【プレミアム報道】医療費を踏み倒す不法移民 米国納税者が数十兆円を肩代わり

2024/04/02
更新: 2024/04/02

アメリカでは医療保険を持たない不法移民が病院で治療を受け、そのまま医療費を踏み倒すことが後を絶たない。毎年の不法入国者が数百万人を数えるなか、数十兆円もの医療費はアメリカの納税者が肩代わりしている。

国土安全保障に関する米下院委員会が最近発表した報告書によると、国境の危機に対応するための費用は年間で推定4510億ドル(およそ68兆円)に上る。そのかなりの部分が不法移民の医療費に充てられているという。

米税関・国境警備局の最新データによると、昨年度確認された不法移民は320万人を超え、新記録となった。国境での不法移民の検挙数は2021年度から48%増加し、2019年度のおよそ3倍になっている。

大挙して押し寄せる不法移民は医療を必要としているが、医療費を払えないのが現状だ。

1月、米国南部にある医療機関「デンバー・ヘルス」のドナ・リンCEOは記者団に対し、2023年には8000人の不法移民が市の医療システムをおよそ2万回利用した、と語った。デンバー・ヘルスでは呼吸器疾患や胃腸疾患、歯科疾患、喘息、糖尿病などを治療している。

デンバー・ヘルスの広報担当者デーン・ローパー氏によると、昨年、デンバー・ヘルスが負担した無保険者の医療費総額は1億4000万ドル(およそ212億円)だった。エポックタイムズの取材に対し、そのうちの1000万ドル(およそ15億円)以上が「新しくやってきた移民のための医療」に使われていると語った。

不法移民に割り当てられる医療資源は業界全体で見るとごくわずかだが、デンバー・ヘルス・システムにとって、補償対象外医療費はここ数年で劇的に増加している。

ローパー氏によれば、2020年の補償対象外費用の総額は6000万ドルだったが、2022年には1億2000万ドルに倍増した。

「私たちがずっと強調してきたように、医療費を支払えない新移民に医療サービスを提供することは、ただでさえ資金が緊迫する医療サービスの負担増につながるだけだ」

ローパー氏はまた、不法移民の問題に対処するためには、地方や州、連邦政府の対応が欠かせないと語った。

しかし、医療費未払いの問題に直面しているのはコロラド州だけではない。

メキシコ系女性を搬送する米国の救急隊員。2020年8月撮影(John Moore/Getty Images)

メキシコとの国境に近いアリゾナ州のユマ地域医療センターでCEOを務めるロバート・トレンシェル氏は、不法移民を治療し安全に退院させるためには、一般的な米国人の3倍もの人的資源が必要だと述べた。

トレンシェル医師は昨年の米議会公聴会で、「(不法)移民の中には軽症でやってくる者もいるが、その多くは重大な病気を抱えているのだ」と述べた。「透析や心臓カテーテル、心臓手術が必要な移民患者もいる。その多くは重症だ」。

同氏によれば、米国に入国して医療機関に受診する不法移民の多くは、60日間以上ICU病棟に滞在することになる。患者の大部分は、出生前治療をほとんど受けていない妊婦であり、結果として30日以上の新生児医療を必要とする新生児が増加している。

トレンシェル医師は昨年、エポックタイムズの取材に対し、不法移民が街の医療サービスを蹂躙しており、病院にはわずか12カ月で2600万ドルの医療費未払いが残ったと語った。

ERの注意義務

1986年に制定された米国の「緊急医療・労働法」は、公的医療保険制度であるメディケアに参加する公立病院に対し、「支払い方法や保険の有無にかかわらず(中略)緊急医療を求めるすべての人に対し医学的な診察をしなければならない」と定めている。

保険制度を運用する連邦機関CMSによると、「病院職員が患者に国籍や在留資格について直接尋ねることを義務付けることはない」ため、診察を不法移民の具体的な数を把握するのは困難だ。

メキシコとの国境に近い南カリフォルニアでは、不法移民の流入により地元住民が大きな影響を被っている。2人の医療関係者は1月、エポックタイムズの取材に対し、医師の数が足りないため、現地住民は診察まで長い時間待たされていると語った。

南カリフォルニアのある病院の医療従事者は、職を失うことを恐れて匿名で取材に応じた。エポックタイムズ記者に対し、地元では不法移民が後を絶たず、「医療システム全体が砲撃を受けているようだ」と語った。

「私たちの医療制度はもう手一杯だ。それに加えて結核やCOVID-19、その他の病気まで加わっている」と彼女は言う。

トラックに飛び乗るのに失敗して足をケガした男性。メキシコ国内で撮影。(Spencer Platt/Getty Images)

カリフォルニア州で新たに制定された法律により、州内に居住する不法移民は無料で医療サービスを受けられるようになった。州議員や連邦議員の試算によると、この法律は納税者に年間30億ドル(およそ4540億円)から60億ドル(およそ9080億円)の負担を強いる可能性がある。

不法移民問題が深刻なニューヨークでは、市や州の官僚が不法移民の医療費負担を長い間受け入れてきた。

2014年6月、ビル・デ・ブラシオ市長(当時)が「移民の医療アクセスに関するタスクフォース」を設置して以来、ニューヨーク市は不法移民が無料で医療を受けられる手段の拡大に取り組んできた。

「ニューヨーク市には、在留資格の有無や支払い能力にかかわらず、すべての市民が必要な医療を有意義に受けられるようにする道義的義務がある」と、デブラシオ氏は2015年の報告書で述べている。

報告書によると、2013年には不法移民の64%近くが無保険だった。それ以来、何万人もの不法移民が市内に定住している。「不法移民の無保険率は、ニューヨーク市の他の非市民(20%)の3倍以上であり、市の他の地域の無保険率(10%)の6倍以上である」と報告書は述べている。

報告書によると、医療従事者は患者の在留資格を尋ねないため、タスクフォースには「非正規滞在患者に特化したデータ」が不足しているという。

いっぽう、医療従事者の中には、緊急時以外のサービスに対する保険や支払いの明確な道筋がないため、不法移民らが選択肢のなさから病院に行ってしまうのではないか、と唱える者もいる。

「非常識だが、もう何年も前からそうなっている」。テキサス州で救急看護師として働くダナさんは、フルネームを伏せることを条件に、エポックタイムズの取材に応じた。

ヒューストン近郊の大病院に勤務するダナさんは、自分の目の前で多くの移民が絶え間なく通り過ぎていくのを目の当たりにしてきた。彼女によれば、不法移民の多くは、簡単な抗生物質で済むような治療可能な病気でやってくる。

「お金が払えず、保険にも加入していない場合、GP(一般開業医)の多くは診察してくれません」とダナさんは言う。

「非正規滞在者」も大体同じような状況でヒューストンにやってくる傾向がある。その多くは国境を越えてすぐにヒューストンにたどり着く。ダナさんが遭遇する一般的な健康問題には、脱水症状、治癒していない骨折、呼吸器疾患、胃の病気、妊娠に関連する懸念などがある。

「これは新しい問題ではなく、旧来の問題が悪化しているだけだ」

ヒューストンの病院で患者を搬送する緊急救命士と看護師 (Brandon Bell/Getty Images)

メディケイドの問題

不法移民が利用する主な政府系医療資源のひとつがメディケイドだ。不法移民のように、通常の公的医療サービスを利用できない人は、全て緊急メディケイドの受給資格がある。このプログラムは、対象となる病院での補償対象外医療費の支払いを支援するものだ。

しかし、いくつかの抜け穴により、不法移民でも通常のメディケイドサービスを使うことができる。例えば、難民や亡命希望者、キューバ人またはハイチ人であれば、「適格非市民」として受給資格が与えられる。

しかし、不法移民によるメディケイド利用の大部分は、依然として州レベルの給付金と緊急医療によるものだ。

議会報告書は、「不法滞在外国人への緊急サービス」にかかるメディケイド費用の総額が2021年度には70億ドルを超え、2022年度には50億ドルを超えるというCMSのデータを取り上げた。両年度とも2020年度の30億ドルから急増した。

メディケイドに携わる職員で、仕事への配慮から「ジェニファー」の名で取材を受けた女性は、州レベルでは不法移民が健康保険制度の給付金を利用するのは簡単だと指摘した。

「ジェニファー」によると、例外事案が州からCMSに送られる場合、「却下されることは極めてまれだ」という。

「ジェニファー」はまた、メディケイドの支出が最も多い州の多くは、不法移民を連邦移民局から守る政策や法律を持つ避難州(サンクチュアリ)であることは驚くべきことではないと述べた。

さらにジェニファーは、各州がCMSのガイドラインを回避するための方法を持っていると述べた。「簡単なことではないが、不可能ではなく、実際に行われているのだ」

不法入国した移民の数を数える国境警備隊員。(John Moore/Getty Images)

米国に到着した不法移民の第一世代は、どのような健康検査にも合格するほど健康である傾向があると「ジェニファー」は言う。しかし、第二世代以降は病気がちになり、より多くの医療資源を必要とする傾向にある。もし家族全体が不法移民として入国した場合、通常は緊急メディケイドを利用するか、あるいは医療サービスをまったく利用しないという。

エポックタイムズはメディケイド・サービスに対し、病院が報告した補償対象外医療に関する詳細なデータを提供するよう求めたが、返答を得られなかった。

疑問の声

フロリダ州では2023年に制定された法律により、メディケイドを受け入れる病院は、患者の在留資格に関する情報を収集し、州に提出することが義務づけられている。ただし、本人が回答を拒否することは可能だ。

ロン・デサンティス州知事は、この法案は「連邦政府の無謀な政策に反撃し、フロリダの納税者が不法移民のツケを払わされないようにするものだ」と述べた。

エポックタイムズはフロリダ州医療管理局に対し、不法移民に起因する補償対象外医療費の総額を詳細に記した最新報告書を要求したが、回答は得られなかった。

フロリダのジャクソン・ヘルス・システムは、保険未加入者に割引サービスを提供しているが、支払いの手配はしていない。エルシー氏と名乗る担当者はエポックタイムズの取材に対し、「保険未加入の患者には70パーセントの割引を提供している。ただし、全く保険に加入していないことが条件だ」と語った。

患者が病院で身分証明書の提示や個人情報の提供を拒否した場合、別の部署が関与するとエルシー氏は語った。「もし、患者が情報の提供を拒否しつつ(医師の)診察を希望する場合、エスカレーション・チームが登場する。なぜ診療時に情報の提供を拒否するのか、その理由を確認する」。

患者の診療を行う女性医師。パラムスで撮影(Kena Betancur/AFP via Getty Images)

他の州議会議員も、不法移民の医療に税金が使われていることを非難している。ノリーン・ハモンド州議会議員(共和)は2023年の記者会見で、イリノイ州の「不法移民のための医療給付プログラムには、2024年度で9億9000万ドル(およそ150億円)の費用がかかると見積もられている」と述べた。2023年から7億6800万ドル(およそ116億円)増え、増加率は実に346%だ。

「イリノイ州の納税者は、不法移民に無料で医療を提供するために、すでに20億ドル(およそ302億円)以上の費用を負担している」と州議員のC.D.ダビッドスマイヤー氏は2023年11月の声明で述べた。「あとどれくらい払えば済むのだろうか」。

ダビッドスマイヤー氏は2023年10月、TRUST法を廃止する法案を提出し、イリノイ州の不法移民の避難州としての地位を終わらせた。

メリーランド州では、議員たちが民間保険という選択肢を作ろうとしている。3月8日、メリーランド州上院は、不法移民が州内で医療保険に加入できるようにする法案を可決した。

国会議員の中にも、実際に動く者が出始めている。

1月17日、リチャード・ハドソン下院議員(共和・ノースカロライナ州)とブレット・ガスリー下院議員(共和・ケンタッキー州)は、「連邦納税者の血税が不法移民へのメディケイド給付の管理や提供に使われるのを防ぐ」ことを目的とした法案を提出した。

「カリフォルニア州のようなリベラルな州は、抜け穴を悪用して、勤勉な納税者を犠牲にして不法移民にメディケイドを支給してきた」とハドソン議員は述べた。「これは法律違反であるだけでなく、不法入国を奨励するに等しいことだ」。

南アメリカを拠点とする記者です。主にラテンアメリカに関する問題をカバーしています。
南カリフォルニアを拠点とする受賞歴のあるジャーナリスト