浸透工作 中国領事館に協力して、台湾を邪魔した数々の行為

ここまで浸透か ニューヨーク州知事室の前副補佐官が逮捕

2024/09/05
更新: 2024/09/06

 ニューヨーク州知事室の前副補佐官リンダ・サン(孫雯、41歳)とその夫クリス・フー(胡驍、40歳)は、中国共産党のために秘密裏に活動した疑いで、9月3日の朝に逮捕された。

 リンダ・サンが「外国代理人登録法」に違反し、中国共産党のために行動し、ビザ詐欺、外国人密輸、マネーロンダリングに共謀したと、検察は主張している。夫のクリス・フーはマネーロンダリングの共謀、銀行詐欺の共謀、身分識別手段の濫用で起訴された。二人は公判後に保釈され、旅行が制限され、中国共産党の領事館やその使節団との接触が、禁止されている。

41歳のリンダ・サンは中国で生まれ、5歳の時に両親と共にアメリカに移住し、アメリカ国籍を取得した。彼女は2012年以降、ニューヨーク州の行政部門や州政府機関で。いくつかの高級職に就いており、2023年に解職される前はニューヨーク州のホークル知事の副補佐官として、約1年間勤務していた。

中国共産党のため、リンダ・サンの関与行為の概要

起訴状には、リンダ・サンが2021年1月に、ニューヨークの中国総領事館の官員と行った一連のやり取りが記載されていた。この時期、クオモ氏が州知事、ホークル氏が副州知事を務めていた。起訴状には、この両者の名前は記載されておらず、「政治家1」(クオモ氏)と「政治家2」(ホークル氏)とされている。また、起訴状にはニューヨーク中国総領事館の4名の官員の名前も記載されておらず、それぞれ「中国官員1、2、3、4」と呼ばれていた。

リンダ・サンは、ニューヨーク州政府での職務中に、中国共産党の政府官員や党代表の要求に応じて、多くの政治活動に関与していた。具体的には、台湾政府の代表が、ニューヨーク州知事のオフィスに接触するのを阻止したり、中国と中共に関する問題で、ニューヨーク州知事の発言を変更させたりした。また、中共の代表に対して、無許可でニューヨーク州知事の表彰状を取得し、さらに「政治家2」(ホークル氏)を中国に訪問させるために働きかけ、中共政府からの訪問団とニューヨーク州政府の官員との会議を、手配していた。

また、リンダ・サンはニューヨーク州政府の内部規則や手続きに繰り返し違反し、中国および中共の代表に対し不当な利益を提供していた。これには、中共政府の官員がアメリカに入国し、ニューヨーク州政府の官員と会うための無許可の招待状を提供する行為が含まれる。これらの行為は、移民書類に関連する虚偽の陳述を構成し、外国市民を不法にアメリカに入国させることを助長していた。 

リンダ・サンがニューヨーク知事と台湾総統との会見を阻止など、数々妨害行為

2016年以降、リンダ・サンは中国総領事館の要求に応じて、ニューヨーク州知事オフィスと台湾政府の官員との接触を大幅に減少させていた。

この期間中、サンは中国総領事館の官員と頻繁に連絡を取り合い、電話やWeChatでのやり取りを行っていた。

例えば、リンダ・サンは中国総領事館の1号高官や3号政治官員とのやり取りの中で、台北経済文化代表処(Taipei Economic and Cultural Representative Office, TECRO 台湾の領事館や大使館と同じ機能を持つ)とクオモ氏およびホークル氏との会合を成功裏に阻止したことを誇示していた。

その見返りとして、中国総領事館はサンとその家族に対し、演劇やコンサート、イベントのチケット、さらには中国総領事館の1号高官のプライベートシェフが作った南京風味の塩水鴨などの贈り物を提供していた。

以下に、サンが中国総領事館の要請に応じて、ニューヨーク州政府の官員や一般市民に対して、台湾政策に影響を与えた具体的な事例を示す。

 a. 2016年6月9日、リンダ・サンは中国総領事館の職員に手紙を送り、「台北経済文化代表処はホークル氏がワシントンD.C.で行われるSelectUSAイベントに参加することを確保しようとしており、彼らは別の同僚に招待状を送って、私を避けようとしている。私はこの問題を解決するために努力している」と述べた。中国総領事館の職員が「教えてくれてありがとう」と返事をすると、サンは「すべて適切に処理した」と応じた。

b. 2019年1月、リンダ・サンは中国総領事館の3号官員に対して、「私は領事館との関係を非常に重視しており、クオモ氏の任期中にニューヨーク州と領事館の関係を促進するために多くのことを行った。当然、私はニューヨーク州と台北経済文化代表処とのすべての関係を成功裏に阻止してきた。彼らのオフィスからのすべての要求を拒否している」と述べた。これに対し、3号官員は感謝の意を表し、「現在、私たちの政治部門では、あなたがクオモ氏およびそのチームとの最も重要な接点である」と述べた。

c. 2019年2月27日、リンダ・サンはクオモ氏のスタッフに対し、台湾のある市長との会談の要請を拒否するよう指示した。サンはそのスタッフに「要請を拒否し、直接説明するように」と伝えた。

d. 2019年7月5日、台北経済文化代表処の副処長がリンダ・サンに手紙を送り、台湾の総統が7月12日にニューヨーク市を訪問することを知らせ、リンダ・サンとクオモ氏をマンハッタンでの宴会に招待した。数分後、リンダ・サンはその招待状を中国総領事館の4号官員に転送し、そのイベントを阻止する意向を伝えた。彼女はその後、台湾側に対し、クオモ氏が「その日に、従業員のための夏季イベントを開催するため出席できない」と偽って伝えたが、実際にはそのイベントの日程は台湾のイベントの時間とは重なっていなかった。

e. 2019年7月10日、リンダ・サンは中国総領事館の4号官員および1号官員と何度も電話で連絡を取った。彼女は州政府の行政オフィスの職員に電子メールを送り、「日程に特定のイベントがあるかどうか」を尋ねた。その目的は、州知事が、台湾総統の訪米中の活動に参加しないようにすることだった。

リンダ・サン、台湾総統に対する抗議活動に参加

f. 公開情報および電子メール記録によると、リンダ・サンは2019年7月12日にマンハッタンで行われた「美東華人社団連合総会」など親中共の華僑団体が組織した台湾総統の訪問に対する抗議活動に参加しており、その様子がメディアに撮影されていた。

2019年7月11日、台湾の蔡英文総統がニューヨークを訪れた際、リンダ・サンは親中共の華僑団体が組織した抗議活動に参加しており、その様子はメディアによって記録されていた(ニューヨーク東区連邦検察官事務所提供)

g. 2019年8月6日、新たに就任した台北経済文化代表処の政治事務主任が、リンダ・サンをコーヒーに誘い、自己紹介を行った。翌日、リンダ・サンは中国総領事館の1号高官にこのことを報告し、「ご存知の通り、私はクオモ氏、ホークル氏と台北経済文化代表処との間で行われるすべての正式および非公式な会議を成功裏に阻止した。私自身は彼らとの関係を最小限に抑えている」と述べた。そこでサンはさらに1号高官に台北経済文化代表処の新しいリクエストの処理方法について尋ねた。

「彼ら(台北経文処)の現在のリクエストに関しては、私が州知事のオフィスを訪れることを、避けた方が良いと思う。そうしないと、彼らは私たち(ニューヨーク州知事室)が彼らを認めていると主張する根拠になってしまうかもしれない。私たち(中国総領事館高官とサン)の理解が一致していることを確認したい」

 h. 2019年8月13日、リンダ・サンは台北経済文化代表処の主任に返信し、オフィスの近くにあるチェーンレストランで会うことを提案した。内部通信記録によれば、リンダ・サンは彼女のアジア系事務主任と共に、8月20日に台北経済文化代表処の代表と会った。

 i. 2019年8月21日、リンダ・サンは中国総領事館の4号官員に対して「台北経済文化代表処は、あなたたちよりもある意味で優れている。彼らは定期的に私をコーヒーに誘い、他の役職者も同じだ。もちろん、私たちはコーヒーを飲む必要はなく、私たちは定期的に連絡を取っているが」と述べた。さらにサンは「この関係がより良好になる可能性がある。私のような人材はそう多くはない」と自画自賛した。

 j. 8月末、リンダ・サンはクオモ知事の声明草案を修正し、「中華民国」という表現を削除した。これは、台湾を正式に承認することを避けるためのものであった。

 k. 9月5日、台北経済文化代表処の政治事務主任が、クオモ知事に対して台湾の双十国慶イベント(中華民国の建国記念日)への招待を送ったが、州知事オフィスの複数職員がリンダ・サンに対応方法を尋ねた結果、サンは「参加しない」ことを提案し、9月12日に州知事オフィスのアジア系事務主任に「(お祝い)メッセージを出さず、代表を派遣しないように」と指示した。台北経済文化代表処は10月2日に再度参加状況を確認したが、州知事オフィスは招待に応じなかった。

 l. 2020年1月13日、台北経済文化代表処の大使がクオモ知事に台湾総統選挙の結果を伝え、祝電を送るようお願いした。

「あなたの祝電を台北に伝えることができるのは光栄だ」と送信したが、州知事のオフィスの職員がそのメッセージをサンに転送し、彼女の意見を求めた。サンは「祝電を送らない方が良い。それは政治的な混乱を引き起こす」と答えた。

 m. 2020年4月17日、台湾政府はニューヨーク州に20万枚のマスクを寄付し、台北経済文化代表処はホークル氏との電話会議を求めたが、リンダ・サンはこれに応答せず、台北経済文化代表処の職員は何度もサンに連絡を試み、「アメリカの台湾コミュニティは、なぜ台湾政府がニューヨークに寄付をしたのに州政府の発表がないのかと問い合わせている」と指摘した。サンはこの件を中国総領事館の1号高官に報告し、「ホークル氏が感謝の電話をするよう手配する」と述べた。

 n. 2020年10月25日、中国総領事館の2号高官がクオモ氏のパンデミック対応を称賛した際、リンダ・サンは「私は今でもアジア全体の業務を担当しています。数週間前に国際旅行に関するプレスリリースを発表した際、台湾を国と呼ぶ表現を見て、心臓が止まりそうになりました。幸いなことに、すぐにニュースチームに訂正させました」と述べた。

 o. 2021年12月22日、台北経済文化代表処は、自らの大使と新任のニューヨーク州副知事との会合を手配するよう求めた。サンは内部の電子メールで同僚に「この会議には参加しないことをお勧めします。非常に敏感な話題ですから」と会議を避けるよう提案した。その後の電子メールでは、サンは「台北経済文化代表処との接触はすべてスタッフレベルに留めるべきだ」とさらに提案した。

 p. 2022年4月21日、州知事のオフィスは、5月8日から15日を「台湾系アメリカ人の遺産週間」とするよう要請を受けた。職員がどのように応答すべきか尋ねたところ、サンはその要請を受け入れないことを提案した。5月2日、ニューヨーク州議会のある議員がホークル知事に台北経済文化代表処の大使との会議に参加するよう招待した際、職員がホークル知事がその会議に参加すべきか尋ねた際、サンは「会議は必要ありません。断わってください。彼女(知事)が中台の敏感な問題に巻き込まれることを望んでいません」と答えた。 

見返りとしての利益

リンダ・サンは中共政府やその代表から多額の経済的およびその他の利益を得ていた。これには、夫の中国でのビジネス活動において、数百万ドルの取引を成立させることや、旅行の特典、イベントのチケット、親しい家族や友人のビジネスを促進させること、さらにはリンダ・サンのいとこに、中国での雇用機会を提供することが含まれていた。特に、ニューヨーク総領事館の高官が、リンダ・サンの両親に贈った南京風の塩ダックも注目される。

リンダ・サンと夫のフーは、これらの行為から得た資金を洗浄し、ニューヨーク州ロングアイランドの高級住宅街マンハセットに410万ドルの不動産、ハワイのホノルルに210万ドルのマンション、その他、2024年モデルのフェラーリなどの高級車を購入していた。

蔡溶