「この村人たちは顔認識アルゴリズムを訓練するために自分の顔を売っていた。引き換えに食用油が支給された。彼らは地球上で最大の人間監視実験において、小さいながらも重要な役割を担っている……」
米紙ワシントン・ポスト4日付は「地球上で最大の人間監視実験」の一部始終を目撃したCate Cadell記者の報道記事を掲載した。
2019年、当時ロイターの中国特派員だったCadell記者は、河南省平頂山市郟県にある農村を訪れた。彼女はこののどかで小さな集落で異様な光景を目にした。
真昼の暑さの中、60人ほどのお年寄りが村の広場につくられた撮影ブースに並んでいた。すぐそばには、食用油、やかんなどの景品タワーがあり、撮影用の三脚の後には、おんぼろ机の上に高価そうな大型コンピュータが置かれていた。
カメラの前で、ある老婦人は顔の半分を覆い隠す大きなサングラスをかけ、指示された通り頭を上下左右に動かしていた。また別の老婦人は目や鼻が切り抜かれた他人の顔写真を渡され、それを自分の顔と重ね、鼻だけを露出して撮影されていた。
指示通りに撮影をこなした後、老婦人らは景品タワーから食用油を取り、去っていった。
Cadell記者によれば、近年中国では顔認識など人工知能(AI)アルゴリズムの訓練に使うデータ収集のニーズが高まっているという。
このプロジェクトには最大規模で地元住民数万人が参加することもある。プロジェクト担当企業の社長は「誰のためにデータを収集しているのか」については語らなかったが、彼のクライアントには、中国政府や国内最大のハイテク企業も含むという。
Cadell記者は何年もかけて、中国警察の何千もの注文書を集め、その監視システムに対する要求について調査を行ってきた。
18年の北京、広西省などからの注文書には、ウイグル人など少数民族の出没を警告する機能についての要望があったという。また、深夜に何度も要所に現れるなど「不審な行動」をとれば、顔情報がブラックリストに登録され、地元警察に通報が行くよう設定している地域もあるという。
中国全土に設置された顔認証機能搭載の監視カメラは、通行人をスキャンしてその身分を特定できるだけでなく、犯罪や精神疾患の記録、陳情者かどうか、またウイグル族やチベット族かどうかも識別できる。ウイグル族やチベッド族、精神疾患患者は一般的には警察が生まれつきの犯罪者と見なしているようだ、とCadell氏は指摘した。
Cadell記者は、元ロイターの中国特派員として長年にわたり中国の政治、監視、検閲などについて報道を行ってきた。21年からワシントン・ポストの記者として働いている。
中国国内では近年、「顔認証」技術が急速に普及しており、陳情者、反体制派や少数民族などへの監視・弾圧ツールとして悪用される可能性が高く、「人権侵害につながる」と懸念する声が以前から上がっている。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)は今年6月に公表した調査報告書の中で、「中国政府は統治維持のために、個人情報、行動履歴、社会関係などを含む世界最大のDNAデータベースを構築し、国民一人ひとりの個人情報や活動、社会的つながりを最大限に把握しようとしている」と指摘している。
現在、世界に約10億台ある監視カメラの半数以上が中国国内に設置されているといわれている。中国全土に張り巡らした監視カメラのほとんどが顔認証技術を含むAIに適合しており、監視設備は公共の場所以外に、民間企業などでも設置している。
(翻訳編集・李凌)
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