ロシアの瀬戸際政策で危険にさらされるウクライナの原子力発電所

2022/09/24
更新: 2022/09/24

国際的な専門家によると、ロシア軍がウクライナにあるヨーロッパ最大の原子力発電所を占領して6か月が経った現在も、同発電所での原子力災害のリスクは高い状態が続いている。 AP通信が報じたところでは、2022年9月19日にロシアのミサイルがウクライナ南部の南ウクライナ原子力発電所から300メートル以内に着弾した。ウクライナの他の原子力発電所も危機に瀕している。

ウクライナ当局者は産業機器に打撃を与えたものの原子力発電所の3つの原子炉を外れた今回の攻撃を「核テロ」行為だと非難したと、AP通信が報じた。

2022年3月にロシアが世界10大原子力発電所の1つであるザポリージャ原子力発電所を占拠したことで、チェルノブイリよりも規模がさらに大きい原子力災害が差し迫っているのではないかという国際的な危惧が高まった。 ほとんどの専門家は、1986年のウクライナのチェルノブイリ原子炉のメルトダウンは最悪の原子力災害であり、これまでにない健康、経済、環境への影響をもたらしたと考えている。

ザポリージャ原子力発電所が占領された直後、在キーウ米国大使館は、ロシアによる同発電所への砲撃を「戦争犯罪」と呼んだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、同発電所での爆発が「チェルノブイリ6つ分」の規模になる可能性があると予測した。 同大統領は「我々はウクライナの歴史、ヨーロッパの歴史が終焉したかもしれない夜を生き延びた」と述べた。

以来、核の大惨事に対する危惧を和らぐことはなく、ロシアがウクライナに不当に侵攻してから7か月後が経った今もこの地域を危険にさらしている状態が続いている。 ザポリージャ原子力発電所付近の砲撃は8月から9月初めにかけて続き、国連の原子力監視団である国際原子力機関IAEA)の専門家たちが施設を査察した時も止むことはなかった。 

IAEAは9月6日に発表した52ページに及ぶ報告書で、「6つの原子炉が稼働する同発電所に影響を及ぼすさらなる状況の悪化は、ウクライナやその他の地域で人間の健康や環境に深刻な放射能影響を及ぼす可能性のある深刻な原子力事故につながる恐れがある」と警告した。

英国のバーバラ・ウッドワード駐米大使は同日、国連安全保障理事会で「原子力発電所の占領を選択し、ザポリージャ原子力発電所を集中攻撃することで、ロシアは核の安全性を賭けたルーレットを行っている」と述べた。

数日後、ザポリージャ原子力発電所は砲撃により冷却システムを維持するための電力供給線が損傷し、電力を喪失したことで、懸念がさらに高まった。 メルトダウンのリスクを減らすため、発電所の6つ目の原子炉が冷温停止された。 しかし、原子炉を冷却するためには外部電力が必要だ。

「もし電力を喪失したら、かなり古いディーゼル発電機に頼って安全システムを稼働させることになるだろう」と、化学兵器、生物兵器、放射能兵器、核兵器の専門家である退役した英国陸軍のハミッシュ・ド・ブレトン=ゴードン大佐はCBSニュースに語った。 同氏はさらに、「アメリカやイギリスの原子力発電所では、緊急電源を投入しなければならないことは、10年に1、2回あるかどうかだ。 週に1~2回発生するとなると、さらなる問題が発生する可能性が飛躍的に増加する」と述べた。

オクサナ・マルカロワ駐米ウクライナ大使は、原子炉の運転停止はウクライナにとって強制的な決定であるとした。 「完全な解決策は、ロシアが撤退し、IAEAの勧告を実施し、発電所を非軍事化することだ… これにより発電所の安全がもたらされるだろう」と9月11日のテレビインタビューで述べている。

AP通信が報じたところによると、9月16日、IAEAの35か国の理事会は、ロシア政府が同発電所の占拠を直ちに中止するよう求める決議を可決した。 IAEAはまた、同施設とその周辺地域を非武装地帯に指定することを求めた。 ラファエル・グロッシーIAEA事務局長は、ロシア軍はウクライナと米国の要請に応じて「施設の完全な支配権をウクライナに返還するべきだ」と述べた。

9月17日に発電所の電力が復旧したものの、グロッシー事務局長は「状況は依然として不安定だ」とツイートした。 IAEAは引き続き同発電所に滞在し、原子炉を監視している。

多くのアナリストは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍を平和的に発電所から撤退させることに懐疑的だ。 「彼が持っている切り札はほとんどない。 彼にとって、ザポリージャ発電所は戦わずして諦めることのない切り札だ」とド・ブレトン=ゴードン氏は述べている。

「ウクライナの民間軍事施設はロシアにとって重要な軍事戦略的拠点となっており、 ロシアはこれまで核兵器の使用を脅かす必要がなかった」とロシアの原子力政策、防衛、原子力産業に関する在モスクワ専門家マクシム・スターチャクは2022年9月9日、欧州政策分析センターに寄稿した記事で述べている。 さらに、「そして、原子炉内には爆弾よりも桁違いの放射線があるため、原子炉の爆発による放射線汚染ははるかに大きくなるだろう」と述べた。

ロシアの軍事指導部は、原子力発電所を破壊することは核兵器を使用することと同じ程効果的だと繰り返し述べてきた。 ロシアの安全保障理事会のドミートリー・メドヴェージェフ副議長は、ザポリージャ発電所が砲撃された後、「欧州連合内に原子力発電所があることを忘れてはならない。 そこでも事故は起こり得る」と述べた。

ロンドンのシンクタンク、チャタム・ハウスの国際安全保障研究ディレクター、パトリシア・ルイス氏は、この攻撃がロシアがウクライナの原子力発電所を冬までにオフラインにしようとしている試みの一環だと述べている。

同氏は「原子力発電所を標的とするのは非常に危険で違法な行為だ」とした上で、 「その意図を知っているのは司令官だけだ。しかし、明らかにパターンが存在する」と語った。

関連特集: ウクライナ情勢