19大前最大の危険要素は「暗殺とクーデター」=専門家分析

2017/09/28
更新: 2017/09/28

来月18日、中国国内はもとより世界が注目する第19回共産党全国大会が、北京でいよいよ開催される。中国の政界にまたもや大嵐が吹き荒れるのか、それとも現政権が穏便に開幕を迎えるのか。カナダ在住の時事評論家、文昭氏が分析した。

習政権が3方面からの「安定確保」

文昭氏は、当局は19大を滞りなく成功させるために、3方面から「安定確保」を図ってきたと指摘している。

一つ目は、世論の「安定確保」だ。中国当局のインターネット情報事務局は、10月1日からネット上に書き込みを入れる際、全て実名登録義務を課すことを発表した。これにより、中国政府はインターネット上で当局に不都合な書き込みをした人物を、簡単に探し出せるようになり、迅速に「処理」することができる。

二つ目は、外交関係の「安定確保」だ。8月28日、中国外交部は、領土問題をめぐりインドとの間で続いていたドクラム高地での両軍のにらみあいを終結させたと発表した。

三つ目は、8月30日に中紀委が発表した第12回政治改革状況の報告が、中紀委による今期の地方視察が完了したことの印となり、これから19大までは、中国官界が「安定確保」期に入ると示された点だ。

官界に激震が走った孫政才の失脚 習陣営からの警告メッセージ

こうして3つの「安定確保」を図ってきた習政権だが、19大までに、さらなる「大トラ狩り」が行われる可能性はあるだろうか。

文氏は、19大が近づくにつれ、習近平国家主席が自ら大きな行動に出る可能性は低くなるとみている。現職幹部を失脚させたいなら、その人物を19大で直接落選させれば済むからだ。すでに第一線を退いている前職者については、特別な事情がない限り19大までに急いて失脚させる必要もない。

習主席にとっては、目下党内の「安定確保」の重点は、選出された19大の党代表らを掌握することである。彼らに習陣営に逆らって不穏な言動をさせないため、警告として習陣営は7月15日、次期後継者とされていた重慶市委書記の孫政才(当時)を突然罷免したのだ。

現在、孫政才はあくまでも「調査中」の段階にある。だが19大開催まで、現政権が反対勢力をけん制する必要を感じた場合、孫の処遇を「調査中」の状態から「党の除籍」や「逮捕」に切り替えればよい。そうすれば、「孫ほどの大物幹部でも逮捕立件されるのなら、それよりランクの低い我々をつぶすなど、習主席にとっては造作もないことだ」と19大代表は震えあがることだろう。

文昭氏は、19大までに司法系統で同様の幹部失脚事件が起こる可能性があるとも述べている。8月27日、中紀委駐財政部紀検組組長・莫建成が失脚したのもシグナルの1つだ。それが無言の圧力となり、司法界の官僚も常に危機感を抱くだろうと分析している。

最大の難関は北朝鮮情勢の安定化

 

「習主席にとって、中南海の内側の危機とは、実権をめぐる党内闘争が引き起こした、指導者層の対立だ。だが、衝突を表面化させ本当の危機を誘発してしまう要因は、国境の外側に存在する可能性がある」

文氏は、中印国境対立を終わらせたのは、爆弾を一つ解体したのと同じだと考えている。ただ、北朝鮮という「爆弾」はそう簡単にはいかない。金正恩を「安定」させるのは至難の業だ。金正恩の「言い値」は法外に高くつく。話し合いが通用するインドとは違い、北朝鮮はもはや、習当局にとって極めて手ごわい相手となっている。

北朝鮮にとっても、19大はリスクをはらんだ極めて不確定要素の高い政治イベントだ。現在、中国と北朝鮮の関係は冷え込んではいるものの、両者をつなぐ要素はまだ残っている。中国は北朝鮮に対し、表向き国連の経済制裁決議案を支持してはいるが、実際には対北朝鮮貿易を継続しているからだ。

だが、19大で指導者層が大幅に入れ替わると、こうしたあいまいさが一掃され、金政権が不利な状況に立たされる可能性が高い。そんな状況に追いやられるくらいなら、今賭けに出た方がましだと金正恩は考えているはずだ。そのため、北朝鮮は19大の開催中かその前に、再び核実験を行う可能性も高い。

暗殺はいつの世もクーデターの常とう手段

忘れてはならないもう一つのリスクは、クーデターの起こる可能性だ。

文氏は、現代中国の政治手段は中世から何も変化していないと語る。クーデターは、いつの時代においても専制政治・宮廷政治の常とう手段だったが、現在の中国社会もクーデターの起きる危険性を常にはらんでいる。クーデターが起きるかどうかは、両者の実力差や立場上の優劣には関係なく、対立の激しさや、それによりもたらされた悲劇の大きさなどにかかっている。

文氏は、反対勢力が軍事クーデターを起こす、もしくは19大の席上で集団で突如非難攻撃を仕掛けるといった手段に出るとは、現実的には考えにくいとみている。習主席の政敵はこうした行動に出られるようなルートを持っていないからだ。彼らに残された手段はそう多くはない。19大前に習陣営にとって最大の危険要素は暗殺である。

つまり、これからの数週間は、習主席以下多くの面々にとって正念場に当たる。思いもかけないような事件が起きる可能性も捨てきれず、ますます目が離せない。

(翻訳編集・島津彰浩)