インドは3億5000万ドル以上の超音速巡航ミサイルをフィリピンに供給する。これは同国の軍事輸出として過去最高額だ。冷戦時代、米露それぞれに親近感を持っていたため溝の生じた両国だが、兵器提供は心理的障壁を乗り越えるのに役立つと専門家は見ている。
「世界で最も古い民主主義国家の一つであるフィリピンとインドは多くの点で非常によく似た国だ。しかし何らかの理由で、インドはロシアに近く、フィリピンは米国に近く、相互に疎遠だった」とフィリピン工科大学のリチャード・ヘイダリアン准教授は大紀元に語った。
フィリピンは14日、インドから超音速巡航ミサイルを導入する方針を明らかにした。ロレンザーナ国防長官は海兵隊がこの新兵器システムを使用する考えを示した。オペレーターとメンテナンス担当者を訓練させるインド側からの後方支援も受け入れるという。
両国は「強力でポピュリスト」な国家指導者を持ち、過去10年間に互いに距離を縮めてきたとヘイダリアン氏は述べた。同氏によると、フィリピンのドゥテルテ大統領とインドのモディ首相は2018年のASEANインド記念首脳会議では「信頼関係」について共有したという。
その1年前にはモディ首相がマニラを訪問し、その1年後にはコビンド大統領が両国関係70周年を記念してフィリピンを訪問した。
「南シナ海の主要な領有権主張者の1つである米国の条約上の同盟国と、アジアの主要な新興国であるインド」との防衛協力は進むとヘイダリアン氏は述べた。
地政学のコンサルタントで防衛技術の管理を専門とするニューデリー在住のパティクリット・ペイン氏は「戦略的原則」はインドとフィリピンの関係強化に役立つかもしれないと大紀元に語った。
「兵器販売はそれ自体、異なるレベルの信頼関係を構築するのに役立つ。他のビジネス領域にも展開する可能性もある」とペイン氏は述べた。
東南アジアの新たな方程式
ワシントン拠点のシンクタンク、ハドソン研究所の非常勤研究員である長尾賢博士は大紀元の取材に対し、今日まで東南アジア諸国に対するインドの軍事輸出は、訓練や整備、ロシアの輸入品の後方支援、あるいは軍隊全体に対する訓練という形だった、と述べた。
「例えばマレーシアでは、インドはロシア製戦闘機MIG-29とSU-30のパイロットと地上勤務員を訓練している。インドネシアでは、SU-30戦闘機の整備がインドによって実施されている。ベトナムの場合、インドはSU-30とMIG-21戦闘機のパイロットと地上勤務員、ロシア製のキロ型潜水艦の乗組員を訓練した」と長尾氏は述べた。さらに、インドは米国の兵器を使用するシンガポール人に訓練場を貸していると同氏は付け加えた。
「タイが空母を購入したとき、インドは1990年代にその乗組員を訓練した。このようなソフト面での支援は東南アジアにおけるインドの大きな貢献だ」と長尾氏は言った。
兵器に関しては、基本的にフィリピンやシンガポールは米国に、ベトナムはロシアに依存している。インドネシアとマレーシアは米国とロシアの両方から武器を輸入しており、タイ、ミャンマー、カンボジアは中国に依存している。ラオスはベトナムに依存しているが、中国の影響力が拡大しつつあるという。
「このため東南アジアは米中競争の舞台となりうる。ASEANは独立した10カ国のグループだ。中国はASEANの陸側から圧力をかけているが、米国はASEANの海側を維持している。ベトナムは陸側と海側の中間に位置している。インドは東南アジアではないが米国の味方であり、かなり自立した大国だ」と長尾氏は述べた。長尾が言う「大国」とは、この地域に影響力を持つ国という意味だという。
冷戦構造が変化する中で、地域内で兵器提供や訓練支援というインドの戦略的役割が進化している。
米国の兵器は高品質だが、東南アジア諸国にとっては高価だ。ロシアの兵器は高価ではないがメンテナンスに高いコストを要求する。「このため、東南アジア諸国はインドに安価なロシア製兵器の整備・訓練を依頼しているのだ」と長尾は述べた。
長い間フィリピンの軍事力は限られており、防衛装備品の輸入も米国に依存していた。しかし中国の脅威が増すなか、現在のフィリピン政府は武器調達の多様化に着手している。いまはインド、日本、韓国、ロシアから武器を輸入している。
「ただ、フィリピンはインド同様に中国と領土問題を抱えているだけではない。フィリピンがNATOの米国の兵器装備国であるという要素もある。超音速巡航ミサイル『ブラモス』はインドとロシアの合弁事業だ。そのため、フィリピンはロシアの優れた兵器や、ロシアの技術を多く使用するインドの兵器など、より多様な提供先を持つことができる」とヘイダリアン氏は述べた。
(つづく)
(翻訳編集・武田綾香)
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