米連邦控訴裁判所は8日、「医師や保険会社が異議を唱えたとしても、性転換手続きの実施または支払いを義務化する」との保健社会福祉省(HHS)の指令を、永久阻止するとの判決を全会一致で下した。宗教の自由を保護する憲法に基づいている。
物議を醸す義務化
2016年に発行されたHHSの指令は、「医療保険改革法」の解釈で、たとえ医師が施術によって患者に害を及ぼすと確信していたとしても、子供を含むあらゆる患者に性転換処置を行うことを義務付けている。
この義務化は、大多数の民間保険会社と多くの雇用主に対して、性転換セラピーの費用負担を要求し、拒めば罰則を受ける可能性を含んでいた。
HHSでは一部の医療専門家委員会もこれに否定的だった。「性転換手術は有害であり、多くの場合医学的に正当化されないことを認め、HHSはメディケアとメディケイドにそのような手術を強制すべきでない」との発言記録がある。
性転換手術は、骨密度の低下、心臓病、癌など、子どもにとって大きなリスクを伴うことが研究により明らかになっている。
ヒポクラテスの誓いに則る
裁判の原告は「宗教の自由のためのベケット・ファンド」。ノースダコタ州司法長官事務所およびクリスチャン団体など複数グループの代表として、この義務化を阻止するために2016年、訴訟を起こした。
「医師の良心に反することを強要したり、患者に恒久的な害を及ぼす可能性のある処置を強制したりする権利を、政府は持たない」と、ベケット・ファンドの副代表兼上級顧問のルーク・グッドリッチ氏は声明の中で述べている。
これは患者を保護し、最善の医療行為を行い、医師が「危害を与えない」というヒポクラテスの誓いに従うことを保証する常識的な判決であると語った。
連邦地方裁判所がこの指令の発効を阻止したため、米政府は第8巡回区控訴裁判所に上訴した。
12月8日に発表された今回の判決では、第8巡回区控訴裁判所は「本事案はカトリック原告の宗教行使への侵害に当たり、恒久的な差し止め命令を正当化するものである。本件についての下級裁判所の判断は正しい」と結論付けた。
判決に対して、ホワイトハウスからの即時の反応はなかった。
バイデン政権はトランスジェンダーに関する課題を重要な政策の柱としている。今月13日には、同性婚の権利を連邦レベルで擁護する「結婚尊重法案」に署名し、成立させた。
コンバージョン・セラピーへの攻撃
政権は、性転換手術と治療を求める人々に代わって強く提唱し、いわゆるコンバージョン・セラピー(編集者注:同性愛者の性的指向を異性愛に転換させることを目的とした心理療法)に反対している。
バイデン大統領が6月15日に発表した10ページに及ぶ大統領令の中で、様々な差別からLGBTコミュニティを守ることを約束し、コンバージョン・セラピーに対する反対を表明した。
バイデン大統領はこの命令の中で、このようなセラピーを「有害」で「信用できない」とし、自殺率の上昇を含む重大な害をもたらす可能性があるとして、全米でこの治療の使用を排除するよう、政権全体で推進するよう呼びかけた。
20の州と100以上の自治体が、未成年者のコンバージョン・セラピーを禁止している。
米国心理学会は2009年に発表した報告書の中で、性的指向を変えようとするために用いられる治療は有害であり、そのほとんどは成功しないと述べている。
いっぽう、コンバージョン・セラピーに対する攻撃については、医療界からも批判の声が上がっている。
「性別違和感に対するカウンセリングを禁止すれば、リスクにさらされた性的少数者の若者を実証されていないホルモン治療や外科的なジェンダー肯定療法(GAT)に追いやることになる。成人までに解決する症状に対して、永久的かつ時期尚早な形で、子供たちを医療漬けすることになる」。
米国小児科医会の思春期性的能力委員会で共同議長を務めるアンドレ・ヴァン・モールはこう訴える。
モール氏は、ホルモン療法を含むジェンダー肯定療法は安全で効果的とは証明されていないと述べた。自殺も減らず、性同一性障害の未成年者のための国際的な標準治療でもないと述べた。
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