この記事は、米国在住著名中医学博士の李有甫氏 「養生とは己の徳を高めること」(1)のつづきです。
観客から寄せられた質問
香港で脳卒中が多いはなぜかという質問に対し、博士はこのように答えている。
「脳卒中が発症する年齢は低年齢化しており、早ければ30代でも発病する。これは血管の老化スピードが速すぎることに起因しており、原因としてはまず高コレステロール食品の摂取過多が挙げられる。だが肉を多量に摂取していても脳卒中にならない人がいるのも事実だ。これはその人の心の状態がよいことに関係している。生活の中の損得にこだわりすぎることは健康に一番良くないことである。”ばかをみる”のは損だと思っているかもしれないが、実は幸いなことだ。人生において何が福となるかは分からない。だから心をリラックスさせて、おおらかな気持ちでいれば、もっと健康に生きられるようになる」
乳がんの患者から治療法に関する相談を受けた際には、乳がんは人の気持ちと関係があるため、細かいことを気にせず、心をおおらかに、体の中に滞っている「気」の流れを通してやることが必要だと説明した。そして博士は家庭で煎じて長期服用できる秘伝の民間処方を無償で提供した。
糖尿病患者に対しては、摂取する糖分を少なくして運動を心掛け、心を平穏に保ち、善行を積むことによって病気が緩解すると説明している。また苦瓜炒肉絲(ゴーヤと肉の炒め物)と苦瓜炒豆乾(ゴーヤと固豆腐の炒め物)を多くとることと、薬の服用を一度に止めず、時間をかけて量を減らしていくようにとアドバイスした。
いつも目のかゆみに悩まされているという人に対しては、博士はその場の人たちに目を閉じさせ、心の中で後ろを見るように指示した。さらに目をよく洗うようにすれば、症状が和らぐと説明した。
睡眠障害については、肝臓と深いかかわりがあると説明し、桃やアンズ、ブドウといった果物を山西老陳酢に漬け込んだものを常食すれば肝臓の機能向上に効果があると説明した。漬け込む時間は長いほど効果があるため、少なくとも3日から5日は漬けておく必要があり、酢は品質の良いものを選ぶようにと付け加えた。
講座後の観客の感想「養生の本質が理解できた」
香港特別行政区、前区議員の戴卓賢氏は、この講座に参加して大変勉強になったと感想を述べた。養生とは食べ物に気を付けたりダイエットだとばかり思っていたが、この講座を聞いて、養生とは内面を養うものであり、精神的な面と道徳的な面から行うものだということが、ようやく理解できたと喜びを語っている。
中山大学政治学理論博士で評論家の葉振東氏は、講演会で李博士が老子の『道徳経』に触れたことについて次のように感想を語った。『道法自然(注1)』とは『上善若水(注2)』を意味していることであり、つまり「無理強いをせず流れに沿って行えば、すべてうまくいっていると感じることが多くなるだろう。逆に、欲張って強引に何かをやろうとすると、喜びを感じることができなくなる。なぜなら、自然の流れに沿っていないからだ」
代々中医を輩出してきた家系に生まれ、自身も中医である艾華氏はこのように語っている。「中国文化は多岐にわたり奥深いものであるが、それは現代人に忘れ去られたものでもある。博士の講座を拝聴して、永い眠りについていた文化が再び目覚める時が来たと感じている。中国数千年の文化の中に存在する座禅瞑想という方法は中国伝統医学文化の一つでもある。人体の精・気・神は普段はバラバラな状態だが、座禅を組んで瞑想することにより、それらが一つに集まってエネルギーを作り出す。座禅瞑想は中国伝統医学の素晴らしい遺産であることを改めて認識した」
注1 道法自然:老子『道徳経』の「人法地、地法天、天法道、道法自然」の一節。 (人は地に法り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る). 人は大地の法則に従い、大地は天の法則に従い、 天は道の法則に従い、道は天地宇宙万物の法則に従うという意味。
注2 上善若水:『老子・第八章』に記述されている。日本では「上善は水の若(ごと)し」と訓読みされる。水は柔軟で物腰が柔らかい、容器の形に従い四角にも丸くにもなり、万物に潤いと恵みを与えるが、いつも低い所へ流れて行き、決して利を争おうとしない。水のように、柔軟で、謙虚で、多く与えるが利を争わず、自然の流れに沿って目立たず黙々と力強く生きることは人間として最高の境地であるという意味。
(おわり)
(翻訳編集・島津彰浩)
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