今年、若者をターゲットにした老人ホームが中国の浙江、雲南、重慶、合肥などで急激に人気を集めている。ストレスから解放されたい多くの若者が、このような施設を訪れて「躺平」、つまりだらだらとした生活を満喫している。専門家たちは、若者たちの心理状態が現在の経済状況に左右されており、それが経済にも影響を及ぼしていると警鐘を鳴らしている。

一見、「若者」と「老人ホーム」という言葉が組み合わさるとは思いもよらないが、この新しいトレンドは、中国国内で急速に広まっている。鄭州、雲南、重慶、合肥などのカフェ、バー、民宿、農家楽（農家民泊のことを指す）が「若者向け老人ホーム」へと姿を変え、全国にはすでに数十か所が存在するとのことだ。

澎湃新聞によると、雲南省の曼丢古村に開設された「若者向け老人ホーム」の創設者である盧柏克氏は、次のように述べている。「現代の若者は、時代の重圧に押しつぶされそうだ。住宅ローンや自動車ローン、日々の生活費に追われ、多くの人が息苦しさを感じている。人間には休息が必要だ。若者には戦うだけでなく、バランスの取れた生活が求められている。『躺平』が必要な時には、きちんと『躺平』すべきだと私は考えている」

米国在住の時事評論家の唐靖遠氏は、次のように指摘している。「若者専用の老人ホームが出現したことは、現代若者が無意識のうちに求めている、完全なる「躺平」（横になっていること）を映し出している。かつて中国社会において、若者の間で流行した「4つのない青年」や「10個のない青年」という言葉があった。これは結婚せず、家を購入せず、子どもを持たないという選択を意味している。これらは、社会のプレッシャーから逃れるための行動と言えるであろう」

この若者専用の施設では、45歳以上の入居は認められておらず、オフシーズンの月額料金は約1500元（約3万3千円）となっている。施設内では、若者たちはスマートフォンを切り、パソコンを使わずに日々を送る。彼らは太極拳の一種である八段錦（今から800年以上前の宋の時代につくられた古典的な気功）を行ったり、畑仕事をしたり、ただぼんやりと時間を過ごしたり、会話を楽しんだり、コーヒーを飲んだりして過ごしている。

唐靖遠氏はさらに次のように述べている。

「一見すると、詩的で絵画のような雰囲気が漂い、非常に居心地が良さそうに見える。しかし、これは実際には、現代若者が直面している厳しい現実を反映している。彼らは結婚せず、子どもを持たず、家を購入せず、さらには仕事をすることすら望まないと考えているのだ」

しかし、中国の若者が直面している最大の課題は「仕事をしたくない」という気持ちではなく、「仕事が見つからない」という現実だ。3年にわたるパンデミックの後、中国経済はなかなか立ち直れず、デフレが発生し、外資が大量に撤退する事態となった。政府は経済活性化のための政策を打ち出したが、顕著な成果はまだ見られていない。

青年、中年層は家計を支える重要な存在だが、最近「2024年の悲惨なランキング」と題されたリストが中国のSNSで話題になり、若者たちが抱える経済的な苦境と不安を浮き彫りにし、多くの人々の共感を集めている。

若者は社会の労働力として、また税金の主要な供給源として不可欠だ。彼らの心理状態は、経済の動向に左右されるだけでなく、逆に経済にも大きな影響を与えるのだ。

「若者向けの老人ホーム」がブームになる前、中国の若者たちは、「老年スタイル」の消費動向に乗じて、高齢者向けレストランで食事を楽しんだり、シニア大学で、趣味のクラスを受けたり、高齢者向けの旅行団体に参加したりして、早期に老人ホームに入居して老後の生活を先取りすることが流行った。しかし、当時の政府は、この傾向が若者の「躺平」という心理状態を反映しているとは認識せず、政府系メディアはこの現象を「年齢を超えた理解の共有」として称賛し、「若者はより合理的で実用的になっている」と伝えていた。