2025年8月8日、農林水産省の渡辺毅事務次官は自民党農林部会の会合において、コメの需給見通しの誤りを認め、これまで繰り返してきた「コメは足りている」との説明を撤回し、謝罪した。昨夏からスーパーからコメが消え、価格も高騰。政策の失敗と情報認識のズレが原因で、消費者や流通現場に深刻な混乱を招いた。
令和の米騒動
2024年夏から、日本全国のスーパー店頭からコメが消える異例の事態が発生し、「令和の米騒動」と呼ばれる社会的パニックが広がった。この時、農水省は「コメは流通の滞りが原因で、十分供給されている」との認識のもと、需給逼迫や米不足の指摘を繰り返し否定していた。しかし実態は大きく異なり、コメ不足と価格高騰が進行。政府備蓄米の放出も遅れ、現場では消費者や流通業者の混乱が拡大した。
会合では渡辺事務次官が「コメは足りていると申し上げてきたが誤っていた」と謝罪。小泉農水大臣も「令和の米騒動とも言われる状況を作ってしまった一端は間違いなく農水省にある」と責任を認めている。
誤った「コメは足りている」主張の背景
農水省が「コメは足りている」とし続けた理由には、公式統計で前年より生産量が増加していたことがある。「数字の上では需給は均衡している」と考え、さらにコメ高騰や流通不足に対して「流通段階での目詰まり(業者等による在庫抱え込み)」が原因との見方を強調し続けた。また、長年の減反政策(生産調整)による供給コントロールと、「例年通りなら不足は起きない」という先入観が強く作用した。
実際は猛暑など自然条件の悪化や減反による供給余力の低下、加えてインバウンド需要の拡大などの要因が重なり、統計では見えづらい実需の変動が生じていた。主食用コメは前年比で約18万トン増産とされていたが、現場では在庫の急減・価格の高騰が進んでおり、「流通目詰まり論」が現実を説明できていなかった。
農水省が不足認めなかった
農水省は、「コメ不足」を認めれば備蓄米放出=米価下落につながることを警戒。米価維持は農家やJA農協など利権団体の利益維持に直結しており、安易な値下げや自由競争を避ける構造的な圧力が働いたのではないか。さらに、減反政策の延長線上で「過剰生産はなく、不足は起こらない」との組織的思い込みが、実需変化の把握を阻害したと考えられる。
猛暑・精米歩留まりの低下、消費拡大と新米先食いによる在庫減少、価格の急騰など現場の実情と統計上の認識が乖離したにもかかわらず、「新米が出回れば米価は下がる」と想定を変えず、需給逼迫の現実認定を先送りし続けた。これが政府・農水省への批判の根本となっている。
備蓄米の市場放出で米価暴落・政策批判が起こる事態を避けるため、「流通不足」という外部要因に責任転嫁し続けたといえる。
また、官庁として「失政の公表」を避けて社会的信用の維持を狙っていた。
国民の反発と社会的影響
「令和の米騒動」により、スーパーからコメが消え生活が直撃された消費者の不満は爆発した。「コメがない」「値段が高すぎて買えない」といった声がSNS・メディアに相次ぎ、政府の対応や情報発信への不信感が拡大した。農水省の「需給は均衡している」という説明が現実と大きく食い違っていたため、「なぜ本当のことを言わないのか」「生活を守る姿勢がない」と厳しい批判を浴びた。
米価は1年前の2倍以上となり、家計への負担が急増。「行政の情報操作で国民生活が犠牲になっている」「利権保護のため消費者を無視している」との指摘が広がり、報道各紙の社説でも「説明責任」「情報開示」の必要性を訴える論調が目立つようになった。
農水省が謝罪した後も「なぜ事態を放置したのか」「誰が責任を取るのか」と行政・政治への不満が根強く残っている。
今回の謝罪は、米価高騰・供給不足が社会問題化し、もはや無視できない状況へ突き進んだことが直接の契機とみられる。自民党農林部会では「認識と実態がかけ離れている」との強い批判が出され、農水省幹部の謝罪という異例の事態となった。
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