シェアリングを拒否したのである。

日米の対応

前述の様に「台湾有事は日本有事」と最初に言ったのは安倍元総理だが、だからといって中国が台湾に侵攻した場合に、直ちに自衛隊を台湾に派遣できるわけではない。日本は安倍政権時代に集団的自衛権の一部容認に踏み切ったが、それでも海外に派兵できる訳ではないのだ。

それでは米国は台湾有事に際して米軍を台湾に派遣するかと言えば、米国は明言を避けている。米国は集団的自衛権を100%行使できる訳だから、台湾に派兵するなど、いとも容易(たやす)く出来ると思われようが、バイデン大統領の言動は、むしろ否定的なのである。

2021年8月に米軍はアフガニスタンを見捨てて、同地から撤退した。あの無様な撤退ぶりをご記憶の方も多かろう。だが、あのときバイデン氏は「アフガン国軍が戦う気がない戦争で、米兵が戦死してはならない」と言ったのだ。

これをそのまま、台湾に当てはめると台湾国軍が戦う気がない戦争に米国が派兵する訳にいかなくなろう。

これに加えて、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻に対する米国の対応だ。バイデン氏は、「ウクライナに米軍を派遣すれば、ロシア軍と米軍が戦闘になり、核戦争に発展する可能性がある」という理由で米軍派遣を見合わせた。

ならば、台湾についても同じ事が言えることになろう。中国が台湾に侵攻した場合、米国が台湾に米軍を派遣すれば、中国軍と米軍が戦闘することになり、それは米中核戦争に発展する可能性がある。この理屈で言えば米国は台湾に米軍を派遣しないことになろう。

バイデン大統領は「米国は台湾を防衛するか?」との質問に対して、何度も「イエス」と答えているが、その都度、米政府高官が、「米国の対中政策に変更はない」と修正している。米国の台湾関係法では、米国は台湾に武器供与できるだけで、直接介入について言及していない。上記の言動を考え合わせると、バイデン大統領の台湾防衛策は、武器供与に留まることは明白なのである。

つまり日本も米国も中台紛争に際して、直接介入はできないのである。

つづく

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。