旧正月に合わせて公開された映画「満江紅」の余波で、中国では民族感情が沸き立っている。映画に登場する宰相・秦檜の鉄像が浙江省杭州市にあるが、この鉄像に罵声を浴びせ、靴で叩いたり鉄板をぶつけたりするなど言動が激化している。
映画は巨匠・張芸謀監督の最新作で南宋時代の陰謀を描く。タイトルの満江紅は、南宋時代の武将・岳飛が詠んだ宋詞「満江紅・怒髮衝冠」から。秦檜は岳飛を謀殺したとされ、売国奴の代名詞となっている。
浙江省杭州市にある岳飛を祭る廟には、岳飛の墓に向かって秦檜夫人ら4人が後ろ手で縛られ跪く鉄像がある。かねて像に唾を吐きかけるなどの観光客が絶えない。しかし最新映画の公開後、鉄像周辺には連日のように長蛇の列ができ、鉄像に向けられた乱暴な行動がエスカレートしているもよう。
激情に走る人の姿は映画館内でも見られる。満江紅を鑑賞した一部の観客が立ち上がり、岳飛の詠んだ「満江紅・怒髮衝冠」を興奮して叫んだ。こうした観客の姿を収めた動画がオンラインで出回っている。
中国新聞網によれば、河南省湯陰県にある岳飛記念館でも先月26日から「『満江紅』を暗誦できれば入場料無料」といったキャンペーンを行っており、大勢の観光客が殺到したという。映画は旧正月休暇期間中に26億600万元(約502億円)を収め、興行収入ランキングで一位となった。
映画に影響を受けた人々の情緒的な行動を、ネットユーザーは揶揄している。
「見るに耐えない」「また一人洗脳された」といったコメントのほか、「現実版の秦檜や腐敗官僚はいくらでもいる。なぜ叩かないのか」「中国共産党は秦檜以上の売国奴だ、本当に愛国なら中共に立ち向かうべき」など、批判対象が違うといった声も目立った。
最近の秦檜叩きの現象について、中国評論家の唐靖遠氏は大紀元の取材に対し、「秦檜は後世から唾棄されるべき人物だが、今回の情緒的なブームは中国当局が映画を通じて扇動したもの。日本車を破壊する反日ブームと同質だ」と指摘した。
「つまり、ただ当局が『怒って良い』と認めて『愛国こそ至上の道徳』と考えているから、彼らは怒り、感情を爆発させているだけなのだ。(中共の洗脳から)覚醒した者とは言えない」と唐氏は分析した。
「子どもに見せないで」
愛国ブームが巻き起こる中、ネット上には、「満江紅を子どもに見せるべきではない」と呼びかける父親の動画が拡散されている。
父親はこう語る。「映画では一貫して、『中国人の命は塵のように取るに足らない、低層の人の命は大物の理想や精神、岳飛の詩一つのために犠牲になっても構わないといった、奇怪な価値観を宣伝している」と、子供たちに対する悪影響を指摘した。
「大物の理想や精神のために自分の命を捧げても良いなど、そんな教育は保護者として受け入れられない。『自分の命こそ最も大事だ』と、子供たちに教えるべきだ」
在米時事評論家の胡力任氏は、この父親の投稿動画を転載し「これこそが正常な中国人の姿だ」と評した。
胡氏は、「『満江紅』は帝王が国民に『命を捧げよ』と洗脳する邪悪なプロパガンダ作品であり、反人類的な映画だ」と批判。「すべての中国人は自分の命を大切にし、帝王のための弾よけになるのを拒否すべきだ」と呼びかけた。
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