中国メディアが習近平氏の講話を報じない理由

2018/11/20
更新: 2018/11/20

習近平中国国家主席は最近、度々技術の「自力更生」に言及している。他国の技術盗用や強制技術移転の強要に対するトランプ政権の批判が念頭にあると思われる。しかし、この「自力更生」の発言は国営メディアの報道から削除されていた。その裏には、宣伝広報を担当する王滬寧中国共産党政治局常務委員の策略があるとされている。

 

「フィナンシャル・タイムズ」の11月13日付報道によると、習近平氏が9月に黒竜江省にある第一重型機械集団の視察を行った際、工場作業員らに対し、「国際的に、先進的技術や重要技術の獲得がますます困難になり、われわれは自力更生の道を歩まなければならない」と語った。だが中国中央テレビ(CCTV)はその部分の発言を編集し、一部を削除した。中国共産党機関紙の「人民日報」海外版も同様の操作を行った。

 

「自力更生」が削除されたのみならず、「外国技術を獲得することがますます困難になっている」という内容も国営メディアによって削除された。しかし中国共産党メディアが「自力更生」というスローガンを削除したのち、習近平氏は広東省を視察した際に再度「自力更生」という言葉を用いた。

 

「自力更生」は毛沢東が1941年、日本軍の進攻と国民党の経済封鎖で抗日根拠地に危機が迫っていたときに打ち出したスローガン。その後の1960年(3年大飢饉に見舞われていた)、1975年(文化大革命の末期)など中国共産党政権が政治的・経済的危機に直面し、国際的に孤立した時期に繰り返された。

 

習近平氏は米中貿易戦争勃発後、中国経済が萎縮している状況下で、このスローガンを再度持ち出した。発言を行った場所も注目された。第一重型機械集団は1954年旧ソ連の援助を受けて建設された重工業設備メーカー。当時の中国当局は朝鮮戦争が終了後、アメリカとの戦いが長期に及ぶと想定し、同集団を設立した。

 

しかし、これは国営メディアによって削除されたため、これは宣伝広報担当の王滬寧氏の意図によるものではないかと議論を呼んだ。

 

中国共産党の御用メディアが習近平氏の講話を加工したことは、中国共産党宣伝部門の判断だと一部の専門家は分析している。習近平氏の「自力更生」発言は、中国共産党政権がこれまで自主開発ではなく、外国の知的財産権を窃取・侵害したことで発展したことを逆に裏付けていることになる。このことは米国のトランプ大統領が貿易戦争を起こした理由の一つである。

 

中国共産党の宣伝広報は党上層部が直接管理し、宣伝を担当する政治局常務委員が責任者を務める。政権の安定運営のため、情報加工は必要に応じて行われる。

 

宣伝広報を担当する王滬寧氏は中国共産党の筆頭御用知識人とされてきた。王氏は中国共産党三代の指導者の相談役を務めてきたことから、共産党第十九回党大会で常務委員として抜擢され、習近平氏の二期目においてイデオロギーを管理する最重要人物となった。

 

「ニューヨークタイムズ」の昨年11月16日付報道によると、王滬寧氏は常務委員になる前から習近平氏の報道に関して特別な権限を有していた。王氏はプロパガンダを画策するのみならず、習近平氏の側近として、習氏の写真のメディアへの開放を管理していた。新華社等の国営メディアが発表する習氏の写真は、あらかじめ王氏の認可を要していた。

 

米中貿易戦争が勃発した当初、中国共産党内でも対立が激化し、習近平氏は沈静化を図っていた。王滬寧氏はあらゆるマイナス報道と評論を禁じたと海外の中国語メディア・博聞社に報じられた。

 

それによると、今年7月に王滬寧氏は中国共産党中央宣伝部および国営メディアの上層部を中南海(日本の霞が関に相当)に呼び集め、緊急会議を開いた。この秘密会議では、王滬寧氏は共産党中央(暗に習近平を指す)の権威を擁護するようにとくぎを刺した。その上で、中国共産党が有するあらゆる宣伝機関を最大限稼働させ、プロパガンダの死角と盲点を作らないようにと繰り返し強調した。

 

朝鮮半島の緊迫した情勢や米中貿易戦争、一帯一路経済構想から株式市場に至るまで、中国のあらゆる問題に関する報道は、すべて王滬寧氏が中国共産党中央宣伝部と各国営メディアに指示し、厳格に報道基準を定めてきた。しかし、王滬寧氏が習近平氏の権威とイメージを保とうとする一連の行動はまるで功を奏していない。中国共産党上層部のほとんどすべての政策は、国際社会と中国国民から非難されている。

 

(翻訳・文亮)