【独占インタビュー】元中国共産党スパイが自身の過去を暴露(下)

2024/07/06
更新: 2024/07/06

学業の傍ら、エリックは中国国内のインターネット規制を回避するためのソフトウェアを用い、「壁の外」の自由な情報を探し求めた。自分が危険な道へ踏み出していたことも知らずに。

2008年のある日、中国共産党(中共)の公安当局が家の玄関にやってきた。脅迫を前に、エリックの人生は暗転することとなる。

15年にわたるスパイ活動の後、エリックはオーストラリアへと亡命した。最近になり彼は身分を公開し、エポック・タイムズに自身の心理的変化を明かした。

中国共産党スパイ組織の標的

──中共スパイ組織によるオーストラリアの政界、経済界、テック業界に対する工作活動はあるか。

これまでのところ、私が関わった件で華人以外のコミュニティを対象としたものはない。全て反体制派を含む海外在住の華人を標的としたものだ。

──見聞きしたことはあるか。

華人以外のコミュニティの場合もある。例えばタイでは、中国共産党に情報を提供する政府高官もいる。彼らは華人ではなく、本国のタイ人のはずだ。

──オーストラリア政府は、中国共産党による現地社会への工作活動に関心を寄せていると聞く。

中共は時々華人の批判の声を抑圧し、罠を仕掛けて捕えたり、強制連行したりといった極端な手段に訴える。目的は、反対の声を消し去り、華人社会をよりよくコントロールするためだ。

ただし、華人社会のコントロールが最終目的ではない。彼らは現地の華人コミュニティがもつ資源(参政権など)を利用して現地の政治に干渉しようとする。例えば、親中共の政治家を利用して反共の政治家を抑圧するといった行為は間違いなく中共の策略で、実際に行われている。したがって、現地コミュニティと(オーストラリア)政治はなかなか密接な関わりを持っている。

──中共スパイ組織はどのように狙いを定めているのか。

私は標的の選定に携わらず、上層部ですでに決定されたものが私に通知されていた。選定のプロセスに関わっていないため、なんとも言えない。個人的には習近平を批判する声が大きいほど、優先度が高いように感じる。

例えば、インターネット上で発信力の強い、影響力の強い者がいると、その者が標的になることもある。もしくは、誰かの恨みを買ったような場合も狙われやすい。

実際、当時タイにいた邢鑑氏(注1)という人物は江蘇省の公安当局を怒らせたため、公安当局は組織の主要メンバーを捜索した。当時は重慶の公安当局も関わっていて、私も邢鑑氏の行方を追っていた。

強制連行については、ネット上のインフルエンサーが言っているような、対象人物の戸籍が登録されている省によって別々に管轄されるわけではない。ネット上のインフルエンサーは中国共産党の秘密工作をまったく理解していないと言える。

多くの場合、上層部が一つのターゲットを定める。ターゲットと距離的に近いか、資源を有するか、条件が整っているか、地理的に有利かといった要素をそれぞれの地方政府が判断し、任務の遂行にあたる。任務を達成できたところが報酬を獲得するという競争的な仕組みだ。

省政府は支配下の市民のみを管轄するといった杓子定規なやり方ではない。中共はこの方面において大変柔軟かつ実務的で、自らの手足を縛るような硬直した方式を採用することはない。

同業者へのメッセージ

──オーストラリアにはおよそ1200人のスパイと中国共産党内通者がいるというが、彼らに伝えたいことは。

私には彼らの気持ちがわかる。彼らも一枚岩ではなく、もう中共の下で仕事をしたくないと思っている人もいるが、法律上の懸念から言い出せない人もいる。

例えば、オーストラリアでスパイとして一定期間潜伏した場合、すでに現地の法律を犯している可能性がある。オーストラリアではこの方面で赦免を与えられるような特殊な措置がないことを心配し、自分から亡命を宣言する人はあまりいない。

彼らの気持ちや心配事、懸念は理解できる。彼らの中には中共と密接な関係を持ったり、仕事を通じて幸せになれた者もいる。イデオロギー的な要素もあるだろうが、より多くは個人的な関係が大きい。

海外でスパイ活動にあたる者と担当連絡者との間には個人的な感情が生まれ、深い関係が築かれやすい。時として、このような個人的な感情からスパイを続ける場合もある。

本当に賢いスパイであれば、いつでも逃げ道を用意しておくべきだということだ。もしこの方面のことをまだ考えていないならば、考えるべきだ。中共が永遠に政権を維持することはなく、彼らの天運も尽きようとしている。頭が良い者ならば、私の言っている意味がわかるはずだ。

亡命を決断した理由

──以前言及した「V字旅」(注2)の動画が亡命のきっかけになったか。

導火線ではあった。ただし私自身が知る限りでは、中国の秘密警察が知らないような秘密も多い。これまでも、こうした秘密を隠すことに細心の注意を払ってきた。

私個人の考え方だが、武力なしに中共を倒すことは大変難しいと思う。

タイへ派遣されたばかりのころに私はこの方面での試みを進めようとしたが、うまくいかなかった。それで華涌氏がタイに来た時、(上層部が私に)彼に接近するよう指示を出したことをきっかけに、中共の資源を利用して「V字旅」の計画を前に推し進めることができた。

その後、重慶当局は私に次のことを伝えてきた。一つ目の動画が投稿された翌月に中共内部で特別捜査本部が設置され、「V字旅」を組織した者(エリック)の捜査を行うことになった、と。後にこの件は北京の最高指導部まで持ち上がり、指導部は大変な怒りようだった。私が「V字旅」の中で話していた理論のいくつかは、実は指導部がかなり恐れるものだったからだ。

捜査本部は私を見つけた後に逮捕すると言ってきた。そこで重慶当局が説明をしに行き、関連するアカウントをすべて消去するよう求めてきた。ところがその後、信頼度を示すために聞かなかったようなことを私に質問し出したり、私を強制的に帰国させたりと、尋常でないことが起きるようになった。

コロナ禍の当時タイで大学に通っていたが、帰国のコストは極めて高かった。大学の授業料は帰国の費用より高かったが、当局はコストを背負ってでも私を帰国させようとした。私は帰国が面倒だったので自分で学費を負担すると申し出たが、当局は頑なに帰国を求めたため、嫌な予感がした。帰国後は雰囲気がおかしいことに気づき、出国の準備を始めた。

つまり、「V字旅」はかなり直接のきっかけだった。とはいえ、中共を裏切る準備は以前から整えていた。学生だった頃からすでに準備を始め、卒業の頃にはまもなくそれを実行に移そうとしていた。決して、突然決めたことではない。

「V字旅」について指導部に目をつけられた後は、当局が密かに自分を調査しているのではないかと思い、身の危険を感じた。私は当局がやってくるのを座して待つわけにはいかなかったので、頃合いを見て亡命した。

──亡命しなかった場合の境遇を予見していたということか。

その通り。中国の体制内では特定の利益を共有するグループが存在し、グループに影響が波及しないように自分の尻拭いをしてくれることがあるが、指導部まで話が上がった今回の場合、中央が水面下で調査を進めているリスクがあった。

私を庇ってくれるかつての上司が異動させられるなどの異常な動きも見られた。そのような状況での一番賢いやり方は、賭けに出ず、危険を察知するや否やそこを離れることだった。

注1:河南省の反体制派である邢鑑は、かつてタイに滞在していた際に中国共産党の警察の越境捜査を受けた。邢氏がインターネットで江蘇省漣水県のとある腐敗案件を暴露したところ、江蘇省の私服警察とタイ警察の共同捜査・逮捕に遭った。

注2:「V字旅」は、エリックが上層部の命令を遂行する際に設立した偽の反中共民兵組織。「V字旅」をSNSのアカウント名として動画を投稿し、武力を持って中共を終わらせることを呼びかけ、タイに身を隠していた反体制派で芸術家の華涌氏の信頼を得た。

安平雅