【プレミアム】アルゼンチン、安全保障で脱中共へ ミレイ政権は米国急接近

2024/05/30
更新: 2024/05/30

過去10年間、アルゼンチンにおける中国共産党の軍事的存在感は高まる一方だった。幸いなことに、新しく就任したハビエル・ミレイ大統領は安全保障の分野において米国との関係強化に努めているとアナリストは分析している。

2012年、アルゼンチン・ネウケン州と中国共産党が締結した合意文書により、アルゼンチンとチリとの国境付近に深宇宙追跡施設を建設することとなった。この動きは米国の関心を引き寄せた。

契約期間は50年と長期にわたる。合意により、中国共産党(CCP)はアルゼンチン国内で自由に活動できるようになった。エスパシオ・レハノとして知られるこの施設は2021年に正式的に発表され、アルゼンチン南東部沿岸端のリオ・ガジェゴスにある中国の地上追跡施設の前例となった。

エスパシオ・レハノにおける施設の契約が結ばれて以来、アナリストやアメリカ政府高官は、中国が安全保障や監視の問題でアルゼンチンとの協力を拡大していることに繰り返し懸念を表明してきた。

米南部軍司令官のローラ・リチャードソン将軍は2023年の下院軍事委員会の公聴会で、「PRC(中華人民共和国)は、資源を採取し、港を築き、略奪的な投資慣行によって政府を操り、潜在的に軍民両用が可能な宇宙施設を建設する能力を拡大している」と述べた。

2023年12月10日、中国と密接な関係を築き、2022年に中国共産党の「一帯一路」構想に参加すると署名したアルベルト・フェルナンデス大統領の後任として、ミレイ大統領は就任した。選挙運動中、ミレイ氏は共産主義政権を軽蔑していると公言し、社会主義政策から離れ、自由主義の方向に向かう意向を示した。

ミレイ大統領は就任後のおよそ7か月の間に、大規模な経済改革を実施し、政府の規模を縮小した。

フロリダ国際大学のジャック・D・ゴードン公共政策研究所で国家安全保障のアソシエイト・ディレクターを務めるリーランド・ラザロ氏は、ミレイ政権が中国共産党よりもアメリカとの防衛関係を優先していることについて、「ポジティブな指標」であると語った。

「たった半年で、ミレイ氏はすでに何度も訪米している」とリーランド・ラザロ氏は語った。「ブリンケン国務長官と会談し、ホワイトハウスを訪れた。これらの取り組みは(米南部軍司令官の)リチャードソン将軍にとって良い知らせだろう。もちろん、バイデン大統領にとってもだ」

リチャードソン将軍は4月にアルゼンチンを訪問し、同国空軍にハーキュリーズC-130H輸送機を寄贈した。さらに、同国の最果てにあるティエラ・デル・フエゴ州のウシュアイア海軍施設を視察した。

リチャードソン将軍は声明のなかで、「私たちはアルゼンチンと緊密に協力する。安全保障における私たちの緊密な取り組みが、私たちの国民、私たちの国、そして私たちの半球に、永続的かつ前向きな形で利益をもたらすことを約束する」と述べた。

ウシュアイアでは、リチャードソン将軍は基地に駐屯する軍人らと会談し、「世界貿易に不可欠な航路を守る」彼らの任務について意見交換した。

アルゼンチン国防省の発表によると、ミレイ大統領は、リチャードソン将軍がウシュアイア海軍施設にある「統合海軍基地」の進捗状況をも確認したと明らかにした。

アルゼンチン政府関係者によると、両者は「国防に関連する法制度の近代化」についても話し合ったという。

いっぽう、前政権の下では、中国共産党が優遇されていた。

2023年6月、ティエラ・デル・フエゴ州のグスタボ・メレラ知事は、マゼラン海峡の近くに「多目的」港湾施設を建設する許可を中国共産党に与えた。

なお、3人の国会議員と市民連合のメンバーが公式的に訴えを提起したため、この計画は立法府の反発を受けることとなった。原告らは、メレラ知事がアルゼンチンの国家安全保障に害を及ぼしていると非難した。

その後、このプロジェクトに進捗があったことを示す公的記録はない。

関係性のシフト

ラザロ氏によれば、アルゼンチンが欧米諸国と安全保障上の協力を深めたいと考えていることは、同国のルイス・ペトリ国防相が4月にデンマークから24機のF-16戦闘機を購入する歴史的な契約に調印した際に明らかになった。

「今日、我々は1983年以来、最も重要な軍事航空取引を締結する」とペトリ氏はプレスリリースで述べた。

「この取引のおかげで、私たちは航空主権を回復し始めており、私たちを試練に陥れるあらゆる脅威から社会を守ることができると胸を張って言えるのだ」

2022年当時、アルベルト・フェルナンデス大統領率いる前政権は、中国とパキスタンが共同開発したJF-17戦闘機の購入を検討していたと複数のメディアが報じていた。マウリシオ・マクリ前政権の閣僚は匿名を条件に取材に応じ、フェルナンデス政権時代にJF-17戦闘機の購入が検討されていたことをエポックタイムズに認めた。

中国共産党はアルゼンチンの防衛分野に多くの投資を行ってきたため、このような注目すべき武器取引は示唆に富むものだ。

米下院外交委員会は報告書の中で「2009年から2019年にかけて、中国は南米5か国(アルゼンチン、ボリビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラ)に合計6億3400万ドル相当の武器を移転した」と指摘した。

「ベネズエラ、エクアドル、ボリビアそしてアルゼンチンは、中華人民共和国(PRC)の武器装備を購入し、軍事演習に協力し、教育交流や軍人の訓練を行なっている」

宇宙に対する野心

中国共産党の戦略的目標において、宇宙へのアクセスは重要なウェイトを占めている。

そのため、4月初旬にミレイ大統領がエスパシオ・レハノの視察を望んでいるという報道が流れたとき、専門家たちは、それは中国から離れるという彼の国家安全保障上の動きを裏付けるものだと述べた。

米陸軍士官学校でラテンアメリカ研究を担当するエヴァン・エリス教授はエポックタイムズの取材に対し、ミレイ大統領の行動は良い兆候を示していると語った。

アルゼンチンの戦後政治を主導したのは、左派的な「ペロン主義」だった。そのようなペロン主義を信奉するクリスティーナ・フェルナンデス・キルチネル政権下で結ばれたエスパシオ・レハノ契約では、事前に中国共産党の役人の許可を得なければ、たとえアルゼンチン大統領であっても、施設内に入ることはできないことになっていた。

約款の第3条では、アルゼンチン政府関係者は施設の「通常の活動」を妨害することはできず、立ち入る場合にはしっかりとした申請をしなければならないとしている。

「リーダーが視察に来るとき、問題は『ああ、ここに大きな望遠鏡がある』ということだけではない。問題は、それが何を追跡するために使われるのかということだ」とエリス氏は語った。

中国はエスパシオ・レハノについて、深宇宙探査や月探査、軌道上の衛星との通信のためのものだと主張している。しかし、エリス氏はその他の人と同様、宇宙探査だけがその目的である可能性は極めて低いと考えている。

「その施設が戦争時にどのように使われるのか。それが大きな問題だ」とエリス氏は語った。

エリス氏は、構内で 「決定的な証拠 」が見つからなかったからといって、自動的に悪質な行為が否定されるわけではないと主張する。

「理論的には、そこにいるはずのない人々や、収集すべきではないデータを見つけることができたかもしれない。しかし、事前に告知することが必要なため、隠蔽など簡単だ」とエリス氏は語る。いっぽう、内部の機器の種類を調べれば、何らかの手がかりが見つかるだろうと述べた。

マクリ政権下の元大臣はエポックタイムズの取材に対し、今年5月初旬にエスパシオ・レハノの施設に対する公的な検査が行われたと語った。

「さらに懸念すべき問題がある。ネウケン州にある施設は、中国がラテンアメリカとカリブ海地域に設置した11の地上局と宇宙研究施設のひとつに過ぎない。奇妙なことだ。これほど多くの中国施設を持っている国・地域は他にあるのか」

ラザロ氏はゴードン研究所のデータを引用し、中国のエスパシオ・レハノ基地とリオ・ガジェゴス施設が、極軌道に近い理想的な監視位置を提供していると指摘した。極軌道は、宇宙から地球全体を観測できるため、データの収集や送信、追跡を行う際に有用だ。また、軌道を周回する衛星は地表に近いため、通信の解像度も向上する。

また、スパイ活動を行おうとする政府にとっても戦略的なメリットがある。

2022年のアメリカ国防情報局の報告書によれば、中国とロシアは「軍事的効果を高める」ために新しい宇宙システムを開発している。それらはアメリカの宇宙システムの性能を低下させると同時に、「宇宙の軍事化」を進めている。

米国との安全保障協力について、エリス氏は「中国との契約を壊さない範囲で、ミレイ政権はあらゆることをするだろう」と考えている。

中国はアルゼンチンの第2の貿易相手国であり、エリス氏とラザロ氏の両方が、ミレイ大統領は中国との関係を崩さないと見ている。

ただし、アルゼンチンが中国との防衛協力を冷やすようなことがあれば、ラザロ氏は中国が次のアルゼンチン政権が選ばれるまで待って、関係を再び強化しようとするだろうと述べている。その政権が中国共産党にとって有利なものである可能性がある。

アルゼンチンは今、ラザロ氏が「ミラクル・ミレイ」と呼ぶ現象を経験している。ミレイ大統領は就任後数か月で、約20年ぶりの予算黒字を発表した。

アルゼンチンの大統領官邸「カサ・ロサダ」のプレスリリースによると、ミレイ大統領は「我々は大胆な行動を取り、歴史上最も野心的な経済安定化プログラムを実施した」と述べている。

しかし、ラザロ氏は「ミラクル・ミレイがどれだけ続くのか」という疑問を提起している。

アルゼンチン人は持続的な変化を実現するために「かなりの苦労」をしなければならず、これは人々の不満を招きかねない。アルゼンチン人は指導者に対して気まぐれであるため、2027年末の次の選挙で政権が変わる可能性もある。

ラザロ氏は「アルゼンチンからは前向きな姿勢を見て取ることができる」とし、今のところ米国の安全保障にとっては良い状況だと述べた。

南アメリカを拠点とする記者です。主にラテンアメリカに関する問題をカバーしています。