中国以外の多くの国では、臓器移植は何年も待つ覚悟を前提にした医療であり、時間をかけて順番を待っても、必ずしも臓器が見つかるとは限らないのが現実だ。
ところが中国では、臓器移植が必要な患者が渡航すれば、数週間から1か月前後で手術が受けられる。
冷静に考えれば、これは極めて異常な状況である。
「臓器収奪」
近年、中国では「臓器収奪」と呼ばれる国家ぐるみの犯罪行為が行われているとの研究報告が相次いでいる。しかし、中国共産党の圧力により、その実態はほとんど報道されてこなかった。
では、何を手がかりに実態を読み解けばよいのか。
注目すべきは、中国当局自身が公表している臓器移植の公式データである。
ただでさえ過少に公表されていると見られる公式データですら、この矛盾が生じている。
中国が公式に発表している臓器移植データを突き合わせると、誰でも気づく異常がある。
移植手術の件数が、死亡後に提供された臓器の数を、毎年大きく上回っているのだ。
ある統計によれば、2015年から2023年までの政府発表や官製メディアの数字を整理すると、臓器移植は提供数のおよそ3倍前後で推移していた。2023年だけを見ても、移植は約2万1千件とされる一方、提供は約6400件にとどまっている。
中国当局は2015年以降、死刑囚の臓器は使っておらず、すべて自発的な提供によるものだと説明してきた。しかし、提供数を大きく超える移植が、毎年続いている理由について、公式な説明は示されていない。
この問題について、米ニューヨークに拠点を置くNGOの追查国際は、次のように指摘している。「かつては法輪功学習者やチベット人、ウイグル人、キリスト教徒が主な対象だったが、近年は一般市民にまで広がっている」
同団体は、長年にわたる調査を通じ、中国の臓器移植が自発的な提供だけでは成り立たない実態を明らかにしてきた。
本紙はこれまで、臓器収奪問題を継続的に追ってきた。
その過程で繰り返し浮かび上がってきたのが、移植までの待機期間の異常な短さである。
多くの国では主要な臓器移植を受けるまでに数年単位の待機が一般的とされるのに対し、中国では数週間から1か月前後で移植が行われたとされる事例が報じられてきた。
この差は、偶然の提供を待つ医療では説明がつかず、膨大な数の待機する「臓器」、すなわち、まだ生きている人間が控えており、移植の需要に応じて選び出されていく構造が存在するとしか考えられない。

「オーダーメイドの殺人」
近年、中国共産党による「臓器収奪」という国家ぐるみの犯罪に対する人々の認識が深まるにつれ、中国語圏では「オーダーメイドの殺人(按需殺人)」や、「需要に応じてモノを取りに行く(按需取件)」といった、ぞっとする言葉が広く使われるようになった。
中国では、一部の親たちが子どもを臓器収奪から守るため、連れ去られそうになったら「自分はエイズだ」「肝炎がある」「結核だ」と叫べと教えている。
それは、「病気がある自分の臓器は使えないぞ」という意思表示にほかならない。
さらに、「オーダーメイドの殺人」から我が子が選ばれないよう、子どもの身体情報が学校や当局に渡ることを恐れ、学校に通わせること自体をやめる親も後を絶たない。
また、病院に病歴を残して「健康な子ではない」と分かる記録を医療のビッグデータに刻もうとする動きも広がっている。
中国では、ここまでして命を守ろうとする現実が生まれている。
そして、その臓器移植の現場で、日本からの「オーダーメイド」が、知らぬ間に行われているのかもしれない。
厚生労働省の調査(2023年実施)によれば、中国で臓器移植を受けた日本人は少なくとも175人確認されている。ただし、実数はこれ以上とみられる。
もし、その臓器が誰かの自発的な提供ではなかったとしたら。
「オーダーメイドの殺人」の結果だったとしたら。
移植を受けた本人だけでなく、その家族や友人は、夜、眠れるだろうか。
それはもはや、遠い国の闇でも、「自分に関係ない」話でもない。
この闇を知りながら目をそらすという選択が、結果として何を支えることになるのか。私たちは考えざるを得ない。

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