リトアニアのランズベルギス外相は10日、一時的な物価や電気料金の上昇は考えられるが権威主義の中露への依存からは脱却すべきだと語った。訪問先のカナダのナショナル・プレス・クラブで演説した。
バルト三国のリトアニアは2つの大きな地政学的な圧力に面している。隣国ウクライナの国境には十数万人のロシア軍が動員され緊張が高まるいっぽう、中国共産党からは継続的な経済強制を受けている。
「利益による(中露への)依存だが、相手に責任を求めることさえ制限される」不均衡な関係になったとランズベルギス氏は述べた。また数十年の貿易の自由化で法の支配や民主主義の価値が伝わると考えられていたが「実際は全く逆」と、旧来の方針を転換する必要性を語った。
「欧州へのエネルギー供給を考えてみよう。これはロシアに対する変化の誘因にもなっていない」とし、逆にロシアの軍事的侵略に対するヨーロッパの対処能力を制限していると述べた。
リトアニアは安全保障における「レジリエンス(強靭性)」を構築しており、それが他国の刺激となることを期待していると同氏は述べた。長年ロシアのガス供給に依存していたリトアニアは、2014年に初めてロシア以外から調達するLNGの受け入れ基地の開設を決めた。大型の浮体式LNG貯蔵・再ガス化基地は「インデペンデンス(独立)」と命名され安全保障にかける意思が示されている。
ランズベルギス氏によると、この基地の設置により比較的安価な電気料金を設定することができたという。
近年リトアニアは中国に対峙する姿勢を示している。2020年には中東欧・バルカン諸国と中国による経済協力の枠組み「17+1」から離脱。翌21年年には国会では新疆ウイグル自治区における人道に対する罪を「ジェノサイド(大量虐殺)」と認定する決議を採択し、「台湾」の名を冠した台湾代表処を首都ビリニュスに設置した。
政府がためらうなか…個人レベルで何ができるのか
記者会見場の学生からは、政府が確固とした行動を取るのをためらう場合、個人レベルで何ができるかを尋ねた。ランズベルギス氏は情報発信を続けることや、中露依存脱却により物価が割高になることにも理解することだと述べた。
強制労働収容所が絡む製品を避ければ「例えば靴やiPhone(アイフォーン)が高くなる」が、価格設定には原則があるとして「私たちはどちら側にいるのかを認識しなければならない」と語った。
これには一部の欧州政府が懸念する欧州「グリーン目標未達」議論にも共通するとした。欧州諸国と米国は、再生エネルギーのような集約型産業を発展途上国、特に中国に「外部委託」しながら温室効果ガス排出ゼロの目標を達成しようとする傾向がある。
太陽光パネルの原材料は新疆地域で生産され、強制労働が含まれるとされる。さらに豪州戦略政策研究所は2020年初頭の報告書で、約8万人のウイグル人がアップルやナイキ、BMW、ソニー、サムソンなど一流企業の工場での労働を強いられていると推定した。
北京とモスクワ、バラ色の関係ではない
ランズベルギス氏は、冬季五輪開幕日の2月4日に公表された中露共同声明について、ロシアのプーチン大統領が西側諸国に突き付けた安全保障要求が含まれていないことから、双方はバラ色の関係ではないと指摘した。
「プーチン氏がこれを望んでいることは絶対に間違いない。毎日どの場面でもこれ(安全保障要求)を繰り返している」と同氏は述べた。
ロイター通信によると、プーチン氏は北大西洋条約機構(NATO)の不拡大やロシア国境付近のミサイル配備停止、欧州のNATO軍事基盤を1997年の水準まで縮小させるといった3つの主要な要求をNATO加盟国に送り、署名と承認を求めている。
いっぽう、中露共同声明にはプーチン氏の安全保障要求に関する中国の明確な態度が示されていない。このことから、ランズベルギス氏は中露関係は「心から望んでいるのではなく必要に迫られてパートナーになっている」と分析した。
クレムリンが4日に公表した中露共同声明では、モスクワは台湾を「中国の不可侵の一部」とする中国共産党の「一つの中国」政策の支持を再確認した。しかしプーチン氏はこの問題にほとんど関心を抱いていないとランズベルギス氏は指摘した。
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