中国SNSで爆発的人気の「斬殺線」—ゲームの即死ラインがアメリカ中産階級の脆弱性を象徴するとして、中共メディアが大々的に宣伝。Bilibili「牢A」の生々しい証言が火付け役だが、その実態は? アメリカの福祉網と中国貧困の実相をデータで徹底比較し、中共の心理操作を解明する。
今日は皆さんと少しシリアスなテーマについてお話ししたいと思う。それは最近、中国とアメリカの双方で話題となっている「斬殺線」という概念である。多くの人がすでに耳にしたことがあるだろう。
「斬殺線」とは? ゲーム用語から米中ネット流行へ
もともと「斬殺線」という言葉はテレビゲームの用語である。主人公のHP(体力)が一定ラインまで減少し、倒されやすい危険域に入ると、ライフバーの色が変化する。そのライフバー上で致命域を示す境界が「斬殺線」(即死ライン)と呼ばれる。なぜそのように呼ばれるかといえば、相手はそこから一連のコンボ技を決めるだけで、容易に命を奪うことができるからである。
では、なぜこの「斬殺線」が爆発的に流行したのか。そのきっかけは、中国の動画サイトBilibili(ビリビリ)における配信者「斯奎奇大王」、別名「牢A」と称する人物にある。彼は自身を米国シアトル在住の医学生と名乗り、教授の紹介により病院や警察の「遺体搬送」のアルバイトをしていると語っている。
彼は最近のライブ配信で、実際に複数の事例を見たと主張し、アメリカ社会では人々が家賃や住宅ローン、医療費、車の購入費などに押し潰されるようにして困窮していると説明した。さらには、年収45万ドル(約6500万円)のハイテク系エンジニアが、失業後わずか数か月でホームレスに転落したとまで語っている。
彼の主張によれば、これこそがアメリカ社会の「斬殺線」である。すなわち、中産階級は表面的には豊かに見えても、一度の失業や大病をきっかけに容易に社会から切り捨てられ、再起不能の奈落に落ちる危険を抱えているという論である。そして結論として彼は、アメリカの資本主義制度に欠陥があり、中国式の社会主義制度の方が優れていると述べる。すなわち、中国には低所得者向けの最低限の生活保障があると主張するのである。
「斬殺線」を煽る中共メディアが一斉拡散:世論操作の全貌
驚くべきことに、この発言の直後から中国共産党のメディアや各種のネット媒体が一斉にこの「斬殺線」言説を拡散し、まるで世論戦の火の手を広げるかのように世界中へと波及した。海外の親中系メディアも次々とこれに追随し、米中双方のネット世論を巻き込む形で激しい議論が沸騰している。
では、アメリカには本当に「斬殺線」が存在するのだろうか。牢Aの語る内容にどれほどの真実味があるのか。なぜ中共の党メディアは、これほどまでにこの言葉を宣伝しているのか。
一、アメリカ中産階級の実態:セーフティネットは機能するか
アメリカに貧困層が存在すること、また医療費が高額であることは事実である。さらに、クレジットスコア制度が生活全般に影響する点も確かである。しかし、中産階級の実態は牢Aが描くほど脆弱ではなく、貧困層であってもすべてが極端に悲惨というわけではない。
理由は明確である。アメリカには多様なセーフティーネットが築かれており、州政府による低所得者支援策に加え、教会・慈善団体・基金などの市民ネットワークが貧困者に衣食住の支援を提供している。
また、アメリカでは職の選択肢が多く、働く意思さえあれば多くの人が自力で生計を立てることができる。もちろん、働かずに福祉制度に依存する人々も少なからず存在する。その結果、都市部ではホームレスを見かける光景が生まれているという側面もある。
確かに医療費と保険料は高額負担であり、現在アメリカでは約2530万人が無保険状態にある。しかし、この割合は低下傾向にあり、2010年の無保険率17.8%が、2023年には9.5%まで減少した。つまり、アメリカ政府は医療の安全網を拡充しており、低所得層は政府補助により無料の医療保険に加入することも可能である。
このようにアメリカには機能する社会保障制度が存在しており、その証拠に毎年約470万件もの新規創業が立ち上がっている。多くの外国人が違法入国の危険を冒してまでアメリカで働きたいと望むのも、生活基盤が整っているからにほかならない。
統計によれば、米国内の不法移民は約1100万〜1400万人であり、そのうち中国系だけでも100万〜200万人とされている。もしアメリカが牢Aの言うような悲惨な国であるなら、聡明な中国人が命懸けで密航するだろうか。むしろそれは、アメリカの福祉制度と雇用環境が中共体制より優れている証左である。
もし中国の体制が本当に優れているのなら、なぜアメリカ人が中国へ密航したという話がまったく存在しないのか。常識だけでも答えは明白である。
統計比較:米ホームレス0.22% vs 中国貧困6億人
具体的な比較を見てみると、アメリカのホームレスは約77万人で、人口の0.22%にあたる。貧困層は3600万人、比率にして10.5%だ。単身者の場合の貧困ラインは年収1万5650ドル(約230万円)未満、4人家族では3万2150ドル(約470万円)未満と定義されている。
一方、中国の貧困ラインは年収2300元(約4万8000円)以下である。李克強元首相はかつて、中国では月収千元(約2万円)未満の人が6億人、月収2千元(約4万円)未満が9億人に達すると語った。これらの数値を見れば、どちらが実際に優れているかは明らかである。
したがって、牢Aの「斬殺線」論は、極端に単純化された虚構の命題である。アメリカに貧困が存在することを否定はしないが、彼の主張ほど誇張されたものではない。アメリカ社会には依然として健全なセーフティーネットが機能しているのである。
二、牢Aの正体:医学生か中共工作員か
牢Aが自称するシアトル在住の医学生という肩書には、多くの疑問がある。アメリカの医学校は基本的に自国民を対象としており、留学生の受け入れは極めて少ない。シアトルで医師免許(MD)課程を提供しているのはワシントン大学医学部のみであり、同校の公式声明では「受け入れ対象は米国市民またはグリーンカード保持者」と明記されている。したがって、牢Aがその大学で学んでいる可能性は極めて低い。
さらに、アメリカの医学生は3〜4年次に毎日病院での臨床実習を行うため、頻繁に数時間のライブ配信を行う余裕などない。実際、牢Aの配信頻度は2日に1回以上、毎回数時間である。これらの事実から判断すれば、彼は医学生ではなく、むしろ職業的ストーリーテラーである可能性が高い。
また、彼が語る「遺体搬送のアルバイト」についての数々のエピソードも、法的常識や現実性の観点から多くの矛盾がある。中国国外の経験がない視聴者には見抜きにくいが、すでにネット上ではその矛盾を検証する複数の調査が出回っている。
さらに、ある情報によれば、この「斬殺線」キャンペーンの背後では中共中央宣伝部が主導し、その責任者は習近平側近の蔡奇であるという。つまり、「斬殺線」とは単なるネット言説ではなく、中共の政治的意図を帯びた世論操作の一環である可能性が高い。
三、中共が煽る3つの理由:経済崩壊・政権維持・文革再来
なぜ中共はこの時期に、党メディアからネット空間まで総動員して「斬殺線」宣伝を展開しているのか。その背景には主に三つの理由がある。
(1)中国経済の崩壊と中産階級の「再貧困化」
第一の要因は、中国経済の深刻な悪化である。中産階級の「再貧困化」が加速し、失業、住宅危機、債務危機、そして通貨デフレ危機という四重苦に陥っている。デフレは各国が最も克服困難とする経済の罠であり、企業倒産と失業増加の悪循環を招いている。
中共は経済立て直しの見通しを失い、宣伝戦による「心理操作」へと舵を切った。その目的は、「アメリカ人の方が苦しんでいる」という虚像を作り出し、国民に相対的な安心感と民族的優越感を与えることで不満を和らげることである。つまり、精神的な「麻酔剤」としての情報操作である。
さらに、「斬殺線」論は一種の「認知ワクチン」としても機能する。中共は、「来年は今年より厳しくなる」という予告を国民の潜在意識に埋め込み、「それでも中国はアメリカよりましだ」と思わせようとしている。これは魯迅が描いた阿Qの「精神的勝利法」に通じる構造である。
加えて、この宣伝は、中共の政策目標が「貧困脱出」から「最低限の底支え」へと変化したことを暗示している。つまり、当局は経済回復が不可能であると自ら認めているのだ。したがって「斬殺線」の宣伝は、民衆暴発の抑止策でもある。
(2)社会主義体制の優越性を誇示し、政権安定を確保
第二の要因は、社会主義体制の優越性を誇示し、政権の正統性を維持することである。2027年、中国共産党は第21回全国代表大会を控えており、習近平が4期目を目指す正念場を迎える。経済面で成果を示せない以上、習は台湾問題や「新時代の中国的社会主義」路線で党内をまとめる必要がある。
そのため、党メディアは「アメリカの資本主義は安全網のない断崖である」と宣伝し、「中国の社会主義は多重の安全網で人民を支える階段である」と描く。しかし実際には、こうした比較は完全な虚構であり、政権維持のための洗脳宣伝である。
(3)内外の闘争、軍拡、そして「新時代の文化大革命」
第三の要因は、中共が内外の対立と軍備拡張を続け、「新時代の文化大革命」を推進している点にある。今日の中国社会は、経済停滞、個人崇拝、恐怖統治、党内闘争、ネット紅衛兵による監視など、文革期の特徴を再現しつつある。
経済が悪化するなかで中共は軍備と統制を強化し、「準戦時体制」へと国を導こうとしている。これにより人民の支配が容易になり、日本、アメリカなどの外敵との闘争を理由にさらなる愛国キャンペーンが展開できる。
文革期、中共は「外国の人民は極度の苦痛の中にある」と宣伝したが、実際に苦しんでいたのは中国人民だった。今日の「アメリカ斬殺線」宣伝も、この歴史の焼き直しである。
これら三つの要因が改善されなければ、中国は次の三つの災厄に直面する可能性が高い。
第一に、大規模な財産喪失と貧困化。
第二に、「国進民退」(国有企業は発展し、民間企業が退く)による民間経済の衰退。
第三に、政治の文革的逆行である。
2026年中国危機:真の「斬殺線」は中国国内に
中共がこれほど「斬殺線」を強調する背景には、すでに自国の体制危機が迫っているとの認識がある。2026年、中国は苦難の年を迎えるだろう。そして最も恐るべき「斬殺線」とは、人民が真実を語れず、語ることすら恐れる現実そのものである。

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