労働搾取で6500人死亡…「一帯一路」のカタールW杯スタジアム建設=報告書

2022/12/13
更新: 2022/12/13

2022FIFAワールドカップカタール大会は11月21日の開幕以降、熱き戦いが繰り広げられている。日本代表は惜しくもクロアチアに敗れ、悲願のベスト8進出とはならなかったが、列島各地で選手らの健闘をたたえる声があがった。

いっぽうで、大会の決勝の舞台となる「ルサイル・スタジアム」では、建設段階で出稼ぎ労働者の死亡が相次ぎ、人権問題が指摘されてきた。一部の海外メディアは「恥のスタジアム」と伝えている。

このスタジアムは、カタールのHBKコントラクト社と中国の国有企業である中国鉄建国際集団(以下、鉄建国際)の共同事業として建設された。中国は、このルサイル・スタジアムを、カタールにおける中国の「一帯一路」構想の画期的なプロジェクトとして歓迎。中国メディアは 、その形象から「黄金のボウル」と表現している。

この象徴的なボウル型スタジアムは、カタール最大のスタジアムであり、今回のワールドカップのために建設された7つのスタジアムの1つ。

英ロンドンを拠点とする労働人権団体エクイデムが11月に発表した報告によると、カタールのワールドカップ・スタジアムの建設を請け負った移民労働者たちは、国籍に基づく差別、違法な採用行為、賃金の盗難から法的権利の剥奪に至るまでの人権侵害を被ったという。

75ページの報告書には、スタジアム建設で雇用された60人の労働者へのインタビューが含まれている。そのほとんどはインドやパキスタン、ネパール、バングラデシュ、フィリピンなど途上国からの移民労働者だ。インタビューに応じた労働者は全員、報復を恐れて匿名を条件に取材に応じた。

報告書は、労働者が「現場で身体的、言語的、精神的虐待などの暴力を受け、持続的かつ広範な労働権の侵害に遭った」と指摘。決勝戦の会場となるルセール・スタジアムでの虐待についても、何度も言及されている。

2019年9月3日、カタールで公開されたFIFAワールドカップ・カタール2022の公式エンブレム (Christopher Pike/Getty Images)

広範な労働権の侵害

「監督者は、労働者の前で私たちを殴ることで仕事を時間通りに終わらせるように圧力をかけてきた。しかし、この身体的虐待は決して問題にされることはなかった」。ルサイル・スタジアムのプロジェクトでHBKに雇用されていたケニア人労働者はエクイデムにこう語った。

また同プロジェクトで雇用された別のケニア人労働者は、2年以上にわたって14時間労働を強いられた振り返った。残業代は支払われることなく、劣悪な環境で働かされていたという。

いっぽうで中国メディア・21世紀経済報道は11月18日、鉄建国際の総経理・李重陽氏への独占インタビューを掲載した。李氏はその中でカタールの炎天下に言及し「一定以上の気温になると、作業員は交代で休まなければならない。暑い日には、2時間以内に作業時間が終わることもあった。これはカタールの規則で、私たちは厳格にこれを守っている」と主張した。

しかし、この声明はエクイデムの報告と真っ向から矛盾している。ルサイル・スタジアムのプロジェクトで働くネパール人労働者は、「労働者は炎天下の中で働き続けることを強いられた」と証言している。

「かつて、FIFAグループがルサイル・スタジアムに来たことがある。労働者は、死傷事故などを目の当たりにしているため、こうした文句をFIFAに言えば、(請負業者の)ライセンスが取り消される恐れがある。それを避けるために、FIFAグループが到着する少なくとも1、2時間前には、全員がキャンプに送られた」と隠蔽工作があったと語った。

こうした労働搾取をFIFAグループに訴えるため、作業場に隠れる労働者もいた。「しかし企業側は隠れている人を見つけ出し、国に送り返すか給料を差し引くなどの罰を与えていた」という。

この報告書は、このほかカタールのワールドカップ競技場建設における、差別、賃金不払い、身体的・言語的・精神的虐待から現場での労働者の死亡に至るまで、20数件の労働権侵害を報告している。

専門家「中国は責任を共有する」

李氏は、鉄建国際とHBKは、2022年ワールドカップの競技場建設で「緊密な合弁会社を形成した」と、21世紀ビジネスヘラルドに語った。同氏よれば、「HBKはカタールで最も有力な大規模建設会社の1つであり、地元企業との協力は、中国が提唱する一帯一路構想の一般的な方向性だ」と指摘した。

しかし、ルサイル・スタジアムにおける移民労働者の虐待と搾取について、中国時事評論家の夏一凡は11月28日、「CRCCはゼネコンであり、十分な責任を負っている」とエポックタイムズに語った。

「国際的なエンジニアリング建設業界では、中国企業は低価格で落札するのが一般的で、その手口は最も卑劣であり評判は最悪だ。最も顕著な特徴の一つは、労働者の扱いが悪いことだ」

しかし、「こうした現地企業にはリスクを回避するルートがあるのため、鉄建国際が法的抜け穴を与えるとは思えない」と責任追及の難しさにも言及した。米国など第一世界の国々であれば、鉄建国際が「労働者の賃金を下げることはおろか、労働者を死ぬまで虐待するような結果を招くことはありえない」と付け加えた。

エクイデムの報告書は、労働者の死についても指摘し、安全基準の甘さを訴えている。

ネパール人労働者によると、2019年3月にバングラデシュ出身の労働者が5階から転落して死亡した。この労働者は安全ベルトを着用していなかったという。2021年には、中国人労働者が約25メートル落下し、命を落としている。

カタール政府高官のハッサン・アル・タワディ氏は先月、英国のジャーナリスト、ピアーズ・モーガン氏のテレビインタビューで、スタジアムの建設が始まって以来、移民労働者が「400~500人」死亡したと認めた。

しかし、このプロジェクトに労働者を送り込んだ国々のデータに基づいて、ガーディアン紙は建設期間中に約6500人の労働者が死亡したと推定している。

エポックタイムズはHBKにコメントを求めたが、本記事掲載までに返答は得られなかった。

(翻訳・大室誠)

カナダを拠点とする記者。アジア太平洋ニュース、中国のビジネスと経済、米中関係を専門としている。