海外移植あっせん事件があぶり出す 日本の臓器移植問題

2026/07/24
更新: 2026/07/24

海外での臓器移植を無許可であっせんし、患者から多額の現金を受け取ったとして、警視庁は一般社団法人「国際医療相談室」の元理事長、菊池仁達容疑者ら3人を臓器移植法違反などの疑いで逮捕した。

今回の事件は、無許可業者による法律違反にとどまらない。臓器提供者の人権、海外移植後の医療、国内の臓器提供体制など、日本の移植医療の前に立ちはだかる複数の問題を浮かび上がらせた。

1236万円を受け取り海外移植をあっせん

警視庁の公開情報によると、菊池容疑者らは法人のウェブサイトに「生体から摘出された臓器に限り支援活動をしています」などと掲載し、海外での移植を希望する患者を募集していた。

令和7年11月、サイトを通じて問い合わせた東京都内の男性患者に面談などで渡航移植を勧め、事務手数料として300万円を受領した。さらに同年12月には、外科謝礼金名目で936万円を振り込ませ、合計1236万円を受け取ったとされる。

読売新聞によると、その後、男性は今年1月、プノンペンの「プレアケットメリア病院」で生体移植を行った。ドナー(臓器提供者)は20歳代のカンボジア人女性とみられ、中国籍の医師が手術を担当したという。患者の男性は移植費などとして現地で約2500万円を医師側に渡した。男性の術後の健康状態は落ち着いているという。

菊池容疑者はすでに4年前の2023年2月、自身が理事長を務めていたNPO法人「難病患者支援の会」を通じてベラルーシでの移植を無許可であっせんし、臓器移植法違反(無許可あっせん)容疑で軽視庁に逮捕されおり、同年7月に保釈された後、実刑判決を受けて今年1月から服役していた。

厚生労働省は今回「国際医療相談室」に臓器あっせん業の許可を出していなかった。

臓器は本人の意思で提供されたのか

2000年代初頭、医療技術の進歩とともに世界の臓器移植件数は急増した。特に中国の移植数は大幅に増加した。

中国は世界第2位の移植大国となったが、ドナーが誰であるか不明で透明性に欠け、英国で行われた2009年の独立民衆法廷「中国法廷」では、中国において長年にわたり大規模な強制臓器摘出が行われており、人道に対する罪に該当すると満場一致で結論づけられている。

フィリピン、インド、パキスタン、エジプト、コロンビアをはじめとする発展途上国や新興国、アジア地域など世界各地で、貧困層の臓器売買や先進国の富裕層患者による「移植ツアー」が多発し、不透明な臓器採取や人権侵害が深刻な国際社会の問題となった。

こうした事態を受け、2008年に「イスタンブール宣言」が発表された。同宣言は、臓器売買や臓器トラフィッキング(搾取目的の取引)、貧困層を対象とした商業的な渡航移植といった人権侵害を国際的に撲滅し、各国が自国の臓器移植を自給自足で賄うための倫理指針を定めている。

海外渡航での臓器移植では、倫理面で最も大きな問題となるのは、移植された臓器が、提供者本人の自由意思に基づいて提供されたものか確認できないことである。

湘南鎌倉総合病院の腎移植外科部長、大久保恵太医師は、非正規の海外移植では臓器提供者の同意が自発的なものであるか、外部から検証できないと指摘している。

臓器提供の背景には、経済的な困窮や脅迫が存在する可能性がある。さらに、刑務所や収容施設に拘禁された「良心の囚人」から、本人の意思に反して臓器が摘出される場合もある。提供者の自由な意思を確認できないまま行われる移植は、患者の命を救う医療である一方、弱い立場の人々の身体を搾取する行為となる危険を伴う。

国際犯罪の資金源となる危険

カンボジアなどの東南アジアでは、詐欺グループの背後で、人身売買や国境を越えたマネーロンダリング、臓器取引ネットワークが複雑に結び付いていると事情に詳しい台湾人工知能実験室の杜奕瑾氏は指摘している。

こうした国際犯罪ネットワークは、中国の地下資金などを背景に相互に支援し合う形で運営されているとされる。患者が正規の医療制度を通さず、実態の分からない仲介業者に多額の資金を支払えば、その資金が非人道的な犯罪組織に流れるおそれがある。

違法な海外移植を利用することは、患者個人の治療選択にとどまらず、人身売買や臓器売買を維持する資金源となる可能性をはらんでいる。
 

帰国後の治療にも重大な支障

非正規の海外移植には、医学的な危険もある。

通常の移植医療では、臓器提供者の感染症検査や組織適合性、手術方法、使用した薬剤などの情報が記録され、その後の治療に引き継がれる。しかし、非正規の海外移植では、こうした記録が日本側に十分提供されない場合がある。

帰国後に拒絶反応や重症感染症が起きても、日本の医師は、提供者の状態や現地で行われた手術の詳細が分からないまま治療しなければならない。患者が移植手術を受けられたとしても、その後の安全な医療を継続できるとは限らないのである。

大紀元の取材に厚労省の担当者は、こうした渡航移植について、臓器取引や移植ツーリズムを禁じる国際的な指針「イスタンブール宣言」に照らし、「お勧めできず、基本的にやってはならない行為」との見解を示している。

国内移植「平均15年待ち」の現実

一方、患者が危険な海外移植に向かう背景には、日本国内で移植を受けることの難しさがある。

大久保医師によると、国内で腎移植を希望した場合、平均約15年待つ必要がある。患者にとっては、移植の順番が来るまで生命を維持できるか分からないという切実な状況である。

違法業者の利用は容認できないが、患者を非正規のルートへ向かわせる要因を、個人の倫理観だけに求めることもできない。国内で適正な移植を受けるまでの期間があまりに長ければ、患者や家族が危険性を承知しながら海外移植に望みを託す可能性は残り続ける。

提供者を把握する仕組みが機能せず

国内の臓器提供が伸びない原因について、大久保医師は、国民の意識よりも医療制度上の問題が大きいと指摘する。

救急医療や集中治療の現場では、臓器提供の候補となる患者を把握し、家族に提供という選択肢を示す必要がある。しかし、提供の可能性がある患者の情報を専門部署へ確実に連絡する「mandatory referral」の仕組みが十分に機能していないという。

現状では、臓器提供に関する説明や調整が主治医個人の負担に依存しやすい。救命治療を続けながら、患者家族の心情に配慮し、臓器提供について説明することは医師にとって大きな負担となる。

このため、提供候補者の情報を専門チームに共有する制度や、臓器提供の手続きを担う院内コーディネーターの常勤配置など、医療機関全体で対応する仕組みが必要となる。

取り締まりだけでは解決しない

今回の事件が突き付けたのは、臓器を必要とする患者を救うことと、臓器提供者の人権を守ることを、いかに両立させるかという課題である。

無許可のあっせん業者を取り締まり、臓器売買や人身売買につながる海外移植を防ぐことは不可欠である。同時に、国内で移植を待つ患者が、現実的な期間内に適正な医療を受けられる環境を整えなければ、非正規の海外移植に対する需要そのものはなくならない。

必要なのは、患者を違法な仲介業者から守る監視体制、海外移植の実態を把握する仕組み、帰国後の治療情報を確保する医療上の対策、そして国内の臓器提供を適切に移植へつなげる制度改革である。

提供者の自由意思を確認できない臓器で患者を救うことは、別の誰かの人権を犠牲にする危険を伴う。一方、国内で移植を待ち続ける患者の命もまた、時間の経過とともに失われかねない。今回の事件は、その二つの命を守るための制度と医療環境が、日本でいまだ十分に整っていない現実を示している。

大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。