反ユダヤ主義に対抗することを目的とした法案が米国下院で可決され、憲法修正第1条の権利に影響を及ぼす可能性について党派を超えた議論が巻き起こっている。
反ユダヤ主義啓発法(the Antisemitism Awareness Act)として知られるこの法案は、5月1日、321対91の賛成多数で米下院を通過した。
上院院内総務のチャック・シューマー氏(民主党)は、この法案について口を閉ざしたままで、上院での採決を確約していない。
同様に、ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官は、ジョー・バイデン大統領が法案に署名するかどうかについて回答を拒否しており、法案の最終的な運命は不透明な状況だ。
法案反対派によれば、条文が曖昧なため、最悪の場合、言論の自由を冷え込ませる結果になりかねないという。 賛成派は、そのような懸念は「誇張されすぎている」と指摘している。
この法案は、米国の大学キャンパスで反ユダヤ主義的な事件や暴力が多発している中で提出されたものだ。
この法案は、公民権法第6章に基づいて、人種、肌の色、宗教を理由に連邦政府が資金援助する学校、クラブ、その他の組織への学生のアクセスを拒否するなど、特定のあからさまな差別的行為からユダヤ人を保護するものだ。
この法案では、政府(主に教育省)は、ある事件が反ユダヤ主義的かどうかを判断するために、国際ホロコースト記憶連盟(IHRA)の反ユダヤ主義の定義を使用することが求められる。
この法案は、IHRAの定義を政府全体で採用したドナルド・トランプ前大統領による2019年の大統領令を成文化するものだ。
しかし、この法案が、合法的にイスラエルを糾弾する生徒を標的にするために使われるといった懸念の声もあがっており、また学校がそのような生徒を処罰せざるを得なくなる可能性を危惧する声もある。
憲法修正第1条の懸念
この法案を批判する人々は、規定が曖昧であるため、憲法修正第1条で保護されている言論の自由を抑圧する恐れがあると述べている。両党の議員はそれぞれ異なる理由でこの懸念を表明している。
一部の民主党の議員は、IHRAの反ユダヤ主義の定義に含まれる条項が、イスラエルに批判的な人々を罰するために使用される可能性があると指摘している。
反ユダヤ主義的言論にあたるというIHRA定義は以下の3点だ。
1)イスラエル国家が「人種差別行為」であると主張すること
2)イスラエルの政策をナチスの政策と比較すること
3)イスラエルと他国との間に「二重基準」を適用すること
IHRAの定義には、イスラエルに対する批判が「他のどの国に対してもなされるような」ものであれば、それは反ユダヤ主義ではないと記されている。
ユダヤ系のジェリー・ナドラー下院議員(ニューヨーク州選出)は、これらの理由で法案を批判している。
ナドラー氏はIHRAの定義に含まれる反ユダヤ主義の例は、イスラエル国家に対する至極まっとうな批判を引き起こすかもしれないが、それだけで、それらの批判は、必ずしも違法なハラスメントや反ユダヤ主義を構成するわけではないと述べている。
最悪なのは、IHRAの定義がこうした側面を持つことで、学校はイスラエルに批判的な言論をする生徒に対して懲罰的な措置を取らざるを得なくなり、連邦政府からの資金援助が受けられなくなる恐れがあるということだ。
アメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union)は、法案の定義を「過度に広範である」とし、「保護される政治的言論と保護されない差別を同一視している」と指摘しした。
イリノイ州選出の民主党議員デリア・ラミレス氏とカリフォルニア州選出の民主党議員ロー・カンナ氏も、エポックタイムズへのコメントで同様の懸念を表明した。
「これは憲法修正第1条の言論の自由を侵害するものだと懸念している」とカンナ氏は述べた。
法案のスポンサーであるニューヨーク州選出のマイク・ローラー下院議員は、エポックタイムズに対し、「反シオニズムは反ユダヤ主義だ」と批判を一蹴した。
IHRAの反ユダヤ主義の定義には、「ユダヤ人がイエスを殺したと主張すること」を反ユダヤ主義として記述する条項が含まれていることを指摘する保守派もいる。
この主張は聖書から引用されたものであるため、保守派の批判者たちは、この法律がキリスト教学校を標的にしたり、その学校から資金を引き出したりするために使われるのではないかと危惧している。
マット・ゲイツ下院議員(共和党、フロリダ州選出)とマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党、ジョージア州選出)はこのように批判。
この法案の支持者たちは、これらの懸念はIHRAの定義の「誤認」であり、名誉毀損防止連盟のジョナサン・グリーンブラット事務局長は、単に「神殺しの古い反ユダヤ神話を助長している」と述べている。
支持者たちは、懸念は 「大げさ 」
法案支持者は、この批判は見当違いであり、既存の公民権保護をユダヤ人に拡大したに過ぎないと主張した。
ネット上の反ユダヤ主義と闘うCyberWellの創設者兼CEOであるタル=オル・コーエン・モンテマヨール氏は、言論の自由に対する反応は「大げさだ」と指摘した。
彼女は、法案は「憲法上の権利を侵害するために利用されることから人々を特別に保護する」と述べ、法案が憲法修正第1条の権利に影響を与えないことを明確にする法案の最後の部分を指摘した。
反ユダヤ主義キャンペーンの理事であるアリー・リプニック氏は、エポック・タイムズ紙に対し、この法案は現行法を大きく変えるものではないとコメントし、保護される言論には何の影響も及ぼさないと主張した。
同氏は、学生が「イスラエルには生存権がない」と書いた看板を掲げているだけでは、イスラエルの権利法案の定義では反ユダヤ主義的とみなされるものの、大学がその学生に対して対応を迫ったり、何らかの処罰を科したりすることはない、と指摘している。
しかし、学生活動家が反ユダヤ主義的な看板を掲げながら、ユダヤ人であることを理由に大学の図書館のドアを封鎖した場合、これは違法な差別であり、大学に注意を喚起する必要がある。同氏が言うには、「これを決めるのは言葉ではなく行動だ 」と。
トランプ大統領時代に教育省公民権局を率いたケネス・マーカス氏もこの意見に賛同している。
「反ユダヤ主義のほとんどの形態は……いかなる法律にも違反していない。 現在、憲法修正第1条で保護されている言論は、今後も保護され続けると考える」と語った。
一方、議員たちは、全米の大学キャンパスで続いている抗議活動への必要な対応として、この法案を提出した。
「X」の記事で、ローラー下院議員は、「この法案は、大学の指導者たちがやりたがらないこと、つまり、こうした憎悪行為を非難し、全国のユダヤ人学生を支援するものだ」と述べた。
ブライアン・スタイル下院議員(共和党、ウィスコンシン州選出)はエポックタイムズに対し、「これは、全米の大学キャンパスに出現している反ユダヤ主義に反対を表明する絶好の機会だと思う」と言った。
シューマー氏もホワイトハウスも法案の次のステップについては口を閉ざしているため、法案が成立するかどうかは不透明なままだ。
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