緊張状態が続くウクライナ国境情勢をめぐり、林芳正外相は8日の記者会見で、ロシアが同国に侵攻した場合の米国と連携した制裁措置について言及した。日本政府はクリミア侵攻の2014年にも欧米と協調した制裁を実施しており、今回も同様に制裁に踏み切るとの見方が強い。
「米国と緊密に調整した強い行動」を検討していると林氏は会見で述べた。1月に行われた日米首脳会談で、ウクライナに侵攻すればロシアに対して両国が「強い行動を取る」と制裁発動を示唆したことに関連しての発言だ。
国会ではロシアに対する強硬策を否定しない決議が2月9日までに衆院・参院本会議で採択された。「国際社会とも連携し、あらゆる外交資源を駆使して」ウクライナの緊張状態の緩和に全力を力を尽くすよう政府に要請した。2014年のクリミア侵攻では同様の決議はなく、武力による現状変更に対してより強く牽制した格好だ。
2014年当時、日本はロシアに対して輸出制限と経済制裁を課した。例えば、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、ロシア最大手銀行の国営ズベルバンクと同ガス大手ガスプロムなど複数の組織と個人を制裁対象とした。
いっぽう、当時の日本の制裁はガス採掘技術の規制などを対象にした米やEUの制裁と比較すると控えめだったと、東京大学先端研究所の専任講師・小泉悠氏は1月25日付の東大シンクタンクROLESの配信動画のなかで指摘する。
今回もしロシアが軍事介入したならば「日本は西側陣営の一員として断固とした姿勢を示し、実効力ある制裁を課すべきだ」と小泉氏は述べた。
米国、調整進む対ロシア制裁 日本企業にも影響
クリミア侵攻以来のウクライナ危機が高まるなか、米国では対ロシア制裁案の調整が進む。1月31日には、米国のサキ大統領報道官が侵攻ならばロシア大統領府関係者とその家族を対象とした制裁パッケージを準備していることを明らかにした。
米国の制裁は日本企業もロシアの制裁対象組織への幇助と見なされれば対象となりうる。制裁発動後、例えば日本企業が米国の銀行を介してロシアに米ドル建の送金を行えば、禁止行為の関与として制裁違反とみなされる可能性がある。
また、米国政府が輸出規制を導入した場合、米国原産品や米国の技術などを使い製造された外国製の製品も対象となる。華為技術(ファーウェイ)に対する輸出規制でも米国の技術を使う日本企業の部品供給ができなくなったことは記憶に新しい。
日本企業はロシア企業と直接的な取引がなくても、ロシアと繋がりが深い欧州に拠点がある場合や、サプライチェーンにロシア企業が組み込まれている場合、リスクシナリオの検討が迫られる。
制裁実施には一定の猶予期間が設けられることが想定される。しかし、例えばロシアから原材料を輸入していないかをサプライチェーン全体で確認し、その契約関係を調査するには相応の時間を要することも予想される。
ロシアが対抗措置をとった場合、日本企業は日米欧とロシアの制裁の板挟みになる可能性もあり、厳しいリスク管理が問われている。
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