<独自>「何てことをしてくれるのか」在日朝鮮人、ミサイル放つ金正恩体制に怒り

2024/03/24
更新: 2024/03/24

何てことをしてくれるのかーー。北朝鮮が弾道ミサイルを発射したとの報を受け、在日朝鮮人のパク・ヨンさん(仮名、40代)は肩を震わせた。おりしも日本と北朝鮮はサッカーで予選枠を競っていた。冷酷で傲慢な金正恩体制、日本での静かな営み。二国間のはざまで在日朝鮮人は複雑な思いを抱えていた。

先日行われたサッカーのワールドカップ・アジア2次予選で、日本代表は北朝鮮代表に1-0で勝利した。その後、日本サッカー協会は26日に予定されていた平壌での対戦が中止となったことを明らかにした。日本テレビによると、北朝鮮から平壌以外での開催を希望する申し出があり、第三国での実施を調整しているという。

日朝サッカーの期間中にも、金正恩体制は弾道ミサイル発射を続けるなど、脅威を振りかざしている。この状況に、在日朝鮮人社会でも複雑な思いを抱える人は少なくない。

朝鮮学校の卒業生であるパクさんは、「ミサイル発射のニュースを見るたびに身の置き場がない、という思いだ。『何てことをしてくれるのか』と震えるような気持ちになる」と打ち明ける。

パクさんは幼少期を岐阜県の朝鮮学校で過ごした。祖父母がに船で日本に入り、両親は朝鮮銀行に勤務した。このため、おのずと朝鮮学校への進学が決まったという。在日朝鮮人の中では比較的裕福な家庭だった。

朝鮮学校の指導は日本政府の管轄外にあり、教師や教科書は当局組織である朝鮮総連が管理している。

差別や偏見に見舞われることは幼い頃から珍しくなかった。小学生の頃には「帰れ」近隣住民と言われ、大学生になってからも韓国の留学生から「どっちかはっきりしろ」と揶揄された経験がある。「帰れと言われてもどこへ行けばいいのか。今の私のままでは悪いのか」とパクさんは心情を吐露する。

朝鮮学校時代は、ミサイル発射や拉致問題が報じられるたびに、学校には抗議の電話が殺到し、街宣車が怒号を上げて周囲を回るなど、緊張感に包まれることもあったという。

高校の卒業旅行で平壌へ

かつて朝鮮学校では、高校の卒業旅行で北朝鮮を訪れることが恒例だった。パクさんが在籍していた頃、毎年新潟港から北朝鮮の貨客船「万景峰号」に乗って平壌を訪れていた。北朝鮮に到着すると、舗装されていない道路をバスで数時間揺られ、ようやく平壌の都市の街並みが現れたという。

歓迎セレモニーでは化粧をした児童たちが見事な朝鮮舞踊を披露した。ガイドや監視役が付き添い、一般市民との交流は許されなかった。「北朝鮮当局による引き込みが目的だった」とパクさんは振り返る。現在、こうした卒業旅行は行われていない。

平壌にある朝鮮中央歴史博物館の看板(SANMIGUEL /Pixta)

サムライブルーやなでしこジャパンのサッカー試合では、北朝鮮から数百人の北朝鮮人の入国が許可された。在日朝鮮人も選手たちを空港で出迎え、スタジアムで声援を送った。国旗を振り笑顔を見せる彼らだが「日本でどのように振る舞っているのか、監視されている」(パクさん)は語る。

日本政府の独自の制裁措置により、サッカーのような国際試合の特例を除き、北朝鮮籍者の日本への入国は原則禁止となっている。朝鮮総連系の朝鮮学校に通う児童・生徒・学生数は、2019年時点で5千人以上とされる。

在日朝鮮人の中には、勤勉で医師になった人もいれば、パチンコやホテル経営で実業家になった人もいるという。ただ、パクさんは「在日の人々が日本で結婚して子供を産んでも、子供が再び朝鮮学校に通うことはないと思う。北朝鮮で住むことに期待はない。誰があのような辛い暮らしを望むだろうか」と心情を吐露した。

パクさんは、「(金一族によって朝鮮が)どう見てもおかしくなっているのは皆わかっている。多く知ることはできないが、北朝鮮に暮らす人々は想像を絶する辛い思いをしているだろう」と語る。

北朝鮮によるミサイル発射と拉致問題に対し、日本政府は厳しい姿勢を崩していない。3月13日の衆院予算委員会では、松原仁参院議員が北朝鮮の対応を厳しく批判した。松原議員は、拉致被害者の帰国に関して「帰国しなかった人に関してはなぜできないのかという合理的な説明を求めるのは当然だ」と訴え、2002年の日朝首脳会談での対応の轍を踏まないよう求めた。

また、松原議員は北朝鮮の背後にある朝鮮総連の存在にも言及。「国連安保理の制裁に加え、日本独自の厳しい要求を朝鮮総連に突きつけるべきだ」と訴えた。

日本政府の主張は一貫して「拉致問題解決なくして、日朝関係の正常化はあり得ない」(安倍晋三元首相の北朝鮮交渉の基本方針)である。識者は、サッカーや災害地震のお見舞いで、外交的態度の融和に動くべきではないと釘を刺す。

日本で生まれ育った若い世代は、北朝鮮への帰属意識が薄れつつあるという。現に、朝鮮学校の生徒数は減少の一途を辿っている。パクさんは、朝鮮学校が英ブリティッシュカウンシルや、仏アンスティチュ・フランセといった言語と文化の交流機関への変化もありうるのではとみている。「朝鮮語や朝鮮舞踊は残されてほしい」と述べた。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。