ロシアがウクライナ国境への大規模な兵力展開を行なっている間に、ロシアから戦闘機を購入する契約を締結していたインドネシアが調達計画を正式に破棄すると発表した。これでロシア防衛産業は主要なインド太平洋諸国との取引を1つ失うことになった。
ニュースウェブサイト「ユーラシアン・タイムズ(EurAsian Times)」の報道では、2021年12月下旬にロシアのスホーイ製Su-35戦闘機11機の調達計画を破棄すると記者会見で発表したインドネシア空軍のファジャール・プラセティオ(Fadjar Prasetyo)参謀総長は、「いつまでもロシアとの契約に拘っているわけにはいかない」と述べている。
BenarNewsが伝えたところでは、インドネシアは調達工程の長期化および米国から制裁措置を課される可能性に対する懸念から、同多用途戦闘機の調達計画を破棄したと考えられる。
プラセティオ参謀総長の説明によると、インドネシアは現在、米国製のF-15戦闘機かフランス製のラファール戦闘機のいずれかに選択肢を絞り込んだ模様である。
インドネシア空軍は飛行中隊を最大で3隊追加し、各隊が12機から24機の航空機を運用することを計画している。BenarNewsの報道では、インドネシアは2018年に推定1140億円(11億4000万米ドル)相当でロシア製戦闘機11機を調達することでロシアと暫定合意に達していた。
BenarNewsによるとインドネシアが懸念しているのは、2017年に米国で施行された「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に基づく制裁措置である。同法には、イラン、北朝鮮、ロシアと「重要な取引」に従事した国すべてを米国は制裁対象にできると規定されている。
ロシアに取引上の打撃を与えた今回のインドネシアによる契約破棄は、インド太平洋地域におけるロシアの影響力がいかに乏しいかを反映しているとも受け取れる。カーネギー国際平和基金(Carnegie Endowment for International Peace)が2020年に発表した論文によると、2014年に発生したクリミア併合後、ロシアによるアジアへの中心軸移動が話題となったが、これは「見掛け倒し」であったようだ。
米国家情報会議(NIC)の国家情報職員を務めた経歴を持つユージーン・ルーマー(Eugene Rumer)研究員、カーネギー国際平和基金のロシア・ユーラシアプログラムのリチャード・ソコルスキー(Richard Sokolsky)非常勤上級研究員、同じく同プログラムに所属するアレクサンダー・ウラディジック(Aleksandar Vladicic)研究助手の共同論文には、「歴史、戦略的文化、人口構成、主要な経済関係という要因により、今後もロシアはアジアではなく欧州の勢力として存在する」と記されている。
著者等はまた、インド太平洋地域が少なからずロシアの眼中にある理由を、「主に中国との戦略的提携関係が拡大しているためであり、中露の親交関係は2014年ではなく1989年から始まっている」とし、「中国との重要な地政学的関係の維持・強化を図るという最優先事項に比べれば、インド太平洋地域におけるロシア政府の経済、軍事、安保、外交上の利益はそれほど重要ではなく、どうしても二の次になる」と説明している。
著者等の主張によると、ロシアのインド太平洋地域に対する比較的控えめな態度は、極東における同国の軍事姿勢と共通するところがある。ロシア連邦軍・東部軍管区における部隊の規模は、質的改善の範囲と規模と同様にほとんど変化がないままに留まっている。
CNNニュースの報道では、2022年1月31日に開催された国連安全保障理事会(国連安保理)の公開会合で、ウクライナのセルギイ・キスリツヤ(Sergiy Kyslytsya)国連大使がロシアの状況について発言している。
つまり、ロシアは調達計画破棄により発生した打撃を認識しながらも、ウクライナ国境沿いに集結させていた地上部隊の規模を約12万人に増強し、クリミア地域には1万8,000人の海軍兵と空軍要員を配置しているのである。
今回の大規模な軍隊派遣は、ロシアの真の優先事項を映し出す最も有意義な証拠となる。キスリツヤ国連大使は同会合で、「問題はロシアが軍を集結させた理由である。当国は独自の立場を明確に示すと共に、さまざまな会議で同じ疑問を繰り返し検討してきた」とし、「今回の動きは、ロシアが激化する緊張の緩和や再度紛争が発生する可能性の防止に全く無関心であることを示す証に他ならない」と主張している。
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