北海道釧路市は、釧路湿原周辺で急増する太陽光発電施設の建設を規制するため、国の天然記念物であるタンチョウなどを「特定保全種」に指定する方針を明らかにした。市は2025年6月17日の市議会で、タンチョウ、オジロワシ、オオジシギ、チュウヒ、キタサンショウウオの5種を対象とする条例案の骨子を示し、9月の議会で条例案を提出、2026年1月の施行を目指すとしている。
釧路湿原は日本最大級の湿地帯であり、タンチョウをはじめとする希少な動植物の生息地として知られている。近年、再生可能エネルギー推進の流れを受けて、釧路市内では太陽光発電施設の建設が相次いでいるが、これが湿原の生態系や野生生物に与える影響が懸念されてきた。
条例案では、「特定保全種」が生息する可能性が高い区域での太陽光発電施設の建設について、事業者に生息調査や保全対策を義務付ける。適切な保全対策がなされない場合、建設許可を出さない方針だ。釧路市はすでに2023年7月に「釧路市 自然と共生する太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」を施行しているが、一部事業者による法令違反や自然環境への影響が問題視されており、より強い規制が求められていた。

タンチョウは日本国内での個体数は約1,650羽(平成30年度、NPOの調査による)とされている。世界の総個体数は3,050羽とされ(IUCN Red List,2016)、種の半数以上が北海道東部を中心に生息している。国の特別天然記念物であり、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づき国内希少野生動植物にも指定されている。釧路湿原周辺はその主要な生息地であり、過去には乱獲や開発で絶滅寸前まで追い込まれたものの、地域住民や行政の保護活動により回復してきた経緯がある。
釧路市は2025年6月1日付で「ノーモア メガソーラー宣言」を発表し、自然環境と調和しない太陽光発電施設の設置を望まないという市の意思を明確に示した。しかし、この宣言自体には法的拘束力はなく、実効性のある規制として条例化を進めている。
条例が成立すれば、釧路市は再生可能エネルギーの推進と自然環境保護の両立を目指し、全国的にも注目される事例となる見通しだ。今後は条例の実効性や、事業者・市民との合意形成のあり方が問われることになる。
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