暗喩などを用いてあるメッセージを伝えるのは中国共産党のお家芸。それらを正確に読解するのが国民の課題だ。明言できない時は、腹芸で意思疎通を図る。
7月30日、郭伯雄が失脚したと発表された直後に、財新ネットは直ちに長文を掲載した。郭伯雄が47軍の軍団長を務めたとき、江沢民が描いた軍の理想像で軍隊を建設する等を述べ、媚を売り寵を得た彼の出世術を晒した。この文では、江沢民が同志や肩書きなしに名指しされ、きわめて異例な処遇だ。
8月3日、澎湃新聞ネットは、「兄貴のN種類の結末」という文を掲載した。その中の「兄貴」の口ぶりはあたかも江沢民がかつて香港の記者を罵った言葉を踏襲したようであり、読者らは「彼はもうおしまいだ」と笑っている。
中国共産党の慣例によれば、8月に中央指導部は引退した長老らとともに、休養を兼ねて避暑地の北戴河で非公開の会議を開き、重大な人事や政策について協議をし、通称「北戴河会議」という。8月5日、新華ネットは『財経国家週刊』の「今年は北戴河会議なし」を転載し、会議がなくなったと伝えたうえ、文末で「それが何を意味しているのかは、みな知っているはずだ」と余韻を残している。
8月8日、澎湃新聞ネットは、昨年の古い記事を再び掲載し、毛沢東、鄧小平、胡錦濤、習近平が北戴河に関わった逸話を述べているが、しかし北戴河政治に深く関係した江沢民については一言も言及されなかった。
今年に入って、喬石や万里など中国共産党の長老が7人も相次いで死去した。しかし彼らの葬儀に、江沢民はいずれも欠席している。表に出たがり屋の彼にすれば、この不在はきわめて異例だ。健康などの主観的問題ではなく、させてもらえないという客観情勢による成り行きなのだろう。江沢民の現状といえば、まな板の上に乗せられるのを怖がって待つ以外に、何もできないようだ。
昔、江沢民が逮捕され、審判を受けることになる等と言えば、中国人はたいてい冷笑していた。目下、情勢の破竹のような激変ぶりを目にして、その人たちも態度を変え、是認、期待、そして応援するように変わってきた。
中国人は政治の風向に異常に敏感だ。彼らにとって、法輪功迫害の真相が明らかになり、江沢民勢力が大いに粛清され、江沢民を告訴する人数が13万人にも達したほか、共産党メディアからも時代の趨勢が明確に読み取れている。
コラムニスト プロフィール
中原・本名 孫樹林(そんじゅりん)、1957年12月中国遼寧省生まれ。南開大学大学院修士課程修了。博士(文学)。大連外国語大学准教授、広島大学外国人研究員、日本学術振興会外国人特別研究員等を歴任。現在、島根大学特別嘱託講師を務める。中国文化、日中比較文学・文化を中心に研究。著書に『中島敦と中国思想―その求道意識を軸に―』(桐文社)、『現代中国の流行語―激変する中国の今を読む―』(風詠社)等10数点、論文40数点、翻訳・評論・エッセー等300点余り。
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