イラン通貨リアル暴落で大規模抗議勃発 中央銀行総裁辞任 インフレ42%超の危機

2025/12/30
更新: 2025/12/30

イランでは通貨リアルの急落をきっかけに国民の不満が爆発し、12月29日、各地で社会的抗議が集中して発生した。リアルの対ドル相場が史上最安値を更新する中、首都テヘランをはじめ主要都市で大規模なデモが発生し、2022年以来最大規模の抗議行動となった。

全国で抗議活動が拡大する中、イラン国営テレビは、中央銀行のモハンマド・レザー・ファルジン総裁(Mohammad Reza Farzin)が辞任したと報じた。これは政府が直面する財政・社会の両面での圧力の急速な高まりを浮き彫りにしたものである。

同日、テヘラン中心部のサアディー通りや大バザール近くのシュシュ地区では、商人や店主らが一斉に営業を停止し、他の商店にも店を閉めて抗議に加わるよう呼びかけた。警察は一部地域で催涙ガスを使用し、群衆を解散させた。

テヘラン以外でも、イスファハン、シーラーズ、マシュハドなどの主要都市で集会が行われた。前日までは抗議行動は市中心部の携帯電話市場2か所にとどまり、スローガンには政府を直接批判する内容が含まれていた。

今回の抗議は、2022年に全国的な騒乱を引き起こした一連の事件以来で最も深刻なものとみなされている。当時、22歳のマフサ・ジナ・アミニ(Mahsa Jina Amini)が「不適切なヒジャブの着用」を理由に道徳警察に拘束される過程で死亡し、これが全国的な抗議運動に発展して政権を大きく揺るがせた。

インフレ率42.2%急上昇:食料72%高騰、増税予定で生活直撃

リアルは28日に1ドル=142万リアルまで下落し、29日には138万リアルまでやや回復したものの、依然として史上最低水準にある。ファルジン総裁が2022年に就任した当時、リアルは1ドル=約43万リアルであり、この3年間でその価値はおよそ70%失われた。

通貨価値の下落はインフレを押し上げ、生活費を急上昇させている。最近の燃料価格見直しも国民への負担をさらに強めている。公式統計によると、12月のインフレ率は前年同月比42.2%で、前月から1.8ポイント上昇した。食料品価格は1年間で72%上昇し、医療用品も50%値上がりした。世論の間では「インフレが制御不能に近づいている」との懸念が強まっている。

国営メディアによれば、政府は2026年3月21日に始まる新年から増税を予定しており、市場の不安を一層拡大させている。

米制裁・イスラエル衝突が原因:トランプ警告で市場不安加速

2015年のイラン核合意は一時的に経済の安定をもたらし、当時リアルは1ドル=約3万2千リアル前後で推移していた。しかし、2018年にトランプ米大統領(当時)が合意を「重大な欠陥がある」と批判して離脱を表明し、対イラン制裁を再開したことで、イラン経済は再び圧迫を受け、リアルの下落が続いた。

イランは近年、ウラン濃縮度の引き上げや国際原子力機関(IAEA)の一部監視活動の制限など強硬姿勢を強め、さらにミサイルや無人機の能力を強化してきた。これを受けて国連は本年9月、いわゆる「スナップバック」メカニズムを発動し、核関連制裁を再適用した。海外資産の凍結やミサイル開発の制限などが課され、経済的負担が一層重くなっている。

さらに本年6月、イランとイスラエルの間で約12日間にわたる武力衝突が発生し、最終的に米国の仲介で停戦に至った。この衝突を受け、イラン社会では戦闘の再拡大や米国の直接介入への懸念が広がり、市場ではリスク回避の姿勢が強まった。その結果、通貨の下落が加速し、インフレ圧力も一段と高まった。

トランプ米大統領は12月29日、フロリダ州マー・ア・ラゴでイスラエルのネタニヤフ首相と会談した際、イランが再び核兵器や弾道ミサイルの開発を進めた場合、米国はイスラエルの軍事行動を支援すると警告した。さらに、必要とあらばイランへの大規模攻撃を実施する可能性も示唆し、地域情勢の緊張が続いている。

王君宜
王君宜