米中貿易摩擦でこれまで「徹底抗戦」と対抗姿勢を見せた中国指導部に変化が起きた。
10月30日、中国の崔天凱駐米大使は米中国交樹立40周年記念イベントで、米中関係を改善・発展させるのに「善良な天使が必要だ」と述べ、これまでの対抗姿勢をトーンダウンさせた。このイベントで、米中民間交流をテーマにしたドキュメンタリー映画『善良な天使』が上映された。
11月1日、李克強首相は訪中した米議員団に対して、米中関係を「正常な軌道に戻すことが可能だ」とし、「中国と米国が相互尊重と平和の精神の下で、相違と困難を克服することを望む」と関係改善を期待した。
また同日、トランプ米大統領はツイッターで、中国の習近平国家主席と電話会談を行ったと公表した。大統領は「長い時間、とても良い話し合いができた。貿易問題に重点を置いた」とした。また、11月末にアルゼンチンで開催予定の20カ国・地域(G20)での首脳会談について「議論がうまく進んでいく」と示した。
一方、習主席は10月22日に、広東省珠海市にある家電大手・格力電器を視察した際、「自力更生の精神で奮闘せよ」と「自主的に技術革新を成し遂げよう」と述べ、米への対抗姿勢を示唆したばかり。
この日、中国人民政治協商会議の張慶黎・副主席が香港米国商工会議所の代表団と会談し、米中貿易戦に「恐れない」とあらためて強調した。
中国上層部の急な態度変化にいくつかの要因が考えられる。
中国経済の消耗
米中貿易戦が始まってからの4ヶ月間、中国の景気鈍化が進んでいる。株安・元安、7~9月期の国内総生産(GDP)成長率や個人消費動向を示す社会消費品小売総額の伸び率の減速などが報じられた。
中国国家統計局が10月31日に発表した10月の製造業購買担当者指数(PMI)は50.2と、9月の50.8から下落し、2016年7月以来の低水準となった。米中貿易戦による中国経済への影響をあらためて反映した。
同日、中国共産党中央政治局会議で国内経済に重点を置き議論を行った。中国指導部は「経済の下振れ圧力が強まっている」「(経済情勢に)一段と注視すると同時に、あらかじめ予測する能力を高めて、タイムリーに対策を講じていく」と強調した。
また、習主席が11月1日、国内民営企業経営者10人との座談会で、国内経済発展において「不確実性が拡大している」、「経済の下振れ圧力が強まり、一部の企業の経営環境が厳しくなっている」と述べた。国内景気悪化に対する中国指導部の焦りと危惧を浮き彫りにした。
米国の中間選挙
中国当局は、米国との協議を米中間選挙後に先延ばししたい思惑があった。中国は、米民主党が少なくとも下院で過半数の議席を獲得できると予測している。予測が当たれば選挙後、トランプ大統領の対中強硬姿勢が見直しを迫られると計算していた。
急な態度変化の裏に、中国はこの予測を覆したという理由があるかもしれない。海外各メディアによると、現在共和党が上院を制するのはほぼ確実だが、下院では民主党との接戦が続いている。
米の中国スパイ取り締まり強化
10月4日、ペンス米副大統領がハドソン研究所で経済、政治、人権、軍事など多方面から中国の政策を批判した。「中国の安全保障機関が、最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕です」と言及した。その後、司法省は中国産業スパイの取り締まり強化に乗り出し、中国の情報部員を次々と起訴・逮捕した。司法省はまた11月1日、米半導体企業の企業機密を盗んだとして、中国国有半導体メーカー「福建晋華集成電路」(JHICC)などを起訴した。
米政府のこの動きで、今後中国当局が米で作り上げたスパイ・ネットワークが完全に破壊する可能性が高い。スパイ行為に関係する国有企業、党幹部らは米政府による資産凍結や他の金融制裁を受けるとみられる。
中国共産党の内紛
海外中国語メディアは10月31日、習近平国家主席が10月下旬広東省を視察した際、マカオ訪問、深セン市民との触れ合い、広州市内のナイトクルーズなど3つの公務をキャンセルした、と報じた。キャンセルの理由は「拉致」「暗殺」に対する警戒だという。
10月23日、広東省珠海市と香港、マカオを結ぶ「港珠澳大橋」の開通記念式典に出席した習主席は演説することがなく、「正式に開通を宣言する」との一言を述べ、足早に会場を離れた。笑顔がなく表情もさえなかった。
また、習氏が広東省入りした3日前の10月20日、中国政府の出先機関であるマカオ連絡弁公室トップの鄭暁松主任(59)が転落死を遂げた。マカオ警察当局の発表を待たず、中国当局は10月21日、同主任がうつ病を苦に自宅マンションから飛び降り、死亡したと発表した。
中国当局は近年、高官の不審死を「うつ病」の理由で片付けてきた。
マカオと香港地域は、中国共産党内、江派中心人物の曽慶紅の縄張り。豪州に亡命した中国の反体制派法学者・袁紅氷氏は、鄭氏が先日突然失脚したインターポールの総裁・孟宏偉公安部次官とともに江沢民派に属していると暴露した。
鄭氏は孟次官の失脚で自身への追究も時間の問題と悟り自殺したとの見方がある一方、江沢民派の内情を熟知するため「自殺させられた」との見方もある。いずれにしても、党内部で依然と激しい戦いが行われているとうかがえる。
国内外で厳しい局面に立たされた中国共産党政権にとって米中対立の解消は急務となった。トランプ米大統領は2日、米中通商協議はこれまでに大きく進展したとした上で、両国は非常に良好な通商協定を締結できるとの見通しを示した。同時に、中国製品に追加関税をかける可能性がなくなったわけではないとも述べた。
(大紀元コメンテーター・唐浩、翻訳編集・張哲)
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