コロナ後遺症による「こころの問題」二大原因を解くカギとは?

2023/05/02
更新: 2023/05/02

「もし私が全てのコロナ後遺症患者から症状をひとつ取り除けるとしたら、うつ病を取り除く」。

こう述べるのは、医師のジョセフ・ヴァロン氏です。彼はヒューストンのユナイテッド・メモリアル・メディカル・センターでクリティカルケアと新型コロナ部門のチーフを務めています。

コロナ後遺症は身体的な苦難をもたらし、社会不安と結びつきますが、患者がなにより不十分に感じているのは、メンタルヘルスへの対処だといいます。

コロナ後遺症による「こころの問題」の二大原因

1. 身体に現れる症状

ヴァロン氏の観察によると、人によって影響は異なるものの、コロナ後遺症患者は皆うつや不安症を患っているといいます。

主な要因は、コロナ後遺症の症状や体調の悪化であり、認知機能障害(ブレインフォグ、疲労、倦怠感、衰弱など)が、雇用状況や社会生活に影響を与え、さらにストレスやこころの問題を引き起こす可能性があるのです。

「彼らは自分の認知機能が最高の状態にないことを気にし、睡眠障害に陥ってしまう」とヴァロン氏は述べています。

長い間苦しんでいる人は、回復が難しいという事実に直面し絶望することもあります。

精神科医のアドニス・スフェラ医師は、ある30代の外科医のエピソードを紹介しています。スフェラ氏の友人である彼は、新型コロナに感染してから2年間働くことができませんでした。

スフェラ氏は友人の様子について、「歩くととても疲れるらしく、以前のようには回復しないかもしれないと思い、落ち込んでいるそうだ」と、エポックタイムズ宛のメールで伝えています。

他にも、2020年8月にコロナ後遺症を患ったハンナ・キャンプ・ジョンソンさんは、読んでもすぐに本の内容を忘れてしまうため、趣味の一つであった読書を諦めざるをえなかったといいます。徐々に症状が悪化していくのを見て、ジョンソンさんは自殺を考えたそうです。

2. 脳と気分の問題

新型コロナは、人間の脳にも直接または間接的に影響する可能性があります。

「ウイルスのタンパク質の中には、気分、睡眠、または不安の処理に関わる人間の神経経路と直接相互作用するものがある」と、スフェラ氏は述べています。

不安、うつ、孤独、無力感といった感情も、この疾病が引き起こす生理的な不均衡が原因となっている可能性があります。

興味深いのは、これらの発見が「身体と心の区別は想像上のものであって現実ではない」という概念をさらに裏付けるものであると、スフェラ氏が指摘していることです。ウイルス感染症は生理的なものであると同時に、心にも影響を及ぼすことがあるのです。

彼は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)発症率のデータを指摘しました。SARS-CoV-2、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エボラ出血熱などのウイルス感染によるPTSD発症率は30%以上で、戦場での経験からトラウマを抱えやすい軍人や帰還兵の発症率16%の約2倍に上っているのです。

この値についてスフェラ氏は、心理的ストレスが精神的な問題を引き起こすのとは別に、ウイルスが脳に影響を与え、直接気分を悪化させる可能性があると解釈しています。

また、SARS-CoV-2は、老化を早め、血管の内側にある内皮細胞を破壊する可能性があります。もし脳の内皮細胞が影響を受ければ、認知障害や気分障害を引き起こす可能性があります。

またスフェラ氏は、食事から摂取する必須アミノ酸の一種であるトリプトファンにも言及しました。トリプトファンは、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを作り出すアミノ酸として知られています。

トリプトファンがセロトニンを作り出すには、血圧を調節・維持する受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が必要です。

しかし、SARS-CoV-2はACE2受容体に結合して細胞に感染するため、新型コロナに感染するとACE2の活性が枯渇し、トリプトファンの吸収とセロトニンの生成が阻害されます。

「疾病、孤独、絶望、痛みによる心理的なストレス要因がなくても、これが十分うつ病や不安を誘発しうる」とスフェラ氏は述べています。

また、トリプトファンは、腸内細菌を調節する腸内のタンパク質を活性化します。トリプトファンが不足すると、このタンパク質が活性化されず、下痢や炎症、過敏性腸症候群など、腸に関連する症状が出ることがあるほか、概日リズムや睡眠リズムにも影響します。

スフェラ氏は、このことがコロナ後遺症患者の概日・睡眠リズムの悪化、精神の混乱、ブレインフォグを説明できるかもしれないと指摘しています。

手頃な抗うつ薬が役立つかも…

新型コロナによって生理的な不均衡が生じているのであれば、抗うつ薬がコロナ後遺症患者を精神的にも肉体的にも助ける可能性があります。

新型コロナパンデミックの初期に、フルボキサミンという安価な抗うつ薬が、その幅広い抗ウイルス・抗炎症能力からメディアの注目を浴びました。

研究により、フルボキサミンを早期に用いることで、新型コロナの重症化や入院を予防できる可能性が示唆されました。しかし、その後、米国食品医薬品局(FDA)は、新型コロナにフルボキサミンを使用する根拠は不十分であるとする声明を発表しました。

しかし、スフェラ氏は、この薬が新型コロナの緊急治療やコロナ後遺症によるメンタルヘルスの症状に非常に有効であることを発見しています。この薬は患者を精神的に助けるだけでなく、肉体的な回復も後押しするといいます。

フルボキサミンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)として、不安やうつの治療に承認されています。

この薬には抗炎症作用があり、血小板の凝集を防ぐことで血栓を減らし、抑制作用によって重度のアレルギー反応を防ぎます。

さらには、内皮細胞の炎症を抑えることができ、内皮細胞の老化や劣化を防ぐ可能性があることも報告されているほか、脳内の神経死を予防する可能性もあるそうです。

また、高血圧の治療薬として処方されるβ遮断薬は、闘争・逃走反応を活性化する化学伝達物質を遮断することで、不安症状を改善することが示唆されています。また、この薬は概日リズムを再同期させることで認知機能を調整し、不眠症の患者がより安らかな睡眠をとれるようにする効果も期待されています。

注意すべきは、すべての薬に副作用の可能性があることです。フルボキサミンは、イライラや落ち込みの増加、痙攣、便秘など、精神的な変化を誘発する可能性があるほか、その他の副作用の可能性もあります。β遮断薬は、疲れを感じたり、悪夢などの睡眠における問題が生じることもあります。

薬物に頼らず、心と身体を癒すために

人間の生理的側面と精神的側面は、循環して働いています。肉体の変化が精神に影響を与えるように、精神が肉体に作用することもあるのです。そのため、健康的な精神状態によって心身ともに改善することがあります。

ヴァロン氏は、回復したコロナ後遺症患者に共通していたのは、前向きな考え方と「必ず良くなる」ことへの信頼感だったと述べています。

オーフス大学に在籍する精神科医のクロエ・サンダース氏は、こうした考え方をプラシーボ効果と関連付けています。プラシーボ効果とは、薬や治療法そのものではなく、患者が治療法を信じることによって生じる有益な効果のことです。

人間の体には修復や若返りのメカニズムがそもそも備わっているため、回復期には自分の体を信頼し、適切な条件が整えば「自分で治す」ことを信じることが大切だとサンダース氏は言います。

同様に、患者と医師との信頼関係も患者にメリットをもたらします。

有資格の内科医兼腎臓内科医のリチャード・アマーリング氏は、エポックタイムズの取材に対し、優れた医師は「一緒にいるだけで患者の気分を良くすることができる」と語っています。

医師が自分のことを気にかけてくれていると患者が認識したとき、患者は感情面だけでなく肉体的にも改善し始めるそうです。

患者によっては、このような信頼関係を築くことが難しく、支援が必要な場合もあります。

サンダース氏は、「多くの人にとって信頼関係は非常に得難いものだ。方法は教えてもらえないし、トラウマや身心の不調和によって妨げられる」と述べています。

人々が心身の調和を取り戻し、しっかりと根を下ろした生活を送るために、思いやりをもって体に耳をすます瞑想や、ヨガのような穏やかな動作、自然の中に身を置くこと、「森林浴」や散歩といった「マインドフルな活動」が役に立つと、サンダース氏は指摘しています。

リラックスして穏やかな状態でこれらを行うことで、副交感神経が活性化することが分かっています。副交感神経は「休息と消化」のシステムとして知られ、修復と回復を助けます。

法輪大法の座禅を行う女性(Minghui.org)

サンダース氏は、朝日を浴びる時間と就寝前にマインドフルな活動をすることを、ルーティンにするよう勧めています。

「副交感神経が優位になり、体がリラックスした状態になる時間が必要」だそうです。

現代のライフスタイルは、質の高い休息と回復を必要とする体のサイクルから外れてしまっています。日中はハードに働き、休息時間にはスクリーンから過剰な刺激を受けるため、身心をしっかりと休ませることができないのです。

マインドフルネスを実践したことがない人にとって、身体とのつながりを取り戻すことは異質なことに感じられ、怖いことかもしれません。しかし、サンダース氏は、指導に基づけば、誰でもその恩恵を受けることができると述べています。

回復のための信頼関係の構築には、カウンセリングやサポートグループの形成や、精神的ストレスとなるような心の習慣を断ち切ることも含まれます。

患者の中には、特定の症状に過度なこだわりを持ち、それが苦痛となり、身体が思うように回復しないことで悪循環に陥る方もいます。患者が回復の兆しに気づかないことが、回復の悪さに相関していることは研究で示されています。

何事にも言えることですが、他者との繋がりはほどほどにして、身体の変化に対してはおおらかに対処することが大切です。

法輪功創始者発表「なぜ人類はいるのか」
ニューヨークを拠点とするエポックタイムズ記者。主に新型コロナウイルス感染症や医療・健康に関する記事を担当している。メルボルン大学で生物医学の学士号を取得。
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