董宇紅博士が語る「不思議な脳のおはなし」(2)

2022/04/30
更新: 2022/04/30

(前稿より続く)

人間の思考は、一体どこから来るのでしょうか。
水頭症によって脳が萎縮している人のなかにも、正常な社交能力をもち、学業成績が優れている人がいます。

 

「意識」はどこから来るのか?

ジョン・ローバー医師の研究成果は、単純に「人間は脳を必要としない」ことを証明するものではありません。

しかし、脳が非常に小さく、ほとんど存在しない状態になっても、通常の生活を送り、さらには高度な知能を持つケースがあるということは明示しています。

人の意識、認知能力、人間の知能。
それらは、必ずしも「脳から発せられる」ものではないのかもしれません。だとすれば、人の意識はどこから来ているのでしょうか。

ローバー医師の研究成果を目にした多くの神経科学者は、新たな考察の段階へと進みます。

人間の体には「見えない脳」があるかもしれない。
脳の機能は、我われが観察できる大脳皮質だけで動いているわけではない。
大脳皮質よりもっと深い構造、つまり「深層大脳」が存在するかもしれない、などです。

ロンドン大学の解剖学教授パトリック・ウォール氏は、こう述べています。
「何百年もの間、神経学者は自分たちが貴重なものとしてきた脳の機能に関する全ての発見は、大脳皮質によって行われていると考えてきました。しかし実際には、大脳皮質にあると考えてきた機能の多くは、脳の深層構造によって行われている可能性が高いのです」

米ハーバード大学付属ベス・イスラエル病院の神経科医ノーマン・ゲシュウィンド氏は、「脳の深層構造が、多くの機能に重要であることは間違いありません」と指摘します。

英リバプール大学の神経生理学教授デイビッド・バウシャー氏も、「現在考えられている以上に、脳の深層構造が重要であることは、ほぼ間違いないのです」と言います。

 

意識が「体外に存在する」可能性も

また、「無脳症でありながら意識がある」という現象に対して、イギリスの生化学者ドナルド・フォースダイク氏は、2015年にこんな見解を提示しています。

「人間の意識は、たとえ大脳が小さくなっても、亜原子(原子より小さな粒子)として保存されているのかもしれません。しかしそれは、現在の生物化学者や生理学者には未知の物質なのです。あるいは、それは私たちの体外に保存されている可能性もあります。もちろん、体外記憶に言及すると、抽象的な心や精神の領域に触れることになります」

1963年にノーベル医学賞を受賞したオーストラリアの神経生理学者であるジョン・カリュー・エックルス氏は、人間の「意識」と「脳」は別個のものと考えました。

エックルス氏によると、「人間には、脳から独立した非物質的な意識が存在しており、その意識が脳を制御して活動している」と言います。

したがって、たとえ(水頭症などで圧迫され)物質的な脳が死んだとしても、この「見えない身体」が残り、「意識」をもった生命活動が可能になるのです。

そのほか、『中華精神神経科雑誌』に発表された唐山地震(1976)の研究を含め、臨死体験に関する研究を行った科学者もいます。

研究者らは、「死の危機に瀕した一部の人が、脳が活動していない状態でも、周囲で発生する全てのことをはっきりと観察している。さらに、体外から、自分の物質的な肉体を観察する」ことを発見しました。

 

「見えない身体」を想像できるか

これもまた、人間には目に見える物質的な体のほかに、「見えない身体」が存在する可能性を考えさせます。
そして、その「見えない身体」は、時として物質的な肉体から抜け出すことができるのです。

新型コロナウイルス(中共ウイルス)に感染した患者のなかには、脳がウイルスによって2%損傷されたことで、感染症が回復した後に、認知障害などさまざまな症状が現れるケースもあります。

また、一部のアルツハイマー型認知症の患者は、脳の一部が萎縮しているために、自力での生活が困難になっています。しかし、先に見たように、「無脳症」でありながら脳の機能が全く正常であるケースもあります。

この両者の差は、一体どこから生じるのでしょうか。

一部の新型コロナ患者は、脳がウイルスによって2%損傷されると、認知障害など様々な症状が現れることがあります。(Shutterstock)

まだ限られている「現代医学の認識」

そこでカギとなるのが、「見えない身体」あるいは「脳の深層構造」が本当に損なわれているかどうか、ということです。

現代医学の研究では、例えば病気の原因を解明するにしても、分子細胞からなる人体しか観察できていません。

物理学はこの200年の間に、物質世界について「原子はさらに小さく分割できる」として、電子や原子核、中性子、ニュートリノなどを発見しました。

しかし、現在の医療関係の機器(例えば顕微鏡、CT、超音波、X線など)は、依然として分子レベルの人体構造までしか観察できないのです。

将来、より微小な物質を観察できる高性能の顕微鏡ができれば、さらに微視的かつ深層的な人体の存在形態を観察できるようになるかもしれません。

ただし、いま言えることは、「人間の脳に対する認識は、まだ非常に限られている」ということです。

おそらく人間の脳は、現在の私たちが想像できないほど高度な「メカニズム」として働いている可能性が高いのです。

(口述・董宇紅/翻訳編集・鳥飼聡)

エポックタイムズのシニアメディカルコラムニスト。中国の北京大学で感染症を専攻し、医学博士と感染症学の博士号を取得。2010年から2017年まで、スイスの製薬大手ノバルティスファーマで上級医科学専門家および医薬品安全性監視のトップを務めた。その間4度の企業賞を受賞している。ウイルス学、免疫学、腫瘍学、神経学、眼科学での前臨床研究の経験を持ち、感染症や内科での臨床経験を持つ。
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