中国、自動車販売業界で「自殺式」の価格競争 メーカーは「生産ラインの維持」に必死か

2023/03/18
更新: 2023/05/26

経済の低迷や国内需要の伸び悩みなど多くの問題を抱える中国。今年初めから、中国の自動車販売業界は「自殺式」と言われるほどの値引きをするなど、熾烈な価格競争が巻き起こっている。

「自殺式」と言われても値引きする自動車業界

国産自動車メーカーのBYD(比亞迪)や長安汽車などでは、相次ぎ大幅な値下げを発表している。また、自動車を対象とする消費促進のため、購入代金の補助などの政策を打ち出す地方政府も少なくない。

自動車購入時の補助対象車は、東風ホンダ、東風日産、東風シトロエンなどをはじめとする7ブランドの56車種。補助金の上限額について、1例を挙げると、神龍汽車傘下の東風シトロエンの「C6」シリーズ(2016年発売、定価18.9万元)では、定価の半額以上の9万元(約173万円)となっている。

また、BYDのウィーチャット(微信)公式アカウントは今月9日、3月10日~31日の間、2大主力モデルについて期間限定の特別値引きキャンペーンを行うと発表した。車種によっては8800元(約17万円)値引きした価格で購入できる。

また「長安汽車」も今月9日に、今月末まで期間限定の値引きキャンペーンを実施すると告知した。公式の車種ごとの値引き一覧表によると、最も割引率の高い「CS75シリーズ」では、メーカー希望価格10.2万元(約196万)より4万元引き(約76万円)のセール価格で売られている。

車一台買えば「もう一台おまけ付き」

今月12日にツイッターに投稿されたある画像は、中国の自動車販売店内で撮られたものと思われるが、メーカー希望価格20万元(約384万円)の「一汽トヨタ」のセダン「アバロン(Avalon、亜洲龍)2.0L」が12.5万元(約240万円)というセール価格で売られていた。

またメーカー希望価格17万元(約327万円)の中国仕様のホンダ新型「CR-V」は10.9万元(約209万円)だった。いずれも40%ほどの値引きである。

中国の自動車販売店内で、メーカー希望価格より40%近く割引したセール価格で販売される車。(SNS投稿画像)

さらに、SNSに投稿された自動車販売代理店(中国・広東省中山市)の販売促進キャンペーンの広告には「1台買うと、さらに1台プレゼントします(買一送一)」と書かれていた。キャンペーン期限は3月末となっている。
 

写真は中国・広東省中山市の自動車販売代理店の販売促進キャンペーンの公告。広汽ホンダの車を「1台買うと1台プレゼントする」と書かれている。(SNS投稿画像)

業界関係者は、こうした激しい値下げ現象を「自殺式」などと表現しており、懸念が高まっている。

「生産ラインを止められない」自動車産業の苦悩

同業界を引っ張るリーダー的存在であるBYD(比亞迪)や長安汽車の相次ぐ値下げ発表について、そこには「大きな意味がある」と、中国メディア「澎湃新聞」の11日付は指摘する。

報道では、江西新エネルギー科技職業学院の新エネルギー自動車技術研究院の院長・張翔氏の話を引用して、大手自動車企業による大幅な値下げ現象について、次のように分析した。

「中国の自動車産業は、生産過剰で、しかも売れ行きが良くない。しかし、あまりに売れなければ、生産ラインの維持すらできなくなる。東風のような大手自動車企業にとっては、利益追求の前に、工場を稼働させ生産ラインを維持することが最優先だ」

中国汽車流通協会(CADA)の市場マーケティング部門による8日付の分析発表によると、今年1月~2月の全国の乗用車の販売台数は前年同期比19.8%減の267.9万台。東風汽車集団による同日(8日)の発表で、1月~2月の同集団の累計自動車販売台数は、前年同期比48.48%減の26.2万台だった。

このような売れ行き低下のなか、最近では、東風汽車集団傘下の新エネルギー車(NEV)メーカーである嵐図汽車(VOYAH)が「人員削減を始めた」と中国ポータルサイト・新浪(SINA.COM)などが報じた。

ツイッターには「3月14日、広東省恵州BYD、作業場全体で半月の稼働停止」と題される動画が投稿されている。この作業場は、従業員に半月の「強制休暇」を取らせることになるが、その分の給与が保障されるかどうか、投稿された動画からは分からない。

輸入総額も大幅に減少

中国当局が発表したデータによると、今年1月~2月までの輸入総額は前年同期比10.2%減の3,894億ドルだった。また同時期の輸入総額については、台湾からの輸入は30.9%減、韓国からは29%減、ニュージーランドからは26.26%減など、大幅な減少が見られた。

台湾の対中輸出が継続的に減少していることについて、台湾当局による先月の分析発表によれば、その最大の原因は中国大陸での新型コロナウイルスによるパンデミックの影響とされている。

また、台湾財政部による昨年11月の分析によると、中国の景気減速の原因は、国内の疫病対策のほか、中国の不動産市場の低迷なども原因であるという。

中国人の購買力が著しく低下した現在、日常生活を支える食料など最小限の買い物はしても、不動産や自家用車などの大型購入にまわす余力はない。そうした中国経済の厳しい現状を示す光景は、今後も各地に出現することになりそうだ。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。