オーストラリアに移住していた25歳の中国人ボクサー、周潤琪(しゅう・じゅんき)氏が、ニューサウスウェールズ州で妻と乗車中のバス内で原住民の男女3人に襲われ、頭部を鋭器で刺されて一時意識を失った。
犯人らは「出て行け」「ここは俺たちの土地だ」と罵声を浴びせ、妻にも暴行。髪をつかみ、車外に引きずり出そうとしたという。周氏は救急搬送され命に別状はなかったが、警察は加害者2人を逮捕し、捜査を進めている。
周氏は動画で「当時、反撃しようと思ったが、妻が『職業人生が終わる』と止めた」と語っている。
プロボクサーには、試合以外で暴力を振るうことを厳しく禁じる国際的な倫理規定がある。これは中国に限らず、WBAやWBCなど世界の主要団体でも共通するルールで、たとえ正当防衛であってもリング外で暴力を行使すれば、プロの拳として処分の対象になり得る。周氏の自制は、選手としてのキャリアを守るための冷静な判断だったとみられる。
救急搬送時に一時意識を失った周氏は「妻が全身に擦り傷を負い、精神的にも大きなショックを受けた」と明かした。警察の調査に協力した後、中国へ帰国して療養する予定だという。
河南省新郷市出身の周氏は、これまでにWBA(世界ボクシング協会)やWBC(世界ボクシング評議会)の試合に多数出場し、2023年にはタイ・バンコクで開催されたWBCアジア超フライ級王座戦で初のタイトルを獲得。現在はスーパーバンタム級で世界ランキング160位に位置している。2024年に妻と共にオーストラリアへ移住し、現地でキャリアを続けていた。
事件をきっかけに、SNSでは「なぜ襲われたのか」をめぐって激しい議論が起きた。多くの書き込みが「反中感情」の存在を指摘し「一部の中国人が傲慢な態度で現地社会と摩擦を起こしている」との声が目立つ。
海外では、中国人が公共の場で大声を出す、列に割り込む、ゴミを捨てる、禁煙区域で喫煙する、他人を無断で撮影するなど、マナーを守らない行動がしばしば反感を買っている。また、中国人が金や地位を誇示し、現地の文化を学ぼうとせず「中国が一番」と他国を見下ろすといった傲慢な姿勢も嫌われる要因とされる。
さらに、制度の抜け道を探す、不正を「知恵」とみなす、批判されると「中国を侮辱するな」と声を荒らげる。こうした態度が、現地社会の警戒心を強めていると指摘している。
とはいえ、問題の根は個人の資質ではなく、中共(中国共産党)体制が長年にわたり国民に植え付けてきた思想にあるとの見方が強い。幼少期から「中国こそ最も優れた国であり、他国は下にある」と教え込まれ、同時にモラルを軽視する文化が広まった結果、他文化を尊重する感覚が育たなかった。
なぜ中共は、中国人を外国になじめず、モラルを低下させ、外国人から嫌われるように仕向けているのか。中国問題に詳しいアメリカ在住の時事評論家・唐浩(とう・こう)氏は、「それこそが中共の狙いだ」と語る。中国人を海外で孤立させ、祖国への依存を強める。そのために中共は、外の世界を拒むよう仕向けているという。
事件の背後には、国境を越えても消えない中共の影がある。中国人が真に自由を得る日は、まだ遠い。
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