世界の気候変動政策が、かつてない激震に見舞われている。ドイツのメルツ首相は14日、脱原発政策を「重大な戦略的失敗だ」と批判した。エネルギーコストの増大という厳しい現実に直面し、主要国でドラスティックな政策転換が相次いでいる。理想を掲げ続けた10年を経て、世界は今、経済成長と安全保障を最優先する「現実主義」へと回帰しつつある。
ドイツ、アメリカに広がる「脱・気候変動」
欧州の環境政策を牽引してきたドイツの変節は、世界に大きな衝撃を与えた。2026年に入り、メルツ首相は2011年以降の脱原発政策を「重大な戦略的失敗」と断じた。背景にあるのは、高止まりする電気代と、それに伴う産業界の悲鳴だ。安価なエネルギー供給が断たれたことでドイツ製造業の国際競争力は低下し、もはや理想のみで国を支えることは不可能という結論に至った。
米国はさらに急進的だ。トランプ政権は気候変動ナラティブを「史上最大の詐欺」と一蹴し、パリ協定からの再離脱を鮮明にしている。2025年7月に米エネルギー省(DOE)が示した科学的・経済的な再検証『温室効果ガス排出が米国の気候に及ぼす影響に関する批判的検証(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)』が示した科学的・経済的な再検証である
同報告書は、多くの気候モデルが昇温を過大予測している可能性を指摘しており、大気中のCO2濃度上昇が光合成を促進し、世界的な『緑化(グリーニング)』や農業生産性の向上に寄与しているという科学的事実を、経済的便益として再評価した。米国は今、石油・天然ガスといった化石燃料の再評価とともに、原子力の増産を強力に推進する「エネルギー覇権」の再構築へと舵を切っている。
こうした欧米の離脱・転向に対し、日本は独自の『GX(グリーントランスフォーメーション)』によって、脱炭素を成長の機会と捉える戦略を鮮明にしている。これは単なる環境政策ではなく、排出削減と国際競争力の強化を同時に狙う攻めの経済構造移行策である。政府が推進する「GX推進法」の核心は、脱炭素を単なる「コスト」や「義務」ではなく、次の成長エンジン(投資機会)へ転換させることにある。
2026年度から本格導入される『排出量取引制度』は、大規模排出企業に削減を義務付け、超過削減分を取引可能にすることで、経済合理性に基づいた効率的な削減を促す仕組みである。さらに、次世代太陽電池(ペロブスカイト)や核融合発電といった革新技術への巨額投資を通じて、技術覇権による経済成長を目論む。しかし、この日本の戦略が成立するためには、国内のエネルギーコストを国際水準で競争可能なレベルに抑え続けることが大前提となる。
問われる「国家の生存戦略」
EUが米国産LNGや核燃料の確保に走る現状は、理想よりも「今日のエネルギー」が優先される時代の到来を告げている。
ビジネスリーダーにとって、現在の状況は極めて複雑な判断を強いるものだ。世界的な「脱・脱炭素」の潮流に乗ってコスト競争力を回復させるべきか、それとも日本政府が描く「成長志向型カーボンニュートラル」の枠組みの中で次世代技術の主導権を握るべきか。
ドイツの「戦略的失敗」という言葉は、一度誤った政策を選択すれば、産業基盤そのものが崩壊しかねないという教訓を孕んでいる。日本が推し進めるGX政策は、技術覇権による新たな産業革命を導くのか、あるいは激変する世界のエネルギー情勢の中で、コスト負担のみが先行するリスクに飲まれるのか。今、政府と企業には、科学的データと経済合理性に基づいた、冷徹な生存戦略が求められている。
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