台湾に観光旅行に来ていた中国人の男性が7日午前8時40分ごろ、台北市のホテル5階の窓に上って「飛び降りて死んでやる」と叫び、周囲は一時騒然となった。警察が隙を見て男性を引き下ろし、大事には至らなかった。「中国共産党は嫌だ。帰りたくない」というのが本人の気持ちだったらしいが、男性は同日午後9時ごろ、台湾移民署の警戒のもと、台北松山空港より大陸へ送還された。
台湾の警察当局の簡易調査によると、この中国人男性・陳高明さん(63)は、中国共産党統治下の大陸で土地の強制収用に遭ったことに不満を持っていた上、事件当時は酒を飲んで情緒不安定な状態であったという。
また、詳しく調査した台湾移民署によると、陳さんは重慶市の農民で、今月1日より7日間の予定で台湾観光ツアーに参加したが、2日目からツアーの一行を離れ、1人で台中から台北へ向かったという。台北で、台湾のメディアに「中国共産党の悪行を暴露する」という目的であったが、それは果たせなかった。
小学校の学歴しかない陳さんが所持していたのは、台湾に入ってから数日で記したという50ページに及ぶ手書きの「本」であった。文字がびっしり書き込まれたその中には、「中国大陸の腐敗・汚職を一掃するために、台湾の官員を大陸へ派遣してほしい」という陳さんの願いなどがつづられていた。
本来ならばツアーの最終日となるはずだった3月7日の朝、陳さんはホテル5階の部屋の窓に上り、「(俺は)中国共産党による迫害を受け、土地も中国政府に奪われた。もう生きてたって仕方ねえんだ」と叫びだした。
台北市の消防署も出動し、はしご車やエアマットなども配備された。陳さんは、一度は台湾政府の保護を求めるそぶりも見せたが、警察や消防が接近しようとすると、ひたすら手を振って拒み続けた。
陳さんの体が、いよいよ墜ちそうになっていると見た警察は、隙を見て飛びかかり、陳さんを窓枠の下に引き下ろした。危ないところを救われた陳さんであったが、パトカーの中で舌を噛んで死のうとしたため病院へ直行。治療を受けた後、ようやく落ち着いた。
事件後、台湾の民衆からは、陳さんが大陸へ送還されたことを危ぶむ声が上がっている。「かわいそうに。彼(陳さん)はもうおしまいだ」
「ああ、彼の内臓は奪われて、売られてしまうぞ」
この事件の結末に関する台湾政府の判断には、人道的観点からの、批判的な意見が多いという。
(記者・鐘元、翻訳編集・牧)