現代を代表する物理学者の一人と評されたスティーブン・ホーキング博士は、ブラックホールや宇宙の謎を研究する一方で、人類の未来にも強い関心を寄せていた。生前、博士は人類の存続を脅かす五つのリスクとして、AIの制御不能、遺伝子技術の暴走、地球外文明との接触、地球温暖化、そして宇宙移住の遅れを挙げている。
ホーキング博士は、人類には最終的にさまざまな脅威を乗り越える力があると考えていた。ただ、今後100年ほどの間、人類が地球だけに依存せざるを得ない時期には、細心の注意が必要だとも警告していた。小惑星の衝突、壊滅的な感染症、あるいは核戦争のような事態は、ひとたび起これば人類文明を崩壊させかねないためである。
博士の見解は、いたずらに終末をあおるものではなかった。潜在的なリスクを知り、あらかじめ備えるよう人類に促す警鐘だった。
(1)AIが人類の制御を超える
ホーキング氏は、ChatGPTの登場や近年のAIブームを目にすることはなかった。しかし、AIの急速な発展がもたらす影響については、早くから強い関心を示していた。
同氏は、超知能AIの誕生は人類史上最大の飛躍となり得る一方で、前例のない危機をもたらす恐れもあると述べている。特に懸念していたのが、AIの「アラインメント問題」である。これは、AIの目的や判断基準が人類の利益と一致しない可能性を指す。

(Hector Retamal/AFP via Getty Image)
ホーキング博士は「AIは極めて高い効率で任務を遂行できるようになる。しかし、その目標が人類の利益と一致していなければ、私たちは危機に陥る」と指摘した。
博士によれば、AIが人類に危害を加えるためには、必ずしも人間への敵意を持つ必要はない。AIの能力が人類をはるかに上回れば、人間の存在や必要を軽視するようになる可能性があるからだ。その場合、人類は現在の野生動物に近い立場に追い込まれるかもしれない。
人間に悪意がなくても、大規模な開発によって動物の生息地が失われることはある。その結果、動物はこの地球上で生き延びることがますます難しくなる。ホーキング博士は、AIと人類の関係にも同じような構図が生じる恐れがあると見ていた。
2015年、ホーキング博士は多くの専門家とともに「AIに関する公開書簡」に署名した。この書簡では、AIの開発において安全性を重視し、将来のAIシステムが最大限の利益をもたらす一方で、潜在的なリスクをできる限り抑えるよう研究者に呼びかけている。
(2)遺伝子技術による「超人類」の誕生
ホーキング氏は著作の中で、遺伝子工学の問題についても論じている。博士は、人類が今世紀中に「知能」や「特定の行動特性」を操作する技術を手にする可能性があると予測した。

将来、各国が遺伝子技術の利用を制限する法律を整備する可能性はある。しかし博士は、富裕層が何らかの方法で遺伝子強化を行い、自分自身や子孫の遺伝子を改良しようとするのではないかと懸念していた。その結果、新たな社会的格差が生まれ、やがて「超人類」とも呼べる集団が形成される恐れがあるという。
博士はまた、遺伝子工学のリスクは人間の能力強化に限られないとも警告した。遺伝子改変ウイルスが、新たな脅威となる可能性もあるからだ。
現在、関連研究の多くはがんや病気の治療を目的としている。しかし、技術が広く普及すれば、応用範囲が拡大する可能性もある。将来、致死性が高く感染力の強い改変ウイルスを作り出す者が現れれば、深刻な安全保障上の問題につながりかねない。
(3)地球外生命との接触
ホーキング氏は、人類が積極的に地球外生命を探し、連絡を取ろうとすることにも懸念を示していた。宇宙に他の知的生命体が存在するとしても、人類は相手の意図を知らない。にもかかわらず、こちらから信号を送ることは、未知の脅威を呼び込むことになりかねないと考えていた。

博士は、地球と交信できる、あるいは地球に到達できるほどの文明が存在するなら、その科学技術の水準は人類をはるかに上回っている可能性が高いと述べた。そのため、長距離の星間航行が可能な文明が地球を探索する目的は、単なる交流ではなく、征服や植民地化かもしれないと懸念した。
2015年、ホーキング博士は新たな地球外知的生命探査計画「ブレイクスルー・リッスン」に参加した。この計画は、宇宙に向けて積極的にメッセージや信号を送るのではなく、宇宙から届く信号を観測することで、地球外生命の痕跡を探すものだった。
同計画の記者会見で、ホーキング氏は次のように語った。
「私たちのメッセージを受信できる文明があるとすれば、その文明は私たちより数十億年進んでいるかもしれない。もしそうなら、彼らの能力は人類をはるかに超えており、彼らの目には、人類は私たちが細菌を見るのと同じくらい取るに足らない存在に映る可能性がある」
(4)他の惑星へ移住できないこと
ホーキング氏は、どれほど多くの終末的なシナリオが存在しても、人類は「宇宙に居住地を築くこと」によって困難を乗り越えられると考えていた。「人類が宇宙に広く分散すればするほど、存続できる可能性は高まる」と述べた。
人類が一つの惑星だけに住み続けるなら、その惑星が壊滅的な出来事に見舞われた場合、人類文明もともに滅びる可能性がある。だが、人類が300の惑星に居住地を築くことができれば、仮に299の惑星が破壊されたとしても、人類が存続する可能性は残る。
ホーキング氏は、人類がおよそ100年後には新たな惑星を探す能力を持つようになると予測した。一方で、地球は今後1千年以内に「核戦争や環境災害」によって深刻な被害を受ける可能性があるため、宇宙移住に向けた準備はできるだけ早く始める必要があると訴えた。

博士にとって、地球を離れることは地球を見捨てることではなかった。人類が地球外にも拠点を持つことで、地球が生態系を回復する機会を得られるという考えだった。
(5)気候変動と地球温暖化
ホーキング氏は生前、地球温暖化と気候危機への対応にも強い関心を寄せていた。
同氏は、人類は「地球温暖化が後戻りできない臨界点に近づいている」と述べ、将来の地球が金星のような極端な気候環境に陥る可能性に警鐘を鳴らした。地表温度が華氏400度、摂氏で約204度を超え、硫酸の雨が降るような環境になる恐れがあるという。
ただ、この見方については「過度に悲観的だ」とする科学者もいる。地球の気候が金星のような極端な環境に変化することはないと見る専門家もいる。
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