【大紀元日本6月15日】ベトナム海軍は13日、10時間にわたり、同国沖の南シナ海で実弾を使った軍事演習を行った。ベトナム当局は、今回の軍事演習を「毎年の恒例訓練」だとして、中国をけん制する意図はないと主張しているが、すでに緊迫化した南シナ海の状況がいっそう張りつめるのは必至だ。
中国政府系メディア・環球時報は翌14日、「南シナ海で張り合うのは越比(ベトナム・フィリピン)の得意分野ではないはずだ」と題する社説を発表。両国を非難した上で、米国が後ろで操作していると主張した。一方、中国外交部の洪磊・報道官は、この日の定例記者会見で、中国は「武力を行使したり、武力行使で脅迫する」ことはない、と発言した。なお、この発言について、国内メディアはいっさい報道していない。
環球時報「南シナ海周辺諸国は米国の『操り人形』」
ベトナムの軍事演習に最初に反応した中国政府系メディアは、中国共産党機関紙・人民日報傘下の国際情報紙・環球時報である。14日朝には「南シナ海情勢にほかに主役がいる」と題する評論を掲載し、「ベトナムを踊らせることで、中国を多国間協議になだれ込ませようとしている(中国は一貫して二国間協議を主張)。米政府はほくそ笑みながら情勢の変化に注目しているだろう」と、米国こそが南シナ海衝突の「黒幕」であると論じた。
さらに同日の社説でも、環球時報はこの論調を繰り返した。「南シナ海で張り合うのは越比の得意分野ではないはずだ」と題するこの社説の中で、ベトナムとフィリピンが南シナ海を「道理と妥協を論じる所」から「実力と盟友の数を比べる所」に変えたと非難する一方、両国を含む周辺諸国はただの「操り人形」で、動かしているのは米国であると主張した。
同社説は冒頭から「米国が南シナ海問題に介入すると公表してから、この地区全体は奇妙な化学反応が起きたようだ。ベトナムやフィリピンの『辛抱強さ』が『力を誇示する衝動』に変わった」と米国の関与を批判した。さらに、米国は自身の利益にもっとも合致する「対立」と「怨恨」でできた「壁」を南シナ海で作り上げながら、実際には、この「壁」に金と軍事力を注ぎ込むつもりはないと述べた。また、「アメリカの軍艦に期待しているのはベトナムとフィリピンの民族主義者であり、それは狂想だ」と、米国の協力を歓迎する両国の動きをけん制した。
米外交専門誌「中国は嫌がらせと威圧を併用」
一方、中国外交部の洪磊・報道官は同日の定例記者会見で、中国は「武力を行使したり、武力行使で脅迫する」ことはないと発言し、平和的手段を用いて南シナ海問題の解決を訴えた。また、中国は各方面とともに努力し、「南シナ海の行動宣言」(2002年締結)を遵守し、同地区の平和と安定を図るという立場を表明した。
米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」が7日に掲載した評論記事で、中国は南シナ海において軟化した態度を見せながら、「欲張り」な主張を変えたことはないと指摘している。
同記事は、南シナ海情勢が緊迫化したのは、今回で3回目だと指摘する。1回目の2009年には、中国海軍の潜水艦が米駆逐艦と接触するなど、一時緊張が高まった。当時中国当局は、南シナ海域は同国の「核心利益」であり、台湾や新疆と同様に主権を重視していると宣言した。なお、中国が主張する南シナ海における領有権はほぼ全域をカバーしている。
2回目は翌2010年。楊潔篪・外相が同年7月に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムで、中国はほかの周辺国と比べ、絶対的な「大国」であり、南シナ海における領有権に関して「議論の余地がない」と覇権的な発言をした。
この2回の強気発言が、世界の警戒と譴責を招いた。さらに関係国は団結を強め、米国の介入をも招き、中国を孤立に追い込んだ。同記事によると、3回目の今回は、中国は表面上の「戦術」を変えた。今月初めにシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)に際し、中国の梁光烈・国防相は「永遠に軍拡や覇権を求めない」と述べ、南シナ海問題については「関係国と対話による協議を進め、平和的な方法で解決したい」と強調したという。
確かに、今回のベトナム軍事演習後の外務省の発言も異例と言える温和な態度であったが、それに対して、フォーリン・ポリシーの同記事は、このような「穏便」な発言の一方で、南シナ海における中国の攻撃行為はエスカレートしており、相変わらず「嫌がらせと威圧を併用している」と指摘する。
事実、シャングリラ対話の後でも、ベトナムの資源探査船のケーブルを破壊し、またベトナムが軍事演習を行った13日には、来月にも南シナ海に配置予定の、「海洋石油空母」と呼ばれる中国最大規模の海底油田掘削装置「海洋石油981」が今週中にも初めての試験運転を行うとの情報が流れている(米VOA)。
さらに、周辺国を懸念させているのは、中国初の空母もテスト運航後、南シナ海艦隊に配属されるという噂。現在、ベトナムやインドネシア、フィリピン、シンガポール、オーストラリアなど、多くの周辺国は自国の海軍軍備の増強に迫られている。
「今後はこの海域は混雑するであろう」と推測するフォーリン・ポリシーの同記事は、今すぐではないものの、この混雑は潜水艦などの衝突を引き起こし、ひいては、国同士の衝突を引き起こしかねないと分析した。
香港の軍事評論家・馬鼎盛氏もVOAに、この衝突の可能性に同調しながらも、「全面戦争はあり得ない」との見解を示した。「中国はベトナムやフィリピンに勝てるかもしれないが、全面戦争はあり得ないことだ。例えそうだとしても、米国が必ず介入する。クリントン長官はかつて、南シナ海は公海で、戦略的航路であり、『いかなる国の軍事的圧力にも反対する』と明言しているからだ」
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