カタツムリコスメ大人気、中国人観光客ブームに沸くタイ

2018/06/05
更新: 2018/06/05

[バンコク 18日 ロイター] – 「カタツムリの分泌液ろ過物の保湿成分」──。バンコクの大型スーパーで売られている顔用クリームの白とピンクの箱には、このようなラベルが誇らしげに貼られている。カタツムリ由来の化粧品だというのだ。

「スネイルホワイト」というブランド名と、インターネットの一部での高評価だけで、最近では中国人観光客が列をなしてこの商品を買い求めるようになっている。

中国人大学生のアリス・チェンさん(21)は、ネット上でこの顔用クリームの評価を見て、自分の国では手に入らないため、試してみようと思ったという。

やはり大型スーパーのビッグC<BJC.BK> ラチャダムリ店で買い物していた中国人観光客のイボンヌさん(22)は、1箱40ドル(4360円)程度のこのクリームを数個買ったと話した。「ブロガーが、安くて良いと書いていたから」という。

一方、このスーパーに程近い高級デパートのサイアム・パラゴンのデザートカフェでは、中国人観光客のグループが、一風変わったドリアンで作られたデザートを手に写真を撮っていた。ドリアンは、主に東南アジアで採れる、硫黄のような臭いがすることで知られる黄色いフルーツだ。

タイを訪れる中国人観光客は、今年1100万人程度と予想され、100万人程度だった2010年から急増。中国は、他国を大きく引き離してタイの観光にもっとも貢献するようになっている。そして1人当たりの消費額も、以前と比べて増加していることがタイ政府の統計から分かる。

恩恵を受けるのは、ホテルやツアー会社、航空会社にとどまらない。消費の少なからぬ部分が、中国人客に照準を合わせる小売店やレストラン、食品や化粧品メーカーに流れている。

投資家も注目しており、こうした企業の多くの株価が上昇し、株価収益率(PER)も高い水準になっている。一部ではあまりに高くなり、旅行客の好みは移り変わりが激しいこともあって、証券会社のアナリストはバリュエーションを警戒しているという。

スネイルホワイトを製造するスキンケア企業ドゥーデイドリーム<DDD.BK>も、その1つだ。

同社が、カタツムリから韓国式の方法で抽出する粘液を使っているとうたう顔用クリームの箱は、タイの空港やショッピングモールに高く積み上げられている。美白を好む中国人観光客には「マスト」なアイテムになっているからだ。

スネイルホワイト製品の売り上げは、香港やシンガポールの美容ブロガーが激賞した2014年から急増していると、ドゥーデイドリームのPiyawat Ratchapolsitte最高財務責任者(CFO)は言う。

2017年には、タイ国内市場でも売り上げが拡大し、中国人消費者に対するオンライン直接販売が伸びたこともあって、同社の収益は35%増の17億バーツ(約58億円)にも膨らんだ。同社は、シャワージェルやローションなど、他のカタツムリ粘液由来の製品も扱っている。

突然なんらかの理由で中国人観光客が急減することもあるため、観光客相手の売り上げにはリスクがあると、Piyawat氏は言う。2015年と2016年には、ツアー会社が中国人向けに「ゼロドル・ツアー」と呼ばれる格安ツアーを提供することをタイ政府が難しくしたこともあり、実際に一時期中国人観光客が急減した。

中国への輸出は、昨年同社の売り上げの3割を稼いだとPiyawat氏は言う。これは、中国人観光客がタイで買う割合の10─15%を大きく上回る。

カタツムリの粘液というニッチ分野の競争も激しくなりつつある。ロイター記者は、タイにあるカタツムリ農場も取材。農場では、粘液を製造会社に販売し、こうした会社が世界の化粧品会社向けに元の状態のままの、または粉にした粘液を販売しているという。

<フォーブス誌の富豪リスト>

 

メーク用品やスキンケア製品を作っているタイの化粧品会社ビューティ・コミュニティ<BEAUTY.BK>もまた、大きく成長している。

同社のSuwin Kraibhubes最高経営責任者(CEO)は、中国や東南アジアからの観光客が収益の15%を占めると予想。今年の目標である20%成長達成に向けて後押ししてくれると話す。

内科医から実業家に転向したSuwin氏と、前出のドゥーデイドリームの創業者Sarawut Pornpatanaruk氏の2人は、今年初めて米経済誌フォーブスが選ぶタイの長者番付50位に入った。

デザート専門店チェーンのアフターユー<AUm.BK>も、サクセスストーリーを達成している。バンコクで28店舗を運営し、うち6店はショッピングセンターや高架鉄道スカイトレインの沿線など人気観光スポットにある。

長い行列と、食パンにアイスクリームをトッピングした「シブヤ・ハニー・トースト」で知られる同チェーン店は、もともとシンガポールやマレーシアからの観光客に人気だった。

だが2016年から、中国人観光客が大挙してやってくるようになったと、アフターユーの Maetup T. SuwanCEOは言う。

「観光客は、長い行列や、ソーシャルメディアに出た写真や評判を見て、食べてみたくなる」と、同CEOは説明する。

アフターユーでは、中国人観光客からの人気を踏まえ、ドリアン好きのために新鮮なドリアンを使ったデザートを提供する「ドリアン・ルーム」を昨年開いた。

強烈な臭いのあるドリアンは、東南アジアではタクシーやホテル、飛行機への持ち込みが禁止されていることが多い。

同社では、バンコク以外のタイの人気観光地にも支店やドリアン・ルームを出す計画で、来年にはマレーシアでフランチャイズ展開も予定していると、Maetup氏は明かす。

中国人観光客は、スナック菓子も大量に買い込んでいく。

タオケーノイ<TKN.BK>ののりスナック菓子は、近年大ヒットを記録している。

同社IR担当のKoosoon Rattanaporn氏によると、タオケーノイの2017年の国内売り上げの約20%が観光客によるものだった。また、全体の売り上げの60%は輸出で、その半分近くが中国向けだった。

<プレミアム>

旺盛な中国需要の恩恵と、今後の成長拡大への期待は、株価にも明確に反映されている。

ドゥーデイドリーム株のPERは52倍で、タイの日用品製造業の平均である21倍を大きく上回っている。アフターユーは同79倍、タオケーノイは同43倍だ。

こうした企業は「ビジネスのライフサイクルにおいて成長段階」にあるため、さらなる収益拡大が期待されていると、CGS─CIMB証券タイのアナリストUraiwan Tantisuwannakul氏は分析する。

国内消費は近年鈍化していることもあり、投資家は、中国市場への多様化を計画している企業については「プレミアムを支払う」こともいとわないと、同氏は話した。

Chayut Setboonsarng  (翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

2018年 ロイター/Soe Zeya Tun

 

2018年 ロイター/Soe Zeya Tun

 

2018年 ロイター/Soe Zeya Tun

 

 

 

Reuters