演習により殺傷力、回復力、提携の強化を図る太平洋空軍

2021/08/16
更新: 2021/08/16

米軍が殺傷力、適応性、回復力の強化を目指して訓練に励んでいる。

高水準の即応性を実現するため、米軍は「パシフィック・アイアン2021(Pacific Iron 2021)」で空軍兵800人と戦闘機・航空機35機を展開した。これは「2018年米国国防戦略」の一環としてインド太平洋へ軍隊を配備するという太平洋空軍(PACAF)の動的戦力運用(DFE)作戦演習である。

7月中旬から始まったこの動的戦力運用演習では、戦闘機が米領グアムと北東へ106海里離れた北マリアナ諸島のテニアン島に集結し、それぞれの空港から模擬戦闘飛行を実施している。

カール・シュスター(Carl S.chuster)防衛アナリストは、中国人民解放軍(PLA)が保有する現役の第5世代戦闘機は20機から24機と言われていると指摘しており、CNNニュースに対して、「同演習は[中国が]保有する第5世代戦闘機総数よりも多くの同戦闘機を短期間で戦域に展開できる太平洋空軍の能力を実証するものである」と説明している。

CNNニュースの報道では、約180機のF-22戦闘機(愛称:ラプター)を保有している米軍は中国人民解放軍の比ではない。 ハワイ州パールハーバー・ヒッカム統合基地に司令部を置く太平洋空軍の司令官を務めるケン・ウィルズバック(Ken Wilsbach)大将はCNNニュースに対して、「これほど多くのF-22ラプターを太平洋空軍の作戦地域に同時に展開したのは今回が初めてである」と述べている。

米国国防戦略によると、米軍司令官には不測の事態に迅速に対応し長期的な戦闘準備態勢を維持しながら、「戦略的環境を積極的に形成する」ことを目的として緊急待機部隊を活用することが求められる。

ウィルズバック大将の説明では、パシフィック・アイアン2021演習では「迅速機敏な戦力展開(ACE)」訓練も実施している。迅速機敏な戦力展開では多くの「ハブ&スポーク」に力を分散させる必要があることから、「戦闘機が大規模拠点(ハブ)とそこから伸びる各拠点(スポーク)の間を1日に複数回、1週間に複数回の移動を繰り返す」。

アンダーセン空軍基地、アントニオ・B・ウォン・パット国際空港(グアム国際空港)、グアムのアンダーセン空軍基地に近いノースウエストフィールド、テニアン国際空港を利用して、戦闘機、輸送機、空軍兵、支援装備による迅速機敏な戦力展開訓練が実施されている。

これは米国の戦闘機や他の戦闘資産を別の空港に分散することで敵からのミサイル攻撃時の生存性を高めるように設計されている。

シュスター防衛アナリストは、「米国空軍の迅速機敏な戦力展開能力を実証することで、中国を強力に牽制し、[米国の]同盟・提携諸国の安心感を高めることができる」と説明している。

太平洋空軍によると、パシフィック・アイアン演習にはアイダホ州マウンテンホーム空軍基地のF-15E(愛称:ストライクイーグル)10機と横田基地常駐のC-130J軍用輸送機(愛称:スーパー・ハーキュリーズ/「ヘラクレス」の英語読み)2機がF-22戦闘機と共に派遣されている。また、米空軍の主要な2軍団から結集した空軍兵が数週間をかけて迅速機敏な戦力展開と動的戦力運用の訓練に参加している。

提携諸国の安心感を高めるため米軍は7月にも月を通して同盟諸国の軍隊との合同演習を実施してきた。その1例として、米軍がグアムでシンガポール空軍(RSAF)の兵士と航空機と共に実施した二国間訓練が挙げられる。

7月7日には、シンガポール空軍のケルビン・コン(Kelvin Khong)少将(写真・左)とアンダーセン空軍基地・第36航空団の司令官を務めるジェレミー・スローン(Jeremy Sloane)准将が対面で、両軍の提携体制を強化する方法について協議した。

7月から8月上旬にかけての数週間、グアムでは空軍爆撃機、陸軍兵士、車両、兵器を用いた2つの同時合同米軍演習も実施された。 米軍は7月に実施されたオーストラリア国防軍(ADF)主導の演習「タリスマン・セーバー21(Talisman Sabre 21)」でも爆撃機を展開している。

ワシントン州の合同基地ルイス・マコードを拠点とする米国陸軍・第1軍団の主導により8月6日までの1ヵ月間にわたりグアムで実施された「フォレジャー21(Forager 21)」演習では、米軍は太平洋諸島全域で陸上自衛隊(JGSDF)と共に指揮統制演習を実施し、マルチドメイン作戦を実施できる軍団の能力を実証した。フォレジャー21演習には、150人の陸上自衛隊員と米兵が早朝にパラシュート降下する空挺作戦が含まれていた。

第1軍団司令官のザビエル・ブランソン(Xavier Brunson)少将は、「フォレジャー21演習では、陸海空、宇宙、サイバー空間の全領域にわたる地域同盟と国際協定を保護することを目的として、太平洋へ軍隊を動的に展開してあらゆる安保問題に対する対応措置を実践することができた」と述べている。

一連の演習を通じて、米軍は全領域統合指揮統制(JADC2)の改善にも努めた。 米国空軍協会専門誌「エアフォース・マガジン(Air Force Magazine)」が伝えたところでは、7月中旬に国防産業協会(NDIA)会議で、「米国空軍は空中戦、地上戦、海上戦という観点から戦争を捉えることを止めて」サイバー領域と宇宙領域という考え方を追加したと説明した米国空軍のS・クリントン・ヒノテ(S. Clinton Hinote)中将は、「このように全領域が繋がっているという観念に改めたことで、既存の米軍の指揮統制では任務を達成できないということが判明した」と述べている。

ヒノテ中将の説明によると、全領域統合指揮統制は合同部隊にとって異なる意味を有する。すべての運用と合同部隊を通してデータはリアルタイムでなければならず、「エッジクラウド」を使用することで、切断された状態で指揮を執る権限と機能を野戦指揮官に付与する必要がある。同中将がエアフォース・マガジンに語ったところでは、情報アクセスを一元化することはもはや理想的ではないとも考えられる。

エアフォース・マガジンに「非常に柔軟なC2 [指揮統制]が必要である」と語った当時の米インド太平洋軍(USINDOPACOM)副司令官、マイケル・ミニハン(Michael Minihan)空軍中将は、「ニア・ピア(同等に近い敵)に優位性のある敵の本拠地で戦闘するということの真の意味を理解し、前進するのに伴い、リスクとリスク負担の概念を変えていく必要がある」と語っている。  

(Indo-Pacific Defence Forum)