「カナダの政治家、官僚、企業幹部ら政商界リーダーが、中国政府によるスパイ活動における主要な標的になっている」
米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)21日付は、カナダの最有力紙「グローブ・アンド・メール(the globe and mail)」の20日付の報道を引用して報じた。
それによると中国のスパイは、狙った標的を「落とす」ために恐喝、贈賄、ハニートラップ(性的誘惑)などさまざまな手段を用いるほか、国有銀行までスパイ活動に利用しているという。
中共のスパイ工作は「リアルな脅威」
「カナダにおける中国のスパイ活動の概要」などが記されたカナダ情報当局の極秘文書などを参照した「グローブ・アンド・メール」の報道によると、中国当局はカナダに駐在する中国領事館やビザセンターなどに対し、カナダの著名人や影響力のある人物について「訪中する計画がある場合は必ず通報するよう」指示した。
また中国当局は、中国の大手国有銀行である中国銀行に対しても、中国の国有金融機関が主催する会議に出席するカナダの企業幹部について、その旅行計画を中国領事館に知らせるように指示していたという。
同紙が確認した機密文書には、選挙に介入して中国に批判的な保守派の候補者が落選するよう裏工作をするなど、カナダの民主主義に干渉することや、カナダの政治家、企業幹部、学者、中国系カナダ人らをターゲットとする影響力向上を狙った「幅広い戦略」が記されていたという。
選挙への干渉について言えば、中国当局の「お気に入り」である自由党候補者を支援するために「カナダで学ぶ中国人留学生を、選挙ボランティアとして雇用する事業主の手配」などまで含まれている。
カナダの国際政策評議会(Council on International Policy)に所属する研究員で、国家安全保障の専門家であるアークシャ・シン(Akshay Singh)氏は「これは我々を含めて、我々の全てのパートナーが直面するリアルな脅威だ」と指摘した。
シン氏が述べた「我々の全てのパートナー」には、日本も含まれるとみてよい。ただし、中共スパイに対して、日本がどれほど「リアルな脅威」を実感しているかは分からない。
緊張が増す中加関係
カナダはこれまで、中国と経済面で協力関係を築いてきた。しかし近年では、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の副会長拘束や高速通信規格「5G通信網」からのファーウェイ排除、さらには中国国内の人権問題への批判などを巡って急速に冷え込んでいる。
とくに最近では、中国がカナダの選挙に干渉したとする疑惑が知られて、カナダ側から中国への警戒感が高まっている。
カナダ政府は昨年11月末、中国による国際秩序の混乱を牽制した「インド太平洋戦略」を発表した。戦略を発表したジョリー外相はこれを「外交政策の転換」と説明している。
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