中国、放浪続くゾウの群れ 豪専門家「イメージ向上のために利用されている」

2021/07/12
更新: 2021/07/12

中国雲南省では昨年春以降、アジアゾウの群れが省内各地で移動を続けている。中国メディアはほぼ毎日、群れの動向を生放送で報道している。オーストラリアの専門家は、中国当局はアジアゾウの報道を通して、イメージ向上を図っているとの見方を示した。

昨年春、中国とミャンマーの国境に近い同省のシーサンパンナ・タイ族自治州の自然保護区に生息していたアジアゾウ17頭は、北上を始めた。プーアル茶生産地である普洱(プーアル)市墨江県から玉渓市元江県までの間で、そのうちの2頭がプーアル市へ引き返した。残り15頭は引き続き北上し、6月に保護区から約500キロ離れた省都の昆明市に到着した。その後、群れは玉渓市に折り返した。

過去数カ月、中国メディアがゾウの群れを追跡し報道したことで、SNS上でも15頭のゾウへの関心は高まっている。

国営中央テレビ(CCTV)は9日、「ゾウの群れは何の心配もなく、のびのびと丘陵や田園地帯を歩き回り、(穀物などを)食べていた」と報道した。この日、群れは玉渓市新平県の村に入った。

一部のネットユーザーらは、過熱するメディアの報道に対して、「私たち村民が最も気にしているのは、ゾウの群れが農作物を荒らしたことに、保険金や補償を受け取れるかということだ」「こんなに大規模に農作物が荒らされたのだから、損失規模は絶対に大きいだろう」などと不満を示した。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報10日付によると、ゾウの群れをめぐって、保険会社はすでに995件の保険金請求を受けた。損失規模は約637万元(約1億836万円)。2803戸の農家が損失を被った。保険会社は約507万元(約8625万円)の保険金を支払った。

豪メルボルン大学で講師を務める中国問題専門家、ルイザ・リム(Louisa Lim)氏は、中国当局がゾウの群れが農家や地元の住民にもたらす不安や、大規模な損害を無視して追跡報道を行っていることは、国内外に向けて、中国当局の「愛される」イメージを構築しようとしているからだと分析。

同氏はこのほど、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドなどに寄稿し、新型コロナウイルス(中共ウイルス)の大流行で起きた米中の「イメージ戦争」において、中国当局がアジアゾウの群れを勝つための手段に選んだとした。

6月、アジアゾウが横になって、寄り添うように眠る姿が撮影された。この様子は瞬く間に世界各国で伝えられた。

リム氏は、中国政府系メディアは、当局がバナナなどの餌でおびき寄せ、トラックなどの障害物を置いて、ゾウを人のいない場所に誘導していることをアピールしたと指摘した。

環球時報英語版は6月18日の記事で、「これらのゾウに感謝しなければならない。真摯で愛が溢れる中国の姿を表すことができた」と強調した。

リム氏は、可愛いゾウの群れが移動している動画が放送されたタイミングは、中国共産党の習近平総書記が「信頼され、愛され、尊敬される中国(共産党)のイメージ作り」を指示した時期と重なるとした。

習氏は5月31日、党中央政治局の対外プロパガンダ宣伝に関する会議で、中国共産党のイメージ向上を図るよう命じた。この2日後、中国国内のSNS上で、昆明市郊外でアジアゾウの群れが現れたという情報が相次いで投稿された。

リム氏は、SNS上でゾウの群れに関する投稿が急増したのは「偶然ではない」とした。同氏は、「愛くるしいゾウは、習当局が中国(共産党)を宣伝する最新の手段であり、国際社会に愛される中国(共産党)のイメージを作るためにある」と示した。

「中国当局は、アジアゾウの報道はイメージ改善に役に立つと気づいたようだ」

同氏は近年、中国当局は国際社会でプロパガンダ宣伝を強化するために、海外メディアの買収や衛星放送ネットワークの拡大を急速に進め、莫大な金額を投じて海外の新聞紙で広告を掲載していることを批判した。

(翻訳編集・張哲)