沖縄県内で中共ウイルス(新型コロナウイルス)の感染が拡大するなか、中国共産党系メディアは沖縄現地紙の報道を引用し、米軍に非難の矛先を向けている。日米同盟を引き裂くことが狙いとの見方もあり、中国共産党の影響工作が浮き彫りになっている。
基地周辺で感染拡大 対応急ぐ政府と米軍
米軍基地周辺での感染拡大に対応すべく、政府と米軍は一連の対応策を打ち出している。7日、政府は感染者が増加する沖縄・山口・広島の3県をまん延防止等重点措置の適用対象にすると決定した。在日米軍は健康保護態勢レベルを引き上げ、マスク着用義務化や米軍機の日本到着時の検査実施など感染症対策を強化するほか、10日には兵士および基地職員とその家族らに対して2週間の行動規制を命じた。
医療体制がひっ迫している沖縄県に対し、知事の災害支援要請を受けて自衛隊は11日、医療支援チームを派遣すると発表した。
日米地位協定のもと、日本には5万人以上の米兵や関係職員が駐留している。そのうちの半数に近い約2万5000人が沖縄県に集中している。外務省によると、11日時点で全国の在日米軍施設ではすでに3638人の感染者が確認された。
「米軍が感染源」 中共の言論が日本社会に影響
米軍関係者に感染者が多い状況を受けて、中国外交部の報道官は米軍を批判するコメントを出した。趙立堅報道官は昨年12月28日の定例記者会見で、沖縄における感染拡大は「米軍関係者の無秩序な活動」に起因するものであるとし、「日本国内で大きな怒りと強い不満を呼び起こしている」と述べた。
汪文斌副報道局長も1月5日の記者会見で、沖縄でのオミクロンが拡散したのは在沖縄米軍が原因であると断定し「海外の駐留米軍は(感染を一気に広げる)スーパースプレッダー」だと話した。
中国共産党のこれらの言論は日本国内の大手メディアによって報道された。さらに、沖縄現地紙は「米軍基地における感染率は世界で最も高いと推計される」といった内容で報道。日本国内では在日米軍に厳しい目が向けられ、現職の沖縄県知事は防疫の観点から「日米地位協定」の見直しを求める意見を発表した。
元産経新聞記者の三枝玄太郎氏は米軍の対応が不十分であることを批判しつつ、一部メディアの報道について「必要以上に米軍への憎悪を煽っているようにしか見えない。コロナは中国由来なのを忘れてはないでしょうね」との考えを示した。
中国問題評論家・石平氏は、「中国外務省が日本の沖縄の感染状況に言及すること自体はそもそもの内政干渉。沖縄県民の反米感情を煽り立てて日米同盟の離間を図る目論見である」と自身の分析をツイートした。
駐沖縄米軍と住民との対立は中共にとって「一石二鳥」
「環球時報」に代表される中国共産党のメディアなども同時期に、中国外交部と同様な論調で報道を行なった。日本や韓国に駐留する米軍基地が感染症拡大の「震源」であり、米軍と日米同盟に批判的な記事を発表し続けている。
前述の沖縄現地紙の報道は新華社通信や中国中央テレビ(CCTV)、環球時報などの中国共産党系メディアによって引用され、中国国内へのプロパガンダとして報道された。
中国共産党が沖縄の反米感情の広まりを望んでいることはすでに外国の報告書で明らかにされている。フランス国防相傘下のシンクタンク「軍事学校戦略研究所(IRSEM)」が昨年11月に発表した報告書では、沖縄に対する中国共産党の浸透工作について記されている。
「住民と駐沖縄米軍が対立するのは中国共産党にとって一石二鳥」「中国本土にほどなく近い沖縄は、地理的戦略目的が高く、分離勢力を煽って日本の中央政府から引きそらそうとする工作が続いている」。
メディアについても、「沖縄の米軍基地に反対する中国メディアの記事が、日本の左翼や平和主義者に共感されることはよくあることだ」と指摘されている。
報告書はまた、中国共産党が海外で影響工作を行う具体的な手法として、国営メディアを使って海外でプロパガンダを放送するメディア戦略や自己検閲の強制、ネット工作員による世論操作、独立運動や平和主義者の利用などを取り上げた。
中国共産党による政治工作への懸念は日本でも共有されている。岸信夫防衛相は1月6日、防衛研究所が昨年発表した『中国安全保障レポート2022』 についてツイートし、中国軍による「三戦(輿論戦・心理戦・法律戦)」などの政治工作について言及した。
このレポートでは、「輿論戦」とは「テレビ、有線放送、インターネット、新聞などの大衆メディアを主要な手段」とする「計画的かつ目的を持って選択された情報を敵側に伝達し、社会輿論を誘導・統制し、自分に有利であり、敵に不利な輿論状況を形成する」活動として取り上げられている。
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