「またか」という声が、思わず漏れた。
羽田空港の待合エリアで、座席を占有していた中国人観光客の一団に、台湾人観光客が声をかけた。
次の瞬間、そこは政治的な罵声が響く修羅場に変わった。
SNSへの投稿や目撃者の話によると、騒動があったのは12月17日ごろ。早朝の待合エリアで、中国人観光客5人が5列分、合わせて20席ほどを占有していたという。これを見た台湾人観光客2人が声をかけた。空港では珍しくない、よくある注意の場面だった。

ところが次の瞬間、空気は一変した。中国人女性の一人が感情を爆発させ「台湾は中国の一部だ」「政治を分かってから外に出ろ」とヒステリックに叫び始めた。同行者も加わり、周囲の利用客が困惑する中、怒号だけが響き続けた。
途中、男性観光客の一人が仲裁に入ろうとしたが、女性の勢いに遮られた。やがて空港の警察官が到着し、台湾人観光客の女性が日本語で事情を説明し始めると、今度は日本語そのものを侮辱する言葉が浴びせられたという。
「何を言っているのか分からない」「人間の言葉で話せ」「犬の言葉で話しているのか」といった発言もあったとされ、場の空気はいっそう悪化した。

一連の様子は動画で撮影され、SNSに投稿されると瞬く間に拡散した。日本のネットでは「なぜ日本であの態度なのか」「公共の場を尊重していない」といった批判が相次ぎ、中国人観光客全体のマナーを問題視する声も目立った。
一方、中国語圏、とりわけ台湾のネットの反応は、怒りよりも冷ややかだった。目立ったのが「発神経」という言葉である。直訳すれば「神経がおかしくなる」だが、実際には「感情を抑えられず突然キレる」「ヒステリックに騒ぎ出す」といった意味で使われる俗語だ。
要するに、「また感情が暴走しただけ」「もう驚く段階は過ぎた」という受け止め方である。対照的に評価されたのは、台湾人観光客の対応だった。挑発を受けながらも終始冷静で、淡々と状況を説明する姿に、「大人の対応だ」「余計な言い返しをしなかったからこそ違いが際立った」といった声が日本のネットに寄せられた。
(当時の様子)
ジャーナリストで元・産経新聞台北支局長の矢板明夫氏もこの映像を紹介し、多くの日本人が中国の古い文化や料理に親しみを感じてきた一方で、近年目にする攻撃的な言動に失望が広がっていると指摘した。矢板氏は、今回の出来事について、偶然の出来事というより、長年続いてきた過激な愛国教育の影響が表に出たものだとの見方を示している。
また、海外在住の中国系住民からも懸念の声が上がった。マレーシア在住の中国系女性、唐さんは本紙の取材に対し、旅先でのこうした振る舞いが中国人全体の印象を悪化させるだけでなく、同じ中国系住民として強い居心地の悪さや恥ずかしさを感じさせると語った。そのうえで「本来の中国文化は決してこのような攻撃的なものではない。中国共産党と、中国の文化や人々を同一視すべきではない」と強調している。
座席のひとり占めを注意したことから始まり、政治的な叫びと逆ギレで終わる。こうした光景があまりにも繰り返されてきたからこそ、日本でも中国語圏でも、今回は怒りより先に「あきれ」が広がった。
今回の出来事をめぐり、「面倒なことに巻き込まれたくなければ、中国人相手に政治の話をしないことだ」という声もあった。
そうした受け止め方が広がっていること自体が、この騒動の後味を物語っている。
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