2月、米エネルギー省は新型コロナウイルスが中国の研究所から流出した可能性を指摘した。その報道を受けて、主要メディアのパンデミック起源に関する論点は急転換した。
これまでメディアは、研究所流出説に関する情報を徹底的に避けていたが、今ではまるで過去3年間の証拠隠滅がなかったかのようにその可能性について報じている。
エポックタイムズはパンデミック発生当初から、ウイルス起源に関して一貫した報道を続けてきた。2020年4月に研究所流出説に関するドキュメンタリーを放映し、3年間にわたり時の試練に耐えてきた。その後も、数十件の調査記事を発表し、説を裏付ける圧倒的な証拠を提示してきた。
つまり、主流メディアが新たな進展として主張している論調に、新しいものは何一つない。
研究所がウイルスの発生源となった可能性が高いことは、パンデミックの初期から知られていた。しかし、メディアや科学ジャーナリスト、ソーシャルメディアが一緒になって情報を閉ざしてきた。そのような偽情報と隠蔽の大規模キャンペーンは、アンソニー・ファウチ博士によって考案された。彼は研究所流出説の証拠を隠蔽することになる会議を、2020年2月初旬に組織していた。
最近メディアは「新たな情報によって研究所流出説の可能性が高まった」と説明しているが、それは間違っている。研究所流出説が唯一の妥当な見解だったことは、いつでも簡単に入手できる情報によって当初から示されていた。
その最も明白なエビデンスは、人工物の特徴をもつ非常に稀有なコロナウイルスが、コロナウイルス工学における世界有数の研究所である武漢ウイルス研究所のすぐそばから出てきたことだ。当時、政治家やジャーナリスト、あるいはファウチ氏が事実を隠蔽するために厳選した科学者たちでさえ、この奇妙な偶然の一致から目を背けることはなかった。
そうした科学者の1人であるイアン・リプキン博士は、2020年2月11日に電子メールで、「武漢ウイルス研究所で実施されていたコウモリコロナウイルス研究の規模と最初にヒト感染が見つかった場所を考慮すれば、状況証拠はおぞましいほどある」と述べている。
厄介だったのは、中国共産党の高官である袁志明氏が武漢ウイルス研究所の主任を務めていたことだった。中国では、ウイルス研究所などの組織は共産党によって運営されていると考えられている。ファウチ氏が統括する米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)も、武漢ウイルス研究所が共産党と直接つながっていることをパンデミックの前から知っていた。また、ファウチ氏およびNIAIDは、中国共産党の代表者である袁氏がバイオセーフティーを担当していることも知っていた。
新型コロナが世界に広がり始めた直後の2020年2月9日、NIAIDの主要施設に相当するガルベストン国立研究所のジェームズ・ルデュク所長は、袁氏に電子メールを送り、「私は新型コロナが武漢ウイルス研究所から漏洩したのではないかと疑っている」と警告していた。
さらに「あなたのプログラムに弱点があるなら、すぐにそれを認めるべきだ」と綴った上で、研究所からの流出疑惑について一連の質問を投げかけた。袁氏から返事はなかったようだが、ルデュク氏がこの問題をさらに追求した様子もなかった。
武漢ウイルス研究所のもう一人の主任が、疫学者の石正麗氏だ。石氏がそれまで無謀なコロナウイルスの実験を繰り返していたことは、彼女の様々な出版物をネットで検索したことのある人なら、パンデミック発生当初から誰でも知っていた。コロナウイルスに対する彼女の執念は、2003年のSARS発生直後に端を発している。
石氏が武漢ウイルス研究所に在職した2004〜2019年の期間、同研究所ではこれまで以上に高度なバイオテクノロジーが導入され、憂慮すべき危険な実験が行われていた。重要なことは、テクノロジーの一部が米国から来ており、そうした中国への技術移転がファウチ氏によって直接促進されたということだ。
実際、ファウチ氏は石氏にNIAIDの助成金を送っていた。西側社会にいる石氏の潜在的な協力者らにとって、この助成金は認定証とされた。繰り返しになるが、これらの情報はずっと公開されていたもので、最近新たに見つかったものではない。
一躍注目された武漢ウイルス研究所
2007年、石氏はコウモリウイルスを操作して、ヒト細胞への攻撃を可能にする方法に関する論文を発表した。2008年、非営利研究機関「エコヘルス・アライアンス」のピーター・ダスザック氏は、コウモリウイルスがヒトに感染する可能性を調査するため、ウイルス収集のための助成金をNIAIDから受け取っており、その後すぐに石氏の協力者となった。
2009年に米国国際開発庁が設立した早期パンデミック警告プログラム「PREDICT」は、後の石氏および武漢ウイルス研究所との協力関係につながった。2010年、石氏はSARSウイルスのヒトへの感染力を高める操作を行い、研究所の優れた技術力を披露した。
市井の人々がこうした「機能獲得実験」の危険性に初めて気づいたのは、2011年のことだった。当時、ファウチ氏は、空気感染性鳥インフルエンザA(H5N1)の創出実験に資金を提供した。実験の重大リスクに対する国民からの抗議をはねつけ、ファウチ氏はワシントンポストに「インフルエンザウイルスの取るべきリスク(A Flu Virus Risk Worth Taking)」と題した文章を掲載し、自然界には存在しない危険なウイルスを創出できるようになったが、見識が得られたという点でベネフィットはリスクに勝るといった見解を示した。
しかし、これらの実験が民間に恩恵をもたらしたことを示す証拠はない。なにしろ、新型コロナのパンデミックは回避されなかったし、事前にワクチンが開発されることもなかった。ただ科学者らが一連の実験を繰り返すことで実績を上げ、助成金の割り当てを増やしただけだった。
分子生物学者のリチャード・ H・エブライト氏は、「この研究が与えた唯一の衝撃は、研究所で人工的なリスクが新たに創出されたことだけだ」と語った。
ファウチ氏から資金提供を受けた科学者らが危険なウイルスを操作して空気中に漂わせ、ヒト‐ヒト間の感染力を高めていたのとほぼ同時期に、武漢疾病管理予防センターのウイルス学者である田俊華氏は、更なる研究のために中国の遠隔地からコウモリを収集し始めていた。つまり、2012年の時点で、コウモリウイルスの収集と操作に没頭していた2つの科学者グループ(石氏と田氏のグループ)が武漢に存在していたということだ。
後に田氏は、安全策を講じることなく約10,000匹のコウモリを捕獲したこと、そしてコウモリの尿と血をよく浴びていたことを認めている。NIAIDと田氏にどの程度の関係があったのかは不明だが、ファウチ氏と武漢ウイルス研究所の両方と密接な関係を持つ英国のウイルス学者エディ・ホームズ氏がパンデミック前に田氏と協力していたことは、多くの共著出版物から知られていた。後にホームズ氏は、ファウチ氏と協力して「近位起源(Proximal Origin)」と題する詐欺的な論文を作成しており、ファウチ氏はこの論文を用いて独自の自然起源説を展開した。
2013年、石氏の研究チームが、ACE2受容体によってヒトの細胞に侵入するSARSに類似のコロナウイルスを単離した。これは石氏の科学者としての大きな成果となった。2014年、石氏はダスザック氏が代表を務める「エコヘルス・アライアンス」を通して、NIAIDから助成金を受けた。ダスザック氏は、武漢ウイルス研究所で行われたSARSウイルスの高度な操作について、2016年と2019年に自慢げに語っている様子が記録に残されている。
国際的な知名度の向上
権威あるNIAIDのプロジェクトによって、武漢ウイルス研究所の国際的な知名度は高まった。研究所は、西側社会の機能獲得研究におけるパイオニアらとの協力の扉が開かれ、米国のバイオテクノロジーにアクセスできるようになった。機能獲得研究の世界的権威であるノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授は、2015年11月に発表した研究の中で、武漢ウイルス研究所の石氏との共同研究を開始したことを明らかにしている。
石氏とバリック氏の実験ではキメラウイルスが合成された。つまり、異種ウイルスの部品を組み合わせた新たなウイルスが人工的に創出されたのだ。
その実験に対して、他の科学者らはすぐに警告を発した。
「武漢ウイルス研究所でのコロナウイルス実験がパンデミックを引き起こしかねない」といった抗議が沸き上がった。
また、上述の空気感染性鳥インフルエンザウイルスの創出に対して国民の抗議が起き、アトランタにあるCDCの実験室で一連の事故が発生した後、2014年初めにオバマ大統領が機能獲得実験を一時停止していたことも注目に値する。
一方で、ファウチ氏が武漢ウイルス研究所で始動した共同プロジェクト「コウモリコロナウイルスの出現リスクを理解する」は、武漢での機能獲得実験の実施を要求するものではなかったが、2016年までにはそのような実験がNIAIDからの助成金の保護の下で実施されるようになった。2016年5月、NIAIDのプログラム担当者が、「禁止された機能獲得実験」が武漢ウイルス研究所で行われていることを見つけ、資金提供は一時的に停止された。しかし、実験は数週間以内に再開されている。
研究を停止させた後に、なぜNIAIDがそれを覆したのかは不明だ。ダスザック氏は停止を解除してくれたNIAIDに対し、個人的に感謝の意を表している。
機能獲得研究の停止が解除されたことで、石氏とダスザック氏は、これまで以上に危険なウイルス実験を続けた。2017年に石氏が監修した武漢ウイルス研究所の論文は、研究所がどのようにしてSARSウイルスの一部を痕跡も残さずに置き換える作業を行ったかを、詳しく説明している。
石氏の研究はさらに危険な方向へと進んで行った。2017年には、武漢ウイルス研究所の新たなP4実験室からの漏出の可能性を科学界に対して警告する記事がネイチャー誌に掲載された。記事では、リスクの高い実験を実施する上での情報の公開性が中国において確保できるのか、疑問視されていた。
当時、この記事の投稿者は、コロナウイルス実験の危険な作業がP4実験室ではなく、バイオセーフティーレベルの低いP2実験室で行われていたことを知らなかった。その情報は、パンデミック初期の2020年に明らかになった。
動かぬ証拠
2018年に展開されたある事件が、動かぬ証拠を提供することになった。2020年時点で、事件に関与していた米国政府はそれらを知っていたが、一般には知られていなかった。その後、2021年9月に内部告発者が山ほどの証拠書類を提供し、一般に公開された。
2018年、武漢ウイルス研究所とダスザック氏のエコヘルス・アライアンスとノースカロライナ大学のバリック教授が共同で研究プロジェクトを立ち上げ、SARSウイルスのバックボーンにヒト由来のフーリン切断部位を挿入する実験を行っていたのだ。
つまり、武漢ウイルス研究所は稀有なウイルスを創出する青写真を描いていたのだ。そしてその2年後、それによく似た新型コロナウイルスが武漢から出てきた。
この共同プロジェクトは、米軍の国防高等研究計画局(DARPA)に資金調達の申し出を行った。国防総省の科学者らは、機能獲得実験がパンデミックを引き起こすウイルスを創出しかねないという懸念から、この申し出を拒否した。しかし、医学誌ランセットのコロナ委員会のジェフリー・サックス会長は、プロジェクトへの資金提供の話が持ち上がったときには、既に研究が完了していたことを明らかにしている。
これは科学研究費の分野では珍しいことではない。青写真が非常に詳細であったことと合わせて、少なくとも資金調達の申し出を進めている間にも、並行して準備作業が行われていたということだ。
石氏とダスザック氏は、DARPAから資金調達しようと画策している間も、ヒト細胞を模したマウスを使って実験を行い、極めて高い感染力を示すウイルスを合成していた。
それは、ファウチ氏からの助成金を使って進められた。
消されたデータベース
翌年、石氏は、武漢ウイルス研究所の実力を示す研究をさらにいくつか発表した。しかし2019年9月、研究所は突然22,000以上のウイルスサンプルを含むデータベースを全てオフラインにした。
このデータベースは、科学者が新種のウイルスの発生源と拡散状況を追跡する上で助けになるとしてまとめられていた。しかし、新型コロナウイルスが世界的に蔓延し破壊的な影響を与え始めた頃には、すでに削除されてしまっていたのだ。
その後、武漢で一連の奇妙な出来事が繰り広げられた。報道によれば、10月に武漢ウイルス研究所が数週間閉鎖されたと同時に、武漢が異常かつ強力なインフルエンザに見舞われたと現地の米国総領事が報告したという。現地の病院の来院数には深刻な増加が見られ、研究所の職員3人も新型コロナに似た病気で入院したと言われた。
「ゼロ号患者(初発症例)」ではないかと推測されていた同研究所職員の黄燕玲氏は、突然公の場から姿を消し、研究所のウェブサイトからもプロフィールが消された。
また、2019年11月までに、米国の諜報当局は、感染が中国の武漢地域全体を席巻していると警告していた。他にも、11月17日、12月1日、12月8日に新型コロナの感染が確認されたといった様々な報道があった。
いずれの日付も、新型コロナウイルスが武漢の華南海鮮市場で動物からヒトに感染したと言われた日付より先だった。海鮮市場を起源とするそれらの説は、ファウチ氏から資金提供を受けた科学者らが主張していた。
ダスザック氏は事態の展開に気づいていなかったらしく、2019年12月9日のインタビューで、武漢ウイルス研究所がコロナウイルスの実験を行なっており、その一部が「実験室でヒト細胞に侵入した」ことを確認していた。
そのダスザック氏も、2019年末までには論調を変えた。12月31日にツイッター上で19ツイートを連続投稿し、武漢での感染爆発は天然のウイルス由来だと主張した。注目すべきはその投稿のタイミングだ。その日までに、まだ武漢当局は問題を報告していなかった。中国当局の声明は一般的な細菌およびウイルス病原体を除外しただけで、ウイルスとの関係を特定していなかった。
ダスザック氏は石氏の研究室で起こっていたことを理解した上で、機先を制して自然起源説を持ち出し責任を転嫁したように見える。その連続ツイートが投稿された時点で、ウイルスの起源はおろか、そのウイルス自体について中国国外の誰も知らなかった。
数週間後の2020年1月27日、ダスザック氏はNIAIDのデビッド・モレンス博士に送信した電子メールの中で、NIAIDがダスザック氏に対する助成金を通して過去5年間にわたり中国でのコロナウイルスの研究に資金提供してきたことを伝えている。
ファウチ博士は知っていた
翌1月28日、ファウチ氏は米保健福祉省の記者会見に参加する予定だった。同省は、会見での論点を前日の午後8時30分までに提出するよう要請していた。
事前に準備された論点は、ファウチ氏の首席補佐官であるグレッグ・フォルカーズ氏からの電子メールを通じて、内々にファウチ氏に送られていた。そこには「私たちが資金提供した人々には、ピーター・ダスザック、ラルフ・バリック、イアン・リプキンが含まれている」と書いてあった。
フォルカーズ氏はさらに、ダスザック氏とモレンス氏の同日のやり取りについてファウチ氏に伝え、「NIAIDは過去5年間、中国でのコロナウイルスに係る研究のために、ダスザック氏のグループに資金を提供してきた」と伝えていた。
つまり、遅くとも2020年1月27日には、ファウチ氏は、NIAIDが武漢ウイルス研究所での機能獲得実験を含むコウモリコロナウイルスの研究に資金提供していたことを確実に知っていたということだ(もちろんそれ以前から知っていたに違いないが)。
その後、2020年1月31日になると、ファウチ氏とつながりのあったサイエンス誌のライター、ジョン・コーエン氏が、自然起源説を推し進める記事を書いた。記事は、NIAIDから資金供与を受けた多くの科学者に言及するとともに、NIAIDが武漢ウイルス研究所の機能獲得研究に資金提供をしていたことの証拠となる2015年の論文への間接リンクを添付していた。この暴露をきっかけに、翌2月1日に秘密の電話会議が開かれることになる。
後になってファウチ氏は、武漢ウイルス研究所の機能獲得実験に資金提供をしたことは一度もないと否定を繰り返したが、2015年の論文には、「このNIAIDからの助成金によって支えられた」と明確に記されている。ちなみに、ファウチ氏がこの2015年の論文に目を通したことも確認されている。2020年2月1日の朝、ファウチ氏は当時NIAIDの首席副所長だったヒュー・オーキンクロス氏に論文を送り、「午前中に是非とも話をしたいので、携帯電話をつけたままにしておいてくれ」と伝えている。
ファウチ氏の後継者と見られていたオーキンクロスは、その日遅くに、「あなたが送ってくれた論文によれば、実験は機能獲得研究が停止される前に行われ、その後国立衛生研究所(NIH)の審査と承認を受けた」と返答している。
秘密の電話会議
2020年1月31日夕方に上記の記事がサイエンス誌に掲載された直後から、ファウチ氏は記事をNIAIDの同僚や、ウェルカム・トラストの責任者ジェレミー・ファーラ氏と共有し始めた。ウェルカム・トラストは、英国を拠点とする世界最大の医学研究支援団体だ。また、ファウチ氏は、NIAIDから資金提供を受けた米スクリップス研究所の免疫学者、クリスチャン・アンダーセン氏にも記事を転送し、「興味深い議論が進められている」と述べている。
翌2月1日に急遽召集された電話会議の前段階として、アンダーセン氏はファウチ氏とそのウイルスに特有のゲノム配列について議論し、「ウイルスが操作されているように見える」と語っていた。その話題は翌日の電話会議に持ち込まれ、ある参加者は「挿入だけでなくバックボーンについても話し合う必要があるのでは?」と他の参加者に電子メールを送っている。
先ほど述べたように、2018年に武漢ウイルス研究所、エコヘルス・アライアンス、ラルフ・バリック氏が協力して、SARSウイルスのバックボーンにヒト由来のフーリン切断部位を挿入する研究プロジェクトを行っていたため、ここでのバックボーンへの言及は特に重要だ。電話会議では、少なくとも2つのプレゼンテーションが行われた。アンダーセン氏は「ウイルスが実験室由来のものであることを60〜70%の割合で確信している」と語った。2014〜2020年まで中国CDCの責任者と一緒に働いていた科学者のエドワード・ホームズ氏も、「研究室からのウイルス流出説を80%確信している」と語った。
自然起源説を促進した論文
アンダーセン氏とホームズ氏が「ウイルスは研究室から流出した可能性が高い」とファウチ氏に伝えていたその日のうちに、彼らは他2人の会議参加者と共同で、自然起源説を促進する研究論文のドラフトを完成させた。「近位起源(Proximal Origin)」と題したこの論文が2020年2月16日に発表されると、ファウチ氏をはじめ、科学者やメディアがそれを用いて自然起源説を推進し、研究所起源説を陰謀論として非難した。
最近公開された電子メールによって、この詐欺的な「近位起源」論文の起草は、ファウチ氏によって促進されたことが明らかになった。
ファウチ氏の電話会議の参加者らは、「会議後に数週間か数か月後が経ち、証拠を徹底的に調べる機会を得てから、自然起源説を受け入れ、促進し始めた」と後から主張するつもりだった。
しかし、電話会議と同日に、参加者4人が自然起源説を促進するための論文のドラフトを完成させたことで、弁明の段取りは打ち砕かれた。いずれにせよ彼らは、新型コロナがNIAIDの資金提供を直接受けた武漢ウイルス研究所から発生したことに気づき、パンデミック起源の偽装のために自然起源理論の構築に着手したのだった。
彼らの主張が誤っていたことは、別の重要なデータポイントによって証明された。電話会議から2日後の2月3日、ファウチ氏のグループはウイルス起源について、ホワイトハウスを欺こうとしていた。当時ホワイトハウスの科学技術政策局長だったケルビン・ドロゲマイヤー氏は、全米科学工学医学アカデミー(NASEM)に対して、2019-nCoVの起源特定に協力するよう指示した。そこで、NASEMのディレクターであるアンドリュー・ポープ氏は、ホワイトハウスの要求について議論するために対面会議を開催した。
2月3日午後2時に開かれたその会議では、ファウチ氏から10分間のプレゼンテーションもあり、ダスザック氏とアンダーセン氏も出席していた。この会議の2日前、ファウチ氏には研究所流出説の可能性が高いことが伝えられていたが、その情報はNASEMには開示されなかった。代わりに、ファウチ氏と科学者らは、自然起源説という偽りのシナリオを積極的に推進した。
それと同時に、ファウチ氏の望むシナリオに合わせるべく「近位起源」論文の作成も進められていた。ファウチ氏とファーラ氏、そしてファウチの上司であるフランシス・コリンズ博士の間で交わされた2月4日の電子メールの中で、コリンズ氏は、「論文はウイルスが操作されたという説に反論しているが、『連続継代』の可能性は残っている」と指摘していた。ファウチ氏は「??ACE-2トランスジェニックマウスでの連続継代」とだけ反応している。
連続継代とは、実験室で行われるウイルス操作のプロセスの一つで、ヒトの肺組織を模倣した遺伝子改変マウスなどのヒト様組織にウイルスを繰り返し通過させることを指す。
2月1日の電話会議中に、論文著者のうち少なくとも3人がコリンズ氏とファウチ氏に対して、「ウイルスが連続継代、または特定機能の遺伝的挿入によって実験室で操作された可能性がある」と助言していたことを考えると、ファウチ氏の言及は注目に値する。11日後の2020年2月16日、「近位起源」論文がオンラインで公開された。この論文は、SARS-CoV-2の自然起源について積極的に主張した。しかし不可解なことに、公開されたオンライン版には、2月4日にファウチ氏がコリンズ氏とファーラ氏に電子メールで注意を促した、ACE-2トランスジェニックマウスについていかなる言及もなかった。
「非常に破壊的な陰謀」
数か月後の2020年4月16日、コリンズ氏はファウチ氏に書簡を送り、「ウイルス起源の議論の中で、『近位起源』が定着することを望んでいた」と伝えた。しかし、フォックスニュースのブレット・バイアー氏が、ウイルスが研究所に由来しているという情報を自信たっぷりに報じたため、思ったようにはいかなかったようだ。コリンズ氏は「この優勢になりつつある非常に破壊的な陰謀を鎮圧するために、NIHに何かできないか」とファウチ氏に尋ねた。
ファウチ氏は、「研究所流出説はやがて消える」とコリンズ氏に伝えた。しかし、その翌日、ファウチ氏はホワイトハウスでの記者会見で、研究所流出説をきっぱりと却下し、関連する調査を停止させるために直接行動を起こす決意を明らかにした。
ファウチ氏は、自身の主張の裏付けとして、自身が編集・監修した「近位起源」論文を引用した。論文作成に個人的関与したにもかかわらず、中立者の立場を装い、記者団には「著者の名前を思い出せない」と語った。
ほぼ同時期に、米国務省はパンデミックの起源について独自調査を開始した。この問題に関するタスクフォースを率いていたデビッド・アッシャー氏は、国立衛生研究所(NIH)に専門家の見解を提供するよう要請した。ところが彼にも、ファウチ氏とNIHのトップがウイルス起源を隠蔽するために作成した、「近位起源」論文のコピーが与えられた。
研究所流出説に対するメディアの関心が急速に衰えたため、ファウチ氏の介入は非常に効果的だった。2021年3月に元ニューヨークタイムズのサイエンスライターであるニコラス・ウェイド氏が研究所流出説の可能性について議論する記事を公開するまで、その説が再浮上することはなかった。ウェイド氏は、「ファウチ氏が西側社会のウイルス学研究資金の大部分を管理している。キャリアに熱心なウイルス学者は、ファウチ氏の望みに細心の注意を払っていたことだろう」と述べた。
ウェイド氏の言葉は誇張ではない。ファウチ氏とNIHは科学研究のために確保されていた年間320億ドルの助成金を管理し、その過程で多くの科学者のキャリアをもコントロールしてきた。2020年2月1日の電話会議から数か月後にNIAIDが自然起源説を確立すると、それに協力し、公的に応援してくれた科学者らに対して、血税から5000万ドル以上の助成金を支給した。
情報公開に関する訴訟の結果として、2021年6月にファウチ氏の編集済み電子メールが公開されたことで明らかになった隠蔽工作と、2021年9月に内部告発者がリークした2018年のDARPAプロジェクトを除いて、以上に示してきた全ての事実は、パンデミックの発生時から公に知らされていたものだった。
実直なメディアなら、これらの事実を確認し報告することなど簡単だったはずだ。しかし、どのメディアもそれを怠った。これは、ファウチ氏による隠蔽と同じくらい巨大なスキャンダルだ。
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