夫婦別姓めぐる政情 導入の実現高まる 「共産主義のドグマ」との見方も

2024/12/10
更新: 2024/12/11

国会議員からの導入を求める声や地方議会では制度導入を求める意見書が採択される動きが加速しており、導入への機運が高まる中、選択的夫婦別姓制度には反対意見も存在する。「家族や夫婦の絆が失われる」ことや共産主義にとって好影響となる懸念がある。

夫婦別姓めぐる政情 揺れる自民 

自民党内では、長年選択夫婦別姓について賛否両論がある。世論調査では選択的夫婦別姓の導入に賛成する意見が多数を占めていることから、導入に意欲を示す議員も多くいる。党内では「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」が設立され、約100人の議員が所属している。

一方、導入に慎重な立場の議員でつくる自民党の議員連盟も存在し、伝統的な家族制度の崩壊や保守層の支持離れが懸念要素となっている。

こうした状況から、しばしば導入に関する総裁の立場の揺れが見られる。

石破茂首相は選択的夫婦別姓の導入に関して、総裁選では前向きな姿勢を示したが、首相就任後の衆院本会議では従来の政府見解を述べるにとどめ、政権運営において保守派の支持を維持するためか、慎重な姿勢に転じている。

岸田文雄前首相や菅義偉元首相も、選挙前と在任中、退任後で導入に対する姿勢がやや変化している。

岸田氏は、2021年3月には「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の呼びかけ人として名を連ね、推進派としての活動歴もあり、首相就任前は導入に前向きな姿勢を示していた。2021年の自民党総裁選では、「導入を目指して議論をすべきだ」と述べ、導入に意欲を示していた。

しかし、首相就任後は慎重な姿勢に転じ、国会答弁では「家族の一体感や子どもの利益にも関わる問題であり、国民の理解が重要だ」と強調した。

菅氏は、首相在任中の2020年11月の参院予算委員会で、かつて選択的夫婦別姓を推進する立場で活動していたことを認めつつ、「政治家として責任がある」と述べ、導入に対して慎重な姿勢を示した。

退任後の2022年8月、通信制高校「N高校」と「S高校」での講演において、女子高校生からの質問に対し、「選択的夫婦別姓は先送りすべきでない」と述べ、導入に前向きな姿勢を示した。

一方、安倍晋三元首相は選択的夫婦別姓制度に対して一貫して否定的な立場を取っていた。
月刊誌『WiLL』2010年7月号で、「夫婦別姓は家族の解体を意味する。家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという左翼的かつ共産主義のドグマだ」と語ったとされる。

10月の衆議院選挙においても、自民党は「旧氏使用ができないことで不便を感じている人に寄り添い、運用面で対応する形で一刻も早い不便の解消に取り組む」と公約に記載したが、選択的夫婦別姓の導入に関しては明確な言及を避けた。

その上で、「今後の夫婦の氏制度については、氏制度の社会的意義や運用上の課題等を整理しつつ、どのような形が相応しいかを含め合意形成に努める」とした。

こうした中、石破茂首相は9日の衆院本会議で、選択的夫婦別姓導入の是非について党内の議論を加速させる意向を示し、「自民党の氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム(WT)において議論の頻度を上げ、熟度を高めるよう促す」と表明した。

現在、衆議院では導入に賛成、前向きな党の議席が過半数に達しているとされる。

衆議院での議席数を大幅に伸ばした立憲民主党は選択的夫婦別姓の導入を強く支持。
国民民主党や公明党、日本共産党も導入に支持あるいは前向きな姿勢を示している。

日本維新の会では意見が分かれているが、一定数の議員が賛成している。

こうした状況から、審議入りすれば法案が成立する可能性が高い。しかし、法案成立には与党内の調整や超党派での合意形成が必要であり、今後の議論の進展が注目される。

なぜ今議論するのか?

10月29日、国連の女性差別撤廃委員会は、日本政府に対し、夫婦同姓を義務付ける民法の規定を見直し、選択的夫婦別姓を導入するよう4度目の勧告を行った。婚姻後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならない夫婦同氏制を採用している国は日本以外になく、国際的な人権基準への適合が強く求められている。

日本経済団体連合会(経団連)も、6月に選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める政策提言を発表。提言では、政府に対して改正法案の提出を求めるもので、社会的な機運を高める役割を果たしている。

また、各種の世論調査によれば、選択的夫婦別姓に賛成する国民は全体の6〜7割に達し、過半数を占めている一方、反対する人は3割未満に留まっている。このように、国民の多数が制度導入を支持する状況となっている。

10月の衆院選では、選択的夫婦別姓の導入を公約に掲げた政党もあり、政治的な議論が活発化。特に、衆議院法務委員長に立憲民主党の西村智奈美議員が選出され、同党は一貫して選択的夫婦別姓の導入を支持している。

これらの要因が重なり、選択的夫婦別姓の議論が今、特に注目されていると考えられる。

夫婦別姓と共産主義の意外な繋がり

前述した「(夫婦別姓は)左翼的かつ共産主義のドグマ」と指摘した安倍元総理の見解と同様に、高市早苗経済安全保障担当相は、夫婦同姓が家族の絆を強める伝統的な家族観に基づいているため、選択的夫婦別姓制度が家族の絆を壊す可能性についても懸念を示している。

高市経済安全保障担当相は7月に配信されたインターネット番組「虎ノ門ニュース」で、「戸籍上のファミリーネーム、家族一体とした氏は残したいと思っている」と強調し、選択的夫婦別姓制度の導入に反対の立場を示した。
高市氏は、選択的夫婦別姓制度の導入が戸籍法や民法を変更することになり、日本全体の戸籍制度に影響を及ぼすと指摘。「選択的とはいえ戸籍法や民法をいじった場合に日本全体の戸籍制度に影響が出る」と述べ、慎重な議論を求めている。
このように、夫婦別姓の導入により、日本の伝統的な戸籍制度への影響や家族制度の破壊を懸念する声が出ている。

最も懸念されるのが、共産主義と結びつけられているという点だ。共産主義思想の中には、伝統的価値観および家族制度を破壊することが織り込まれている。

大紀元の社説『悪魔が世界を統治している』によれば、「共産主義者は、家族を私有財産の形態であると考える。私有財産を根絶するためには、家族も根絶しなければならない」と書かれている。