中国政府紙、南シナ海での武力行使を主張 「海よりも覇権」 

2011/10/01
更新: 2011/10/01

【大紀元日本10月1日】「今は南シナ海武力を行使する好機だ」。中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報は27日、こう題する評論を掲載した。記事では、中国政府に「この好機を逃さず、迅速に行動を取るべきだ」と訴え、「他国への見せしめとして、フィリピンとベトナムを先に制圧する」と具体的に助言している。専門家は、このような記事が掲載される背景には必ず中国政府の指示があると指摘し、中国政府はこの記事を用いて、周辺国をけん制し、反応を探っていると分析した。

環球時報、「今は南シナ海で武力を行使する好機だ」

記事は最初から中国を南シナ海係争の被害者として仕立てる。「中国は経済発展に専念しており、周辺環境の安定を切望している。南シナ海問題の国際化を望まず、甚大な国家的犠牲と国際的災禍がもたらされることも望まず、(そのために)天下無双の誠意を示してきた」と自ら称える。それに対して、南シナ海周辺国はみな武力増進を図り、「世界レベルの戦争に備えている」という。また「米国は武器売却を強力に推し進めながら火に油を注ぎ、同時に軍事介入の準備もしている」と批判した。

このような批判に基づいて、記事は、南シナ海では「戦争エネルギー」が高まっていると主張する。中国は「(他国が)わが国の海域に侵入して石油採掘を行ったことに対して、まず礼を尽くし、だめな場合は武力に訴えるやり方で制止すべきだ」。「小規模な戦争を恐れてはならない。それは戦争エネルギーを放出する最良の方法だ」と唆した。

さらに記事は、実際に戦争が起きた場合は中国に軍配が上がると主張。「南シナ海には1000以上の石油・天然ガス採掘施設があるが、中国のものは1つもない」。ほかに重要な経済施設もないため、戦争が起きても経済的損失をこうむることはないと分析。さらに米国について、「米国は現在も対テロ戦争から抜け出しておらず、中東問題も膠着しているため、南シナ海で第2の戦場を切り開く余裕はまったくない。米国のいかなる強硬姿勢も虚勢だ」と言い切った。

これらの分析を踏まえ、現在は南シナ海で武力を行使する機が熟していると主張する。その具体的なやり方として、攻撃範囲を限定し、「最もひどく騒いでいるフィリピンとベトナムに狙いを定める」と助言した。懲らしめと見せしめという2つの効果が果たされ、「必勝の戦争」になると吹聴した。

「背後に政府の指示」

この攻撃的な記事は中華エネルギー基金委員会の戦略アナリスト・龍韜氏によるもの。同委員会は中国のエネルギー戦略と政策を研究・企画する有力な民間シンクタンク。ラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)は、中国のような報道規制の厳しい国で、このようなタカ派発言が政府系メディアに登場するのは極めて稀なことで、その背後には高層幹部の指示があると分析した。また、このような発言をもちいて周辺国の反応を窺っているとも指摘した。

米サウスカロライナ大学の謝田教授もこの点において同じ見解を示している。政府の指示がなければ、民間シンクタンクが公然と武力行使を主張することはないと謝教授は見ており、このルートを通じて中国政府は自らのシグナルを出していると分析した。

さらに謝教授によれば、このような軍事行動を訴える発言には、民衆の関心をそらすという中国政府の意図もある。「以前から、ベトナムとフィリピンは南シナ海で、中国は東シナ海で石油を採掘してきた。その中国は現在も石油価格などの問題で経済状況が影響されることはない。このタイミングで南シナ海戦争を宣揚するのは経済利益のためではない」。それよりも深刻なインフレや各種の社会問題、極度な政府不信が中国社会全体に広がっていることに対し、中国政府は危機感を覚え、戦争説を持ち出すことによって民衆の関心をそらそうとしている、と分析する。

「関心は海ではなく覇権

環球時報の評論が出る数日前にインドの有力紙タイムズ・オブ・インディアは、インドが南シナ海資源開発を推進したことに対する中国政府の抗議は、南シナ海の資源のためではなく、中国が望むアジアでの覇権が脅かされたためだと指摘する。

記事によると、中国は長い間、インドの影響力を南アジアとインド洋に抑えようとしている。スリランカなどのインドの「裏庭」の国々におけるインドの影響力を削り取ろうとする一方で、「孔子学院」などを設立して、イデオロギーの宣伝にも精を出す。そのすべては「中国はアジアで唯一無二の大国である」との地位を築くためだという。

インドが南シナ海資源開発を進めたことをめぐって、中国は「中印関係に影を落とす」と警告しながら、一部では、インドの参入は米国と日本の要請に応じた形だと報じている。インドと日米が手をつなぐことは当然、中国の拡張野心の障碍となるため、それが中国政府が抗議する理由だと同紙は見ている。

(翻訳編集・張凛音)