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【秦鵬觀察】NATOサミット トランプ大統領主導で軍事費5%合意と対中戦略転換

2025/06/26
更新: 2025/06/26

2025年のNATOサミット(北大西洋条約機構)は、トランプ大統領の復帰とともに大きな転換点を迎えた。加盟国は軍事費をGDPの5%まで引き上げる歴史的合意に達し、対中国戦略も初めて主要議題に。イラン・イスラエル停戦やウクライナ支援の行方、そして報道を巡るフェイクニュース問題まで、NATOの新時代を徹底解説する。

トランプ大統領がNATOサミットの舞台に登場すると、マーク・ルッテ事務総長は半ば冗談めかして彼を「ダディ(Daddy)」と呼んだ。この一言は、トランプ大統領の影響力を象徴するものであり、アメリカがNATO内で再び主導権を握った事実を如実に示した。

「ダディ」トランプ大統領の帰還 NATOでの圧倒的存在感

6月24日、トランプ大統領はエアフォースワンでオランダ・ハーグに到着し、NATOサミットに出席した。記者団が第5条(いずれかの加盟国が攻撃された場合、他国が協力するという条項)について明確な立場を問うと、彼は「それはあなたの定義による。第5条にはさまざまな解釈がある。だが私は彼らと友人でいるよう努力する」と答えた。この曖昧な発言は欧州各国に動揺をもたらし、一部メディアは同盟の結束に疑問を呈した。ロシアと中国の評論家たちは、NATOのきしみを笑いものにした。

しかし、これはトランプ大統領特有の交渉術にすぎない。まず不確実性を演出し、その後に強い姿勢で譲歩を引き出すという手法である。今回も彼は勝利を収めた。中東訪問での厚遇から1か月半、NATOサミットもまた「トランプ大統領・サミット」と化した。ルッテNATO事務総長をはじめとする各国首脳は、トランプ大統領に対して特別な贈り物を次々と用意し、NATO75年の歴史において前例のない対応を取った。従来、同盟国はアメリカに守られることに甘え、アメリカもそれを受け入れていたが、今や構図が逆転した。

軍事費分担 GDP5%への歴史的コミットメント

長年、トランプ大統領はNATO加盟国の軍事支出が不十分であり、アメリカが過剰な負担を強いられていると訴えてきた。今回のサミットでは、NATO32か国が軍事費をGDPの5%に引き上げることで一致した。従来の2%目標を大きく超えるこの合意は、トランプ大統領の要求を全面的に反映している。

具体的には、ルッテ事務総長が3.5%を武器・兵力・弾薬などの軍事中核に、1.5%を橋梁・道路・ネットワーク防御といった戦略的インフラやサイバーセキュリティに振り分ける案を提示した。この設計により、軍事協力は経済利益と結びつき、アメリカと欧州の防衛産業は活性化する。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策によって生じた貿易摩擦にも整合する内容である。

議題設定 トランプ大統領の地政学的優先事項に連動

サミットの議題は、トランプ大統領の外交方針に沿って慎重に設計された。とりわけイラン問題に焦点が当てられた。ルッテ事務総長は私信や公式演説で、トランプ大統領の迅速な行動が中東の均衡を動かしたと高く評価した。

トランプ大統領とルッテ事務総長が並んで登場したセッションでは、トランプ大統領がイランとイスラエルの停戦を仲介し、12日間の戦争を終わらせた件が話題となった。トランプ大統領は「彼らはまるで校庭で喧嘩する子供のようなものだった。少し喧嘩させてから止めればよい」と語り、ルッテ氏は「ダディ(お父さん)は時に強い言葉を使わなければならない」と応じた。このやり取りは、世界中のメディアやSNSで大きく拡散された。

記者会見では「ルッテ事務総長があなたを『ダディ』と呼びましたが、同盟国を子供扱いしているのですか」と問われた。トランプ大統領は「彼らは子供ではない。ただ、最初は少し手助けが必要なだけだ」と意味深に答えた。

初の対中戦略 中国共産党を議題の中心に

今回のサミットでは、NATOが初めて中国の軍事的拡張を主要議題として扱った。ルッテ氏は開幕演説で、中国共産党(中共)の軍事近代化を「非常に危険」と断じ、台湾海峡における潜在的リスクにも触れた。さらに「ロシアとイランに続き、中国は西側が特別な対応を取るべき次の国家である」と述べた。この発言は、トランプ大統領が中共を脅威と見なしている認識と完全に一致しており、NATOの戦略的調整を示唆するものである。

第五条項の争議に柔軟に対応する

トランプ大統領が一期目の時、NATOおよび西側同盟国に対して行った批判は、強烈な反発を招いた。一方、今回のNATOサミットでは、各国首脳が敬意と柔軟な姿勢で臨む選択をした。

軍事費に関する問題が円満に解決し、同盟国の高い敬意を得たことで、トランプ大統領は明らかに満足した様子を見せた。記者会見では「あなたは第五条を支持しますか?」という質問に対し、「それがここに来た理由だ。支持しないなら、私はここにいない」と即答した。さらに「これらの国々を守りますか?」という問いにも、「もちろん。そうでなければ、なぜここにいるのか」と返した。トランプ大統領はこの場でも巧妙な対応を見せた。

高らかに披露 トランプ大統領とゼレンスキーの会談

NATOサミットは、トランプ大統領の影響力を演出するため、ウクライナのゼレンスキー大統領との公開会談を特別に設定した。この会談は世界中で生中継され、ゼレンスキー氏はスーツ姿で臨み、トランプ大統領に対する敬意を示した。会談後、トランプ大統領は記者会見でゼレンスキー氏を「良い人だ」と評した。

この会談はトランプ大統領の国際的なイメージ向上につながっただけでなく、アメリカの対ウクライナ支援縮小に不安を抱いていた欧州諸国の懸念をも和らげた。ゼレンスキー氏はSNS上で「停戦と真の平和の実現について話し合った」と投稿した。

また、NATO側はトランプ大統領の嗜好を考慮し、スケジュールや共同声明を簡素化し、冗長な議論を避けた。その結果、サミットは団結を示す形で締めくくられた。

総じて、2025年のNATOサミットはトランプ大統領にとって個人的な勝利であると同時に、NATOが新時代に適応する重要な転換点となった。アメリカと同盟国の関係はかつてないほど良好な局面に入りつつあり、この事実は多くの人が理解しているが、特定の政権にとっては悪夢のように映るかもしれない。

フェイクニュース再登場

常識的に判断可能な事実であっても、国やメディアによって全く異なる物語が語られる場合がある。

たとえば、イランとイスラエルの停戦後、レバノン・ヒズボラの拠点ベイルート南部には「トランプ大統領が地面にひざまずき、ハメネイ師に停戦を懇願した」と記された横断幕が掲げられた。

6月25日、イランのバゲリ外務省報道官はアルジャジーラのインタビューにおいて、米軍による週末の攻撃でイランの核施設が「深刻な損害」を受けたと語った。また「先に衝突停止を求めたのはイランではなくアメリカだ」と主張し、アメリカが先に停戦を求めたと述べた。さらに「アメリカはイラン施設への損害を賠償すべきである」と述べ、外交的および法的手段による追及を明言した。

一部のいわゆる世界の主流メディアも、イラン寄りの報道と同様の姿勢を見せている。ニューヨーク・タイムズやCNNは、アメリカとイスラエルによるイラン核施設攻撃が「損傷軽微」であり、核計画を「数か月遅らせたに過ぎない」と報じた。引用された情報源はアメリカの情報機関の報告書であり、「信頼性は低い」とされる。実際には大規模な打撃を確認している。

読者もご存じの通り、米エネルギー省やFBIが中共ウイルスの発生源を調査する際にも「信頼性が低い」と記すことがある。これは引き続き調査が必要という意味であり、中共に責任がないという主張ではない。ゆえに、特定のメディアはこの点を理解しつつ、あえてごまかしているのである。

ここ数日、ニューヨーク・タイムズやCNNの報道は多方面からの反論に直面している。まず、イスラエルの諜報機関モサドはフォルドゥ施設が「完全に破壊された」と明言した。次に、マルコ・ルビオ米国務長官は「もしイランが無傷であるなら、なぜ彼らは停戦交渉を望むのか」と疑問を呈した。

さらに、衛星画像を提供するMaxar社は、爆撃でフォルドゥの山頂が崩壊し、6つのクレーターが発生したことを示し、12発の爆弾が核施設に命中したことを明らかにした。精密な爆撃であったことは疑いようがない。ネット上に投稿された映像でも、巨大な穴から水音が聞こえ、内部施設が無傷である可能性を否定した。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。