2025年5月施行の「民営経済促進法」で、中国で民間企業家が地方政府による資産没収や冤罪の危機に直面し、命を守るためにアメリカへ逃亡する事例が増えた。企業家の権益保護がうたわれているが、現実には数千、数万の企業が理不尽な圧力や搾取に苦しんでいた。本記事では、実際に資産を奪われ逃亡を余儀なくされた企業家の証言をもとに、中国ビジネスのリスクと現状を詳しく解説する。
最近、アメリカに逃れてきたある起業家が、ロサンゼルスでインタビューに応じ、苦労して築き上げた十数億元の資産を、中国共産党(中共)地方政府の「仕組まれた罠」によって奪われ、本人も冤罪で投獄されかけた恐ろしい経験を語った。
景輝辰氏(仮名)は、成熟した落ち着きの中に憂いを秘め、常に心配事を抱えているように見えた。大学卒業後、数十年にわたり起業し、企業をまるで自分の子供のように思っていた。
彼は悲しげに語った。「心の中で非常に不公平に感じています。一生懸命働いてきたのに、金はあっという間に消え、企業も失ってしまった」1月下旬、彼は慌ただしくアメリカ行きの飛行機に乗り込んだ。道中ずっと不安を抱えていたが、出国しなければ冤罪で投獄される危険があったという。
三年間のパンデミック封鎖を乗り越えた 民間企業の巨頭
景輝辰氏が創業した企業グループは、数十の子会社や支社を持ち、営業許可証の写しによれば、総登録資本金は数億元(1元は約19.5円)に達し、従業員は千人を超えていた。
景輝辰氏は、優れた人材たちと柔軟な経営戦略を駆使し、企業を繁盛させ、地元ビジネス界の「リーダー」として名を馳せた。
「私たちが運営する企業は、地元で常に一位か二位を占め、多くの製品が全国で販売されています」地元の民間不動産業界では、彼の会社がトップに君臨し強大な影響力を誇っていて、彼自身も順調に複数の協会の会長を務めてきた。
パンデミックによる三年間の封鎖で、中国経済全体が大不況に見舞われた。これは中国の民間企業家にとって最も厳しい時期となり、無数の企業が倒産し破産した。地元でこの三年間を乗り越えた大規模な民間企業はほとんど存在せず、景輝辰氏の企業だけが唯一生き残り、帳簿上で数億元のキャッシュフローを蓄積することに成功していた。
景輝辰氏は、自身の業績は、多様な人材の力によるものだと語った。
全国各地の優秀な営業マンに加え、彼の下で働く「副社長」たちも素晴らしい経歴を持つ。企業は経営戦略を柔軟に調整でき、彼自身も特に忍耐強く数十年にわたり各級政府の役人による「賄賂や搾取」の試練を耐え抜き、見事な成果を上げてきた。
外から見ると、景輝辰氏は誰もが羨むものを全て持っているように見えた。
しかし、彼は思いもよらなかったが、すでに権力の暗く汚い手が、彼を狙っていた。
政府が不動産の不良債権を押し付けてきた
インタビューの中で、景輝辰氏は何度もこう語った。
彼は何度も考えた。その結果、自分が地元政府に「罠を仕掛けられ」彼らの「カモ」にされたと解ったのだ。
中共地方官僚が彼を罠に陥れ、その隙に、彼の十数億元(200億円以上)の資産を奪ったのだ。
彼と地元政府との衝突は、不良債権となった大規模な不動産プロジェクトに起因していた。
数年前、彼が住む都市の中共政府の指導部が訪れてきて、市の中心近くにある不良債権の商業不動産を買収するよう求めた。その土地を手に入れれば、市の「不良債権隠し」となり、GDPの向上や税収の増加、さらには都市イメージの改善にもつながると唆された。
当時、私はその買収を望んでいなかった。パンデミックもまだ終息しておらず、面倒な問題が増えることを恐れていたからだ。
景輝辰氏は市の指導者に、資金を出したくなくても出さなければならないと脅迫された事を回想した。官僚は買収後はすべての審査を特別扱いにし、スムーズに進めると約束し「これで安心できるだろう?」と語った。
彼は、官僚の報復を恐れ脅迫に負け、仕方なく十数億元を投じて買収を行った。しかし「市の指導者の約束は全く守られず、むしろ状況は悪化した」と景輝辰氏は語った。買収が完了すると、地方政府は約束を反故にし、以前確認した書類を無視した。開発計画を市の計画委員会に提出し承認を求めると、市政府はこれを阻止し、さらに数億元を支払わなければ開発は検討しないと告げたと言う。
景輝辰氏は驚き、市政府を相手に訴訟を起こさざるを得なかった。
証拠が明確だったため、訴訟は区裁判所、中級裁判所、高等裁判所と進展し、市政府は連敗したが、プロジェクトの計画は依然として承認されなかった。承認が得られなかったため、十数億元のプロジェクトは棚上げされ、新たな不良債権となり、彼にとって耐え難い損失をもたらすことになった。
「民は官と争わず」という言葉が示す通り、中国の民間企業は生まれながらにして脆弱な立場にあり、通常は中共との対立を恐れた。近年、中国本土では民間企業が「遠洋漁業(一網打尽)」のように逮捕される事件が頻発しており、これがその証拠である。
民間企業家を逮捕し、金銭を要求して自由と引き換えにすることで政府の財政難を解決する、これは公然の秘密であり、中共が江西の「紅色根拠地」を設立した時からの伝統である。民間の情報によれば、2023年以降、広東珠江デルタ地域だけでも、約1万社の企業が被害を受けており、そのほとんどが民間企業だった。
景輝辰氏を「捕獲」しようとしたのは地元政府だった。まず、不良債権のビルを購入させられ、次に数億元を脅され提出を求められた。「もしこの金を再び出せば、私の企業は完全に倒産し、キャッシュフローも尽きてしまう」景輝辰氏は暗い表情だった。1千人以上の従業員を抱える企業がつぶれるのを見たくない。そして、彼は納得できなかった。明らかに双方で契約書を交わし、白黒はっきりしているのに、政府がどうして約束を破るのか?
彼は以前にも地元政府の約束違反で損失を被った。不動産価格が半減し、家が売れなくなった。市政府は税収が得られず、住民に「住宅券」を発行する方法を考え出した。
彼はこう説明した。「家を売っても現金ではなく、住宅券をもらい、それが購入代金の代わりになった」
景輝辰氏の不動産開発会社は市政府に協力し、多くの住宅券を受け取ったが、市政府に換金を求めた際には拒否された。
公安局に難癖をつけられ迫害され ひそかに逃亡
市政府との膠着状態に直面し、景輝辰氏は万策尽きたと感じ陳情を決意した。
「このままでは企業は倒産する。市政府が私を追い詰めることになる」「最初はあなたたちが私を誘い、強制し、脅して土地を買わせた。特別扱いすると約束したはずだ。裏で金を要求され、私はそれにも応じたが、さらに何億も要求するのか?」と彼は不満を吐露した。
景輝辰氏は、プロジェクト自体にはそれほどの価値がなく、外部に対する負債もあると語った。「あれこれやって、3〜5億元の損失どころか、さらに8億元(約156億円)の損失が出るかもしれない。そんなにキャッシュフローはない」
彼はあちこち手を尽くし、企業の生き残りの道を探そうとした。省に行き北京でコネを探したが、官僚たちにさらに多くの金を要求され、すべてがうやむやになった。最後にはどうしようもなく、数人の会社幹部を連れて、北京に陳情した。帰ってきた後、彼は何となく不穏な気配を感じた。
ある友人からの情報によると、市の指導者が人を手配し彼を調査しようとしているとのこと。税務や海外留学中の子供への送金を調べているという。その直後、市工商局、税務局、公安局が次々と訪れ、公安局は「企業の安定問題について話したい。不良企業行為を調査する」と告げた。
「皆が知っていることだが、要するに騒ぎを起こすな、政府と衝突しても得るものはないということだ」と彼は語った。
昨年の後半から、景輝辰氏は何度も市公安局に呼び出され調書を取られてきた。最も緊張したのは今年1月下旬の出来事だった。
公安局長、支隊長、警官が、彼に三日間にわたり調書を取った。妻や子供に送金してグリーンカードを取得したことが、逃亡を企てているのではないかと疑われた。公安局長は何度も強調した。「なぜ金を出さない? 政府指導者が金を出せと言っているのだから、出せばいいだろう! なぜ言うことを聞かないんだ?!」
「私は絶対に同意できません。お金を出すと企業は消えてしまいます。今日はこれ、明日はあれと要求され、最終的には企業はなくなってしまうのではないでしょうか」景輝辰氏の説明は、警察に全く受け入れられなかった。その三日間、彼は何度も殴られ、眠らせてもらえない拷問を受け、自分が家に帰れるかどうか心配だった。
不動産を買収してから振り返ると、夜中の2時や3時、あるいは3時や4時にならないと眠れなくなり、以前は全く問題がなかった睡眠に異常をきたし、白髪が増え、耳鳴りも出てきた。公安局から出て4日目、景輝辰氏は誰にも告げずひそかに上海に向かい、アメリカ行きの飛行機に乗って、何十年も住んできた土地を離れた。
「本当に名残惜しい。何十年もやってきた企業は自分の子供のようなものです」取材中、彼は何度も沈黙に陥った。
少し前、中共の役人が知人を使って景輝辰氏に電話で伝言を送り「戻ってきて問題を説明しなさい。戻らなければ(市政府が)資産を没収し、罪に問います。『赤い通告』(国際逮捕手配書)を出して引き渡させる」と伝えてきた。
「ここまで言われたら、もう絶対に戻れない」彼は、政府がすでに人を派遣して彼の会社を接収し、数か月のうちに帳簿上に残っていた約2億元のキャッシュフローはすべて使い果たされたことを知った。
景輝辰氏は、自分と共に起業した地元の民営企業家たちを思い出した。「ここ10年、私の周りの都市の上層にいる企業家たちは、私より少し若い人も年上も、ほとんどが持ちこたえられなかった。倒れる者、逃げる者、投獄される者、諦めてしまう者――基本的にこの四つの結末だ……」
中共が新たに制定した『民営経済促進法』は、民間企業家の合法的経営権益を保護するとうたっているが、景輝辰氏は「共産党にとって民間企業は『義理の息子』にもならない。必要な時は利用され、不要になれば何の価値もない。企業が大きくなれば、どんな手段を使ってでも取り上げる」と語った。
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